二つの流れが、一つの流れに
作品の企画を、好意的に受け入れたのが日本テレビプロデューサーの吉川 斌氏だった。
そのため、この作品は当初から日本テレビ系での放映を念頭において製作されることになる。
そして、三吉郎氏がまず声をかけたのが出崎 統氏で、次々とメインスタッフを集めていった。
その中で三吉郎氏が求めた「路線」は原作にある悲壮感などを薄め、快活さ(単純とも言えるほどの)を前面に押し出した展開である。
ちょっとマニアックな話になるが、このアニメは「虫プロ」と「東映動画」という、二大制作会社の「流れ」が、合体している。
前者は、今は亡き漫画家・手塚治虫氏が設立したアニメ制作会社、後者は映画会社のアニメーション部門から始まった制作会社である。
厳密には「東京ムービー」の制作下請けだった「Aプロダクション」が、東映系の作風を受け継いで「リアルで丁寧な動き」を基礎に
ギャグタッチの動きを取り入れながら、全体的にシンプルな作画を目指していた。
一方「マッドハウス」という、虫プロの流れを汲む会社が、動きの点でリアルさに欠けるが「表情豊かな線を駆使し重厚な作画」
を身上としていた。この二つの「流れ」が合流した作品が、ガンバの冒険として結実したのだ。
この作品では、チーフディレクターであった出崎 統氏の弁を借りれば「絵の描ける連中が、仕事を求めて作画を手がけた」虫プロと
「最初からアニメーターとしてこの世界に入ってきた人たちの集団」東映動画…
この相反する流れが合流した背景には、1973年の虫プロの事実上倒産に端を発し、虫プロでアニメ制作に携わっていた人達が
その前後から、独立・新会社を設立したことがあげられる。
前述の「マッドハウス」や後に「サンライズ」の基礎となる「創映社」などが好例で、これらの会社の人間はそれまでは接点のなかった
東映動画や東京ムービーと言った会社と積極的に携わり、お互いに刺激しあいながら、新しい画風を確立していった。
ちなみに、メインスタッフを「色分け」してみると…〔カッコ内は、この番組での名称〕
出崎 統 氏(チーフディレクター)…虫プロ系
吉川 惣司 氏(脚本)…虫プロ系
芝山 努 氏(レイアウト設定)…東映動画→Aプロ系
椛島 義夫 氏(作画監督・キャラデザイン)…東映動画→Aプロ系
小林 七郎 氏(美術監督)…東映動画系
と、いった感じになる。
手塚治虫と特撮と『日本列島改造論』
何も「三題噺」を始めようと言うのではありません。ちょっとした「私的見解」です。
日本のテレビアニメの基礎に大きく貢献した人として、故・手塚治虫氏があげられることには、衆目一致するところがあると思います。
氏の設立した「虫プロ」は、様々な名作を世に送り出し、優れたアニメーターを輩出し、私たちの世代はそれらの作品にほぼリアルタイムで
接することが出来ました。
しかし、その虫プロは前述の通り1973年に倒産。虫プロに在籍していたアニメーター達は、新しい職場に移りあるいは新会社を設立したり
したのですが、これがアニメ業界の「再編」につながったことは、面白い事実です。
そして、その後の「アニメブーム」への発展につながっていったと、言えるでしょう。
そして、アニメの発展を後押ししたのがテレビ番組上の「ライバル」である、特撮番組の衰退があると思います。
1970年、映画・テレビに魅力的なヒーローや怪獣を、次々と送り出してきた円谷英二氏が昇天します。
残念なことに、その後の巨大ヒーロー物特撮は怪獣とのプロレスごっこになり、社会の変化と共にゴジラも「優しいヒーロー」になっていきました。
代わって等身大ヒーロー物が注目されますが、ここにも時代の波が押し寄せます。
オイルショックと、それに伴う不景気の嵐(日本が経験したことのなかった、かつてない危機でした)です。
この手の特撮物は、たださえコストがかかります。ヒーローの着ぐるみは、スペアがあればいいのですが、敵役は毎回異なったキャラクターで
なければなりません。それを毎回作成していたらコストはかさむ一方。
さらに、追い討ちをかけたのが「宅地開発」の波。それを牽引した一端は、田中角栄氏の著書『日本列島改造論』でしょう。
東京近郊の、特撮シーンの撮影に適した土地は、次々と宅地になり遠くへ行かないと火薬一つ満足に使えない状況になったのです
(例えば、仮面ライダーで冒頭の「ショッカーの怪人が、人々を恐怖に陥れる」シーンは住宅地でも撮影可能ですが、ライダーキック一発で怪人がドッカーン、などというシーンは
それなりの場所が必要ですものね…笑)
これらの「要因」が重なって、子供向け番組は「家内制手工業」でまかなえるアニメへとシフトしていき、1980年代のアニメブームで
一気に、それまでの「テレビまんが」から「アニメ」へと昇華していったように思います。
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