第7話:ぶきみなぶきみな黒い影【3】
取り残されたガンバ達は、仕方なくイエナの案内で海岸線に出た。
「この水は、湧き水ですから飲めます…そして、食料はあの岩場にあたし達がいざと言う時のためにとって置いたのが、あるはずです」
あとは、いかだを作って出港すればいいだけだ。
「それじゃ…」
「あ、あの…」
去ろうとするイエナを、ガンバとボーボが同時に呼び止めた。順番を譲られて、ガンバが尋ねる。
「あのさあ、ああやっていつもザクリから逃げ回ってんのか?」
「逃げる以外、あたし達にはどうすることもできないのです…」
「なぜ、戦わないんだ!?」
「兄さんには兄さんの…いえ、あたし達にはあたし達の考えがあるんです」
「だから、考えてたってしょうがないじゃないか!」
「どうせ逃げるなら、この島から逃げ出しちまえは、いいんだぜ?」
イカサマの言葉に、彼らは口々に一緒に行こうと言うが
「それは、できません!」
きっぱりと、イエナは拒否した。
「なぜですかな?」
「この島は、あたし達の島だからです!殺されたお父さんやお母さんや…そのずっと昔から、あたし達が生まれ育った島だからです!」
ガンバ達は、言葉を失った。
「ご親切は、忘れません。それでは…」
去ろうとするイエナを、ボーボが慌てて呼び止める。しかし、イエナに見つめられて本当に言いたいことも言えずに
「ありがとう…」を言うのが精一杯。立ち去るイエナの背中を見送りながらボーボは
「あーあ、何だかシッポが変な感じ…」
イエナが立ち去るのを見送って、ヨイショが切り出す。
「ようし、みんないかだを作っちまおうぜ」
「今度は…よいしょ、っと。絶対に壊れないイカダを作りますぞ」
と、ガクシャも海岸線の流木集めに取りかかる。だが…
「どうしたんだ、手伝えよ」
残る仲間は岩陰に腰を下ろしたまま、動こうとしない。
「何だかさあ…シッポが動かないんだよ」
ガンバには、いつもの元気がない。
「おお、母なる我が島よ…か」
シジンの言葉に、忠太も涙声で言う。
「そうなんですよ、僕、聞いてしまったんだ。あのひと達も、僕と同じなんだって…だから島を捨てるわけには行かないって…」
「でもね忠太君、一刻も早くノロイ島へって言ってたのは、君自身なんですよ」
ガクシャが当惑顔で説得するが、忠太は彼らを見捨てられないと言う。
「ま、まさか…おまえら本気で…?」
「じゃあいいのか、ヨイショは!?あいつらをこのまま見捨てても!」
「そりゃあ、おめえ…」
そこへガクシャが、急き込んで割り込む
「じょ、冗談じゃありませんよ!あんな正体不明の化物と戦って、勝ち目はありませんぞ!」
「するてぇと、ノロイには勝ち目があるってのかい?」
イカサマに突っ込まれて、ガクシャは言葉を失いかけるが
「と、とにかく!あんな嫌味な連中のために命を賭けることはありませんぞ!」
「どこで賭けても、命は一つ」
シジンの言葉に、ガクシャもついに…
「そりゃまあ、我輩としてもモヤモヤしているのは事実でして…」
「ザクリとか言ったな…ありゃあ、相当手強いぜ」
「そう、すごーく大きくて…」
「やたらとすばしっこくてねぇ…」
「まるでノロイみたいだった…」
彼らの頭の中で、ザクリとノロイが重なった…!
「そうだ、ノロイなんだ。あいつは、この島のノロイなんだ!」
ガンバが叫ぶ。ここに、彼らの気持ちが一つになった。
「うむ、ノロイなれば我々が戦わねばならない相手ですぞ」
「そうよ、ここで戦わねぇ奴はどこへ行ってもシッポを巻いて逃げ出すのよ!」
いかだ造りを諦めるかのように、流木を岩に叩き付けたヨイショ。
「ようし、ここが戦場だ!みんな、シッポを立てろーっ!」
「おーっ!」
…だが、そんな彼らを岩場の上から見つめる黒い影!怒りに震える鋭く冷たい視線も、ガンバ達には見えなかった…
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