「タクテクス」1988年11月号(ホビージャパン)の記事より
(レイアウト及び彩色以外は原文のまま) クトゥルフ座談会――“クトゥルフの呼び声”特集によせて――“クトゥルフの呼び声”の特集によせて、“黄昏の天使”の筆者である有坂純氏、RPGデザイナーの門倉直人氏、当社“クトゥルフ”担当の武田敏裕の3氏に集まっていただき、“クトゥルフ”の魅力や今後の予定などを語ってもらいました。 武田(以下T):クトゥルフの面白さはどこにあるのでしょうか? 門倉(以下K):クトゥルフはシナリオが、やっぱ面白い。よくできている。 有坂(以下A):書き方ですね。 K:というかクトゥルフは必要十分なシステムじゃない。非常にバランスがとれている。難しくもなく、簡単でもない。 A:多すぎもなく、少なすぎもなく。必要なものがあればその場で何とかルールが作れてしまうし。 K:雑多なルールをカットしてホラーに必要なルールを拡大しているのが面白い。 A:でもお金を集めるために四苦八苦してしまう。 T:学生くらいのキャラクターは作りにくい。バイトしなくちゃならない。 A:ジャーナリストのキャラクターがいて、今回はどうやって編集長に言い訳して取材費をだしてもらおうか考える(笑)。 K:そういうときはパトロン見つけるのが手っ取り早い。 A:実はパトロンが一番あやしい。 T:パトロンになろうという人は疑われる。 K:人を信じちゃいけない。 A:人は信じられる。信じられないのは人じゃない。“ヨグ=ソトース”に出て来るようなのはすぐばれる。 K:シナリオの指示をそのまま読めばすぐばれてしまうからロールしてから教えてあげればいいんじゃない? A:とりあえず撃てばわかる。 K:といったプレイはしてはいけない(笑)。 A:クトゥルフはシナリオが悲惨な終わり方をする。キャンペーンで困る。時間を戻すしか方法がいまのところない。 K:知り合いが後を継げば? A:(NPCの)狂言回しまで死ぬと困る。 K:それは必ず生かしておく。またケイオシアムのシナリオでは狂気に陥った人間をうまく生かしていない(のが不満)。 A:劇と心理学の勉強をするとクトゥルフ以外のRPGにも応用できる。スタニフラフスキーを研究するとか。 K:ホラーは精神的なものの奥底にあるものが重要なモチーフになるから、そこを巧く使って表現したいと思いますね。実際に分裂病の人はどんな夢をみて、どのように世界を見るか知っているとプレイもふくらむ。 T:そこまではなかなかできないけど、身近にプレイできるのはクトゥルフの特徴だね。 A:特に今度の“黄昏の天使”は1980年代の日本が舞台だからやりやすい。 K:現代は恐いものが少ない。 A:人間が一番恐い。人の心が。チェルノブイリみたいな人災もある。 K:1920年代はせいぜい拳銃片手に、で世界も融通がきいた。今は世界が結ばれててローカルでは収まりがつかない。 A:自分でもローカルにはしない。 T:現代兵器も結局無力だから、今も強大なものに対するという意味の恐怖は同じじゃない? A:ホラーの本質は代わっていない。コズミックホラーですから。 K:地球上が舞台である以上、地球上に未知の部分が残されていないと、面白くない。 A:今でもアフリカや海はまだわかりませんよ。広い地域がまだ未探査。 K:現代でもシナリオは作れるけど、学問が細分化されていて良く知っている人の突っ込みがある。 A:80年代のクトゥルフは破滅の物語が書ける。1920年代には“ヨグ”や“ユゴス”みたいなのはあまり似合わない、もっと局所的な恐怖がよい。 K:“ユゴス”は面白かったけどなあ。 T:アメリカ人が作るとああなる。 A:アメリカ人には歴史がないから。 K:4月に“ガスライト”がでたけど、プレイはたいへんだ。 A:単独のシナリオではあらゆるRPGの中で最長ですね。次は「チャウグナー・ファーンの呪い」ですかね。“カース・オブ・クトーニアン”に入っている。 K:「トートの剣」も好き。“クトーニアン”には面白いシナリオが多い。 A:“コンパニオン”の中の「四つの神殿」のアフリカ行くのは面白い。“アフリカ探検”みたい。 K:「気違いサーカス」もやりやすい。 A:あと「オークション」もいい。品物を読んでいるだけで面白い。 K:やっぱりクトゥルフは単発ではやりたくない。キャンペーンでやりたい。 A:これからはキャンペーンですよ。シナリオを有機的にむすびつけてほしい。 K:“ニャルラトテップ”を出してくださいよ。 A:あれはすごい。 K:あれは最高峰ですよ。 A:ドリームランドものもあります。ファンタジーとしてプレイもできる。 K:モンスターの中ではミ=ゴが人気ですね。 A:出しやすい。ビジネスやっているから。 T:海ではディープワンですね。大いなる種族は使いづらい。未来からくる。地球に未来はないことになる。 A:でも人類はアザトースに滅ぼされてしまうことになっている。私のシナリオもそこまで書きたい。 K:最初のが売れればそこまでいける(笑)。 A:あとはクトゥルフ、ハスター。 K:クトゥグァ、形が決まっていないから。他のモンスターではシュブ=ニグラスどまりですね。 A:木にそっくりで気持ち悪い。 K:森にダーク=ヤングでしょ、山のミ=ゴ、海のディープ・ワン、地下のグール。 K:夜のゴーントも使いづらい。 A:ユゴスに行かないと使えない。 K:シナリオの洗練度では“ユゴス”が一番。 A:そう。 K:展開がよい。日常的なところから事件が始まって、それを解決しても少し謎が残り、それが後でまた膨らむ。 A:ところで門倉さんがローリング'20を舞台にシナリオを書いているとか。 K:キャンペーンです。上海、ロンドン、パリ……と、半分書いた。 T:楽しみですね。 K:待たれても困る(笑)。 T:門倉さんは有坂氏の今度のシナリオの内容をご存じですか? K:そうそう、“黄昏の天使”ではどのようなカルトが紹介されているの? A:いや今回は日本のカルトというよりは、伝記がモチーフになっている。 K:インドの宗教とかは? A:それもそのうち、今回は神楽をいれてある。 K:有坂氏のシナリオは女性の使い方がアニメ的。陰を背負っているんですよね。 A:そういうのが好きだから。でもアニメ的ではないですよ。宿命と戦う女性は美しいんです。 T:自分の中の血と戦うんですよね。日本的。 K:男性キャラはどのようなのが? A:吉沢警部。その他美少年キャラが(笑) K:醜い人は? A:2部からでる。黄昏の天使は4部構成の大キャンペーンの第1部なんです。今回は出雲神話がバックで、出雲の生き残りが主人公。オリジナルのモンスターや組織もある。 T:大いに期待したいところです。 本当はもっと有坂氏のシナリオや遊演体のロールパフォーマンスの話を聞きたかったのですが、気心の知れた3人が集まったせいかどんどん話が雑談めいてしまいまして申し訳ありませんでした(T)。 |