第7話:ぶきみなぶきみな黒い影【2】
ガンバは、森の入り口で声の限りボーボの名前を叫ぶが反応がない。とうとう、森の奥に入ろうとするのを見て忠太やヨイショが慌てて引き止める。
しかしガンバは
「ボーボは俺の友達だい!」
と、叫ぶと森に消える。
「ケッ、俺たちにとってもよ!」
「全く…世話のかかる野郎だぜ!」
仲間達は、そう言いながらもガンバの後を追う。森に入ったガンバは、なおもボーボの名前を叫んで歩いていたが…
「こっちだ!」
突然、草むらから声がしてガンバの手を何かが引っ張った。何かいる…!
「にゃろー、齧ってやる!」
ガンバは、草むらの影に向かって飛び掛かる。ヨイショ達も後に続いた。だが、そこにいたのはガンバ自身。唖然としている彼らの前に
木の枝が落ちてきた!見上げると、木の上に何かいる。
「野郎、おまえか?俺たちを襲ったのは!」
ガンバが食って掛かるが、相手は落ち着いた声で言う。
「慌てるな。俺は、お前たちが捜している仲間のいる場所を知っている」
そして、降りてきたその姿は…ただのリスである。
「こっちだ、付いて来い」
相手は、さっさと森の中に駆け出す。ガンバ達は相手のことを怪しみながらも、付いていくしかなかった。やがて彼らは、森を抜けると
海岸に突き出た崖に出た。そこに朽ちた木が立っていた。その木の上では別のリスがクルミとクルミを叩き合わせて、音を出している。
「異状は?」
「ありません」
ガンバ達が、例の「音」の正体があれだったのかと、見上げていると
「お前たちが、ザクリの園に近づかないように、警告してやったんだ」
「ザクリの園…?」
「あの湖の周辺を、そう言うんだ」
「あの、真っ黒い化物の正体は何だ?」
ヨイショが急き込んで聞くが
「死にたくなかったら、近づかないことだ」
と、素っ気無い返事。しかも、自分はさっさと木の上の穴に入ってしまう。
「どうした?早く来い!」
「も、もし何か企んでいたら、承知しないぞ!」
ガンバが大声で念を押すが、相手は黙って中に消える。ともかく、中に入ろうと彼らは木に登ってみた。中は、深い穴になっている。
「イエナ、今帰った」
「クリーク兄さん…」
中には、別のメスのリスと横になっているボーボの姿があった。ガンバ達は、ボーボの無事を確認して一安心。
「みんな逃げちゃうし、慌てて走ったら木の根につまづいちゃったんだ…そこを、イエナちゃんに助けられて…」
「でも、もう大丈夫よ」
「はあ…おかげさまで」
イエナの親切な態度に、ボーボはデレデレ状態。
「ちっ、いい気なもんだぜ。赤くなってやがら」
イカサマの揶揄に、ボーボはますます顔を赤くする。
「何だか安心したら、お腹が空いちゃったあ」
これには、イエナも吹き出しガンバ達は大笑い。それが、一段落したところでヨイショが尋ねる。
「ところで…さっきの続きだがよ、あの真っ黒な化け物の正体は、一体何だ?」
だが、クリークの態度は変わらない。
「それを知ってどうする?」
「決まってんじゃんか、みんなでやっつけてやんのよ!」
意気込むガンバに、クリークは冷たく言い放つ。
「忠告しておく。馬鹿なことは考えずに、早くこの島から出て行くことだ」
その態度と言い草に、ガンバは怒って食って掛かる。
「てやんでぇ!何で、俺たちが出てかなきゃならないんだよ!」
その時、シジンの耳が切迫した音を捉えた。
「…しまった!」
クリークは、顔色を変えて表に出てた。ガンバ達が、唖然としていると
「ザクリが…ザクリが動き始めた合図だわ!」
イエナが、震える声で言った。
「まずい…こちらに近づいてくる」
クリークは、仲間に叫んだ。
「隠れ家を移動する合図を送れ!」
振り向きざま、イエナにガンバ達を海岸まで送るように指示し、隠れ家を移動する準備を始めるという。
そして、ガンバ達に向かって
「暗くなるまでに、この島から離れろ。さもないと、ザクリから逃げることすらできなくなるぞ」
と、言い残すと仲間を集め、何事か指示を出した。
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