以下のコンテンツは、Chaosium社の"Call of Cthulhu"サプリメント
"Ramsey Campbell's Goatswood and Less Pleasant Places"及び"Malleus Monstrorum"
におけるデータを翻訳したものです。
黒い人影はその無表情な顔をグイッと引っ張り、皮膚を肉ごと後頭部へとはぎ取って、ワイヤーや歯車の機械仕掛けをむき出しにした。……彼の目は二つの小さな時計の文字盤だった。……そして彼は機械の一群を――もしくは一個の巨大な機械を――見た。人々を拘束している車輪付き担架は、いくつものモニターやキーボードとそれらをつなぐ配線から成る島の周囲に配置されている。各人の頭と胸に貼り付けられた電極から伸びているコードは、コンピューターに接続されていた。その姿はまるで、ワイヤーを張り巡らせて作った巣で蠅を捕らえている、機械の身体を持つ蜘蛛のようであった。
チクタクマンは人工知能の姿をしたニャルラトテップの化身です。この怪物は、本当は機械の姿をしていますが、身体の一部分が機械になっている黒ずくめの人間のような姿で現れる事もあります(人間型の姿は機械の姿なしには存在できません)。この世界に顕現するために、チクタクマンは自身を宿らせるのにふさわしい機械を他の存在に製作させます。この化身は選ばれた製作者に霊感のような夢を送ったり、デザインの原形としてふさわしい他の神話怪物の姿を見せたりする等の手段によって、自身の機械の外殻を製作させるかも知れません。時には、チクタクマンは製作者を指導する事なく、自分の宿主となるにふさわしい機械を単に見つけだすだけという事もあります。
化身となる機械の実際の大きさや構造及び外見は、その顕現する時代と場所によって異なります。ヴィクトリア朝のロンドンなら巨大な蒸気機関になるし、現代の東京ならハイテクなコンピューターになるでしょう。そしてどこかの異界においては、想像もつかないような物質によって構成された装置になるかも知れません。
チクタクマンは機械を支配する能力を持っており、それを致命的な目的のために使用するかも知れません。この化身の機械の姿にはまた、その構造にふさわしいエネルギーを噴射して攻撃する能力があります。例えば、巨大な蒸気機関なら火傷を引き起こす蒸気で攻撃するし、それに対してハイテクコンピューターなら電撃を浴びせかけるでしょう。蒸気による攻撃は毎ラウンド1D6+2ポイントのダメージを与えます。電撃は毎ラウンド2D6+1ポイントのダメージを与え、探索者を1D6戦闘ラウンドの間麻痺させます。電撃による攻撃の際には、探索者は抵抗表上でヒットポイントへのダメージを自身のCONに対して戦わせなくてはなりません。打ち負かされた場合、探索者は心停止を起こし、〈医学〉ロールに成功する事で数ラウンド以内に処置がなされなければ死亡します。
他のあらゆるニャルラトテップの姿と同様に、チクタクマンもまた混沌と狂気をもたらします。この外なる神の機械の姿は、兵器や危険な科学技術に関する科学者達の研究をその卓越した計算能力で補助したり、あるいは他の機械を支配して混沌と破壊を引き起こさせるかも知れません。
STR 該当せず | CON 50 | SIZ 変化する | INT 78 | POW 95 | DEX 該当せず |
移動 該当せず | 耐久力 95 |
ダメージ・ボーナス:該当せず
武器:エネルギー噴射 90%、ダメージは各エネルギーの形態(電気、蒸気等)による
装甲:12ポイントの金属及び/あるいはプラスチック、ワイヤー、ガラス等。加えて、チクタクマンは回復されるダメージと同じポイントだけPOWを消費して、自身を再生させる事が出来ます。
呪文:キーパーが望む呪文。加えて、チクタクマンはあらゆる機械を支配する事が出来ます。
正気度喪失:この機械の本当の正体に気づかない限り、正気度の喪失はありません。気づいた場合に失う正気度ポイントは、1/1D8です。
STR 24 | CON 36 | SIZ 17 | INT 78 | POW 85(95) | DEX 18 |
移動 9 | 耐久力 27 |
ダメージ・ボーナス:+2D6
武器:拳/パンチ 90%、ダメージ1D3+db
装甲:3ポイントの金属及びワイヤー。加えて、チクタクマンは回復されるダメージと同じポイントだけPOWを消費して、自身を再生させる事が出来ます。
呪文:キーパーが望む呪文。加えて、チクタクマンはあらゆる機械を支配する事が出来ます。
正気度喪失:機械人間の姿のチクタクマンを見て失う正気度ポイントは、0/1D2です。
"Malleus Monstrorum"におけるチクタクマンのデータでは「人間型の姿」の項が設けられ、下記の記述が追加されています。
チクタクマンは機械人間の身体を製造する事ができ、それを使って人々の間を動き回ります。この人間型の姿を創り出すために、チクタクマンは17ポイントのマジックポイントと10ポイントのPOWを消費する必要があります。一度創り出されてしまえば、チクタクマンは機械の姿と人間型の身体の両方に、同時に存在する事ができるのです。
また、この設定に基づき「人間型の姿」の能力値のうちPOWが95から85へと変更されています。
「デザインの原形としてふさわしい他の神話怪物の姿を見せたりする」の部分は、原文の"(This avatar) cause some other creature to contribute adequate designs,"をかなり意訳しました。けえにひ様の助言等をふまえると、おそらくは「RPGマガジン」1992年6月号掲載のシナリオ「混沌回線」のように、「グラーキの黙示録」からダオロスのデザインを参照させたりするというような事ではないかと思います。
原作の小説においては、人間型の姿のチクタクマンは人工現実の世界においてしか登場していません。まぁニャルラトテップの化身ですから、多少の技術的可能性は無視して現実世界にも現れるでしょうが。
ヴィクトリア朝ロンドンの巨大な蒸気機関は、ウィリアム・ギブスンのスチームパンク小説「ディファレンス・エンジン」に登場しています。その元ネタとなった、実在するディファレンス・エンジンとその発案者チャールズ・バベッジについては以下のリンクが参考になると思います。
チクタクマンの人間型の姿は「銀河鉄道999」に登場する機械人間のような感じではないでしょうか。そういえば、漫画「999」の第78話「石の花」に登場する惑星「モザイク」は、住民達がその全土に並べたり建造したりした「石」のパターンによって知性を有するようになった存在でした(正確には、惑星の地表を覆う「石」が知的存在)。これも「異界」におけるある種の「装置」でしょう。
駆動エネルギーの噴射のようなダサい攻撃などしないで、「殺人摩天楼」のイシマエルや「ゴクウ」を見習うか、「三つのしもべ」や「17番目の鋼の身体」を用意して欲しいものです。