第4章 時代は回る

§1.運命の(?)遭遇

“あ、あの猫は…サタンってのは、父さんの仇の…子供…!”
ガンバは、アカハナの話を聞いてから四六時中その事が頭から離れなかった。
「ねぇ、ガンバ!ガンバったら!」
ボーボに肩を揺すられて、ガンバはちょっとぼんやりした表情でボーボの顔を見た。
「あれ…ボーボ…?あいつは?サタンは?」
「何、言ってんの…?ガンバ、このごろおかしいよ…」
ボーボは、ちょっと眉を寄せてガンバに言ったが言われた方は、それどころではない。
“いつか…必ず、俺の手で…!”
かける言葉が見つからず、ボーボがオロオロしていると
「ガンバ、いるか…?」
住処の入口の板が少し開いて、アカハナが半分顔を出していた。
「あ…はい」
すぐに返事をしないガンバを見かねて、ボーボが代わりに返事をした。
「入るぞ」
その言葉と同時に、アカハナは住処の中に身を滑らせた。
「な、何ですか?」
「その眼は、良からぬことを企んでいるようだな…」
「べ、別に…」
ガンバは、自分を見つめるアカハナの視線から、目をそらした。
「おまえは…この町しか知らない。それも、町の全てを知っているわけでもない。経験がなさ過ぎるんだ。あのサタンを相手に戦うには…
 ベアーでさえ、身体やパワーで敵わない相手だぞ。そのハンデをどう克服して、サタンを…少なくとも再起不能に陥らせるとして、どう戦うつもりだ?
 まさか、闇雲に体当たりすれば何とかなるなどと、考えていないだろうな?」
腕組みをして強い口調で続けるアカハナの言葉を、ガンバはちょっとうつむいて視線をそらしたまま聞いていた。
「でも、でも奴は…」
「そうだ。あのサタンは、おまえの親父を結果的に死に追いやった怪我を追わせた、凶暴な猫の子供だ」
「そんな奴を、このままにはできないよ!」
アカハナの方に向き直ったガンバは、声を震わせた。
「ガンバ、よく聞くんだ…」
アカハナは、大声ではないのに相手を威圧するような低い声で言った。
「言ったはずだな。これは、おまえだけの問題ではないと。間違ったら、我々町ネズミが皆殺しに遭う危険を含んでいる。おまえ独りがサタンに
 手を出すだけで、その危険が何倍にもなるんだ。おまえは仲間たちに、皆殺しにされると言う危険に遭わせるというのか?サタンに独りで立ち向かうと言うことは
 そう言うことだ。もし、おまえがそのつもりなら我々リーダー達がおまえを阻止する。場合によっては、おまえを殺しても構わないとさえ思っているんだぞ」
ガンバは、そんなアカハナの視線に真っ向から立ち向かったが、そこには芝居じみた様子はなかった。ガンバは、その場にガックリと膝を落とした。
「辛い気持ちは、よく分かる。私も、無二の親友を殺したゼロの子供となれば、憎くないわけがない。しかし、私には守るべきものがある。
 それも、一つや二つではない。それらが…たとえ、全てでも一つでも無駄に失われる危険を、見過ごすことはできないのだよ」
アカハナは、片膝をつくとガンバの肩に右手をかけて諭すように言った。そして、そのままの姿勢で動かないガンバの肩を、軽くポンと叩くと黙って
その場を立ち去った…アカハナは、分かっていた。ガンバが、声を殺して涙を流していたことを…
ボーボはそれを覚ったのか、その場に居たたまれなくなったのか、アカハナの後を追うように住処を去って行った。
「……」
それから、しばらくしてガンバはゆっくりと身体を持ち上げた。やや、虚ろな目をしていたが、やがて何事か意を決したように住処を飛び出した。
“いかん…!”
その様子は、隠れて見張っていたチョッキーが発見した。すぐさま、彼の腹心がリレーでアカハナ達のもとに伝令を届ける。
知らせを受けてアカハナ達が、町に飛び出した。もうすぐ日が暮れる。サタンが活動を始める時間だ!
そこへ、ガンバ発見の報が。急いで現場に駈け付けると…
「父さん…俺、俺…どうしたらいいんだよ…どうしたら…」
ガンバは、件の公園にある父親の墓標に向かって泣き崩れていた。
幼い子供が親に駄々をこねるように、ガンバは物言わぬ墓標を手で叩いて涙を流しながら同じことを繰り返し言い続けていた。
アカハナは、チョッキーに念のため監視を続けるように言い残すと、他のリーダー達と共にその場を去った。
そしてガンバが、その場を立ったのは日も暮れて辺りが真っ暗になった頃だった。
“やっと、お帰りか…?サタンに出っくわさなきゃ、いいんだが…”
チョッキーは、ガンバの無事を確認すべく後を追い始めた。恐らく、泣き疲れたのと空腹なのだろう、いつもの威勢はどこへやら…フラフラと歩く様は
実に危なっかしい。あれでは、サタンでなくとも野良猫に簡単にやられてしまう。
“まずい…!”
悪いことは重なるものだ。一つ先の区画に、サタンが歩いている。ガンバに戦う気があるかないかに関わらず、ここで奴と遭遇するのは危険だ。
いざとなれば、囮になってサタンを撹乱するつもりでいたチョッキーは、じっと様子を窺っていた。
「……!」
しかし、ネズミの本能が間一髪でガンバを救った。殺気というか、何かビクッとするような気配を感じたガンバは、物陰に身を隠した。
そして、そっと様子を見ていると…
“あいつ…だっ!”
町のネオンを背に、悠然と歩くサタンの姿が…ガンバは、さすがに自分が今はフラフラであることを自覚していたから、逆に物音を立てないようにして
この場はサタンをやりすごすことにした。
「……?」
一方のサタンは、その辺りで足を止めると何やら鼻を動かして、何かを嗅ぎ取ろうとしていた。
だが、しばらくするとまたさっきと同じ歩調で歩き出す。人間が側を通っても、一応の警戒はするものの慌てる素振りもない。
“何か、匂うな…クサイぜ。この町に、奴がいるような気がする…”

このニアミスが、町ネズミとサタンとの戦争の幕開けであった。

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§2.因縁の(?)対決

真夜中、汗だらけになって目が覚めた。
“まただ…”
最近、ガンバは悪夢にうなされることが多くなった。
いつも、あのサタンと戦っているのだが、サタンの前では手も足も出ず身体をズタズタにされて…血まみれになって、倒れている自分がいる。
「くそう…!」
自分の運命の暗示なのか?それとも、サタンと戦うなという警告か?いずれにしても、ガンバにはうっとおしい悪夢である。
「どうしたらいいんだよ…」
ガンバは、自分で自分の身を粉々してしまいたい衝動にかられていた。

一方、ここにも…

「くそう…このままでは、俺の気持ちが収まらねぇ…ガスを、俺の弟分を…あんな姿にしやがって!こうなったら、野郎のシッポを齧り切ってやる!」
ロックは、一番かわいがっていた弟分ガスを無様な死に様に追いやったことに、激しい怒りを覚えていた。
しかし、そこはガンバと違ってあからさまに感情を面に出さなかったので、サタンに対する『怒りの大きさ』を、誰も推し量れずにいた。
だが、彼の中でその怒りは日に日に大きさを増していた。
「……」
ある深夜、どこから手に入れたのかロックは厚いガラスの破片を、コンクリートの角で削っていた。
しかし、慎重に作業をやっていたものの、ガラスはちょっとした拍子で音を立てて砕ける。細かい破片が、周囲に飛び散り、ロックの顔や身体に
無数の傷を作るが、ロックはそれにお構いなしだった。何かに取り憑かれたように、黙々と作業を進めていた。
「できたぜ…これで、これで奴のシッポを…ヘッ、バッサリと!」
蛍光灯の明かりが、ガラス片に当たって妖しく反射する。それに映るロックの顔もまた、醜く歪んでいた。
「ガス…もうすぐ、おめぇのところへ行くぜ。奴のシッポを手土産にな…」
ロックは、ガスの亡骸を埋めた場所で独り言のような報告をすると、しばらくジッと目を閉じていたが、やがて意を決したように立ち上がると
自分の服を縛っている紐に、ガラス片を差し込むと夜の街へと消えた。

その頃…

「ロックーッ!どこだ!」
ガンバが、夜の街でロックの名を叫びながら走り回っていた。その後ろには、ロックの手下が2匹。
「いねぇ…おい、あいつは本当に、サタンに…?」
ガンバの問いかけに、手下の一人が答える。
「間違いないぜ。親分、昼間俺たちにこう言ったんだ…『おめぇたちは、俺がいなくても、独り立ちできるから安心だ』って…
 その時は、何を言われたのか分からなかったんだが…親分が、いなくなったんだ!」
「そして、親分の住処にガラスの欠片が散らばっていた。親分が、ガラスの破片で何かをしたら、それは何か大きなケンカの前触れだ。きっと…!」
もうひとりも、半狂乱の口調で言う。ふたりは、ロックの身を案じて彼を捜したものの見つからず、ガンバに助けを求めたのだ。
「くそう…おい、手分けして捜そう!それから、もしサタンと遭遇しても下手に手を出すなよ。かえって危ないぜ」
ガンバは、分かれてロックの行方を捜し始めた。そして、その報はアカハナ達の耳にもすぐに届いた。
「何だって!?いかん、急いでロックの身柄を確保するんだ!サタンに下手に手を出したら、大変なことになる!」
アカハナの号令で、チョッキー以下腹心のネズミ達が夜の街へ消えた。
「参ったな…油断した。ガンバにばかり気を取られていたが…まさか、あいつがここまでやるとは!」
思わず拳を握って、悔しがるアカハナにベアーが声をかける。
「ともかく、大事に至らないことを考えねば。ロックは、サタンの狙いとするネズミとは無関係だから、単に跳ねっ返りが立ち向かってきただけだと
 思ってくれれば…ああ、そう捉えるだけさ」
「だと、いいが…」
それぞれの思いが、夜の町に交錯している中…
「……!」
悲痛な叫び声が、響いた!
「…ロック!」
声のした現場に、最も近かったのはガンバだった。ガンバは、急いでその現場…公園へと向かった。


ガンバが現場に到着する直前、サタンは重傷を負ったロックに止めを刺そうとしていた。
しかし、そこへ人間の声が。酔っ払いが、公園の茂みで用を足しに来たのだ。それも、ひとりではなかった。
サタンは、最後の“見せしめ”を諦めてその場を去った。それと入れ違いに、ガンバがやってきた。
「ロ…ロック…!」
ガンバが駆け寄って、ロックの身体を抱き起こした。
「しっかりしろ、ロック!」
すると、気がついたロックはガンバの姿を認めると何か言おうとしたが、言葉にならない。
「な、何だよ…こんな傷くらいで。かすり傷じゃねぇか…死ぬんじゃねぇぞ。俺とおまえの決着、付いてねぇんだからな!」
涙を流しながら、必死にロックに声をかけるガンバ。すると
「ヘヘ…大した…こと、ねぇ…よ。それより…今度は、お、おめぇ…を、二度と…た…てないくらい…叩きのめして…」
必死に口を動かすロックは、既に虫の息だった。
「ば…馬鹿野郎…それは、こっちのセリフだい…」
ガンバも、涙を流しながら必死に答える。
「ヘヘ…覚悟…しとけ…」
ロックは、そこまで言うのが精一杯だった。ガックリと首が後ろに折れて身体が力なく崩れ落ちた。
「ロック…おいっ!しっかりしろよ!おまえ、こんなことで…死ぬなよ、ロックーッ!」
敵対するライバルとして、何度も殴りあった仲だった。縄張りを巡って、いつもケンカをしていた。
決して『友情』なんてものは、自分達の間にはなかった。しかし…
「わああああっ…!」
ガンバは、ロックの亡骸にすがるようにして泣いた。涙が、止まらなかった。
「バ…バッカ野郎!サタンが憎いなら、一緒に戦ったのに…!俺に…俺にだって…おまえひとりを死なせやしなかったのに…!」
やがて、現場にロックの手下やチョッキー達が集まってきた。手下達も、ガンバと同様にロックの亡骸を見て号泣した。
チョッキーは、アカハナ達のもとへひとりを報告に行かせると、少し離れた場所から様子を見ていた。やがて、ガンバが静かに立ち上がった。
「おいっ、どこへ行く!?」
脱兎の如く走り出したガンバを、チョッキーが必死に止める。
「は…放せ!これ以上、黙っていられるかっ!」
ガンバは、チョッキーを突き飛ばすとその場を去っていった。
“くそっ…もう、こうなったら…!”
ガンバは、文字通り猪突猛進状態だった。彼の頭の中には、サタンに立ち向かうことしかなかったのだ。
「……!」
そのガンバの前に、ベアーとジャックが立ちはだかった。
「…まだ、分かってねぇようだな?」
ベアーが、腕組をしてガンバを睨みながら言った。ガンバも、負けじと睨み返す。
「それが、ガンバ…おまえの返事か?」
ジャックが、いつにも増してクールな目で尋ねる。
「どいて…どいてくれっ!こうなったら、奴を…」
ふたりの視線をそらしながら、ガンバが大声を上げる。
「馬鹿野郎が!あれだけアカハナに言われて、まだ分からねぇのかっ!単に無駄死にするだけじゃねぇ、サタンが復讐の牙をむいたら
 俺ら全員の命が危ないんだぞ!」
だが、ガンバはベアーの迫力にも退かなかった。
「俺は…俺は行くっ!そこをどいてくれっ!」
ガンバは、必死にふたりを睨んだ。
「そうか…そこまで言うなら…」
ベアーが、一歩前へ出て拳を構えた。
「ガンバ、この俺を倒してから行くんだな!この俺を倒すか、俺がおまえをこの場で二度と立ち上がれないようにするか…来いっ!」
ガンバは、一瞬表情を歪ませたが何事か決意すると
「くそおっ!」
なるべくまともに相手のパンチを食らわないように、必死に顔を両腕でガードしながら、ベアーに立ち向かっていった。
だが、相手は百戦錬磨だ。あっさりとガンバの『隙』を見つけた。
「……!!」
ズドッと、鈍い音が響いた。ベアーの下から突き上げるような右が、ガンバのボディーにグサリと突き刺さったのだ。
一瞬、ショックで目を大きく見開いたガンバは、パンチの勢いで後ろへ吹っ飛ばされた。
「どうした?それで、終わりか!?」
うずくまって苦しむガンバに、ベアーの声が飛ぶ。
「ま…負ける…か…」
必死に立ち上がったガンバだが、足はフラフラだった。そんなガンバに、情け容赦のないベアーのパンチが炸裂する。
「ぐえ…っ…!」
再び、ベアーの強烈な一撃をボディーに食らったガンバは、その場に倒れ伏してそのまま気絶した。
「やれやれ、手間取らせやがって…」
苦痛に歪む顔で失神しているガンバを、ベアーはひょいと抱き上げて言った。そして、ジャックの方を向くと
「心配すんな。急所は、外した」
「その代わり、手加減はしなかった…?」
ジャックの言葉に、ベアーはちょっとニヤリとして見せた。
「さて、戻るか。こいつは、しばらく謹慎だな…」

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§3.当然の(?)帰結

「だ…出せーっ!ここから、出せーっ!」
リーダー達が詰めている本拠の一角から、叫び声が断続的に聞こえる。
「やれやれ…腹の痛みも取れたようだな」
「ああ、しばらく苦しげな顔で転がっていたが…」
ガンバは、これ以上勝手なマネをされては困ると、アカハナらによってここで“謹慎”を命じられたのだが…
「今度マジックに、絶対外れない齧りきれない猿ぐつわでも作ってもらうか?」
アカハナが、苦笑しながら言った。
「ちきしょーっ、出せよーっ…」
叫び疲れたのか、ガンバの声は弱くなり涙声の調子になった。
「…終わったか?」
「いや、そうでもなさそうだぜ…」
よく聞くと、何やら齧りつづける音がする。それも、できるだけ音を殺す努力をしながら。
「最後の手段に、打って出たか?」
「らしいな…無駄な努力だがな。何しろ、ここはどんなに裏をかいくぐったつもりでも、結局は…」
そう言って、ベアーは腰を上げた。そして、部屋の一角にある穴の側に立った。
しばらく穴の様子を窺っていると、果たして左右を注意しながら顔を出すガンバが…
「こうなるのさ」
目の前で腕組みをしながらニヤリと笑うベアーを見て、ガンバも少し引きつった笑みを浮かべた。

「…ったく、しょうのない奴だぜ」
ベアーは、ガンバの襟首を掴んでまるで手荷物でも運ぶように歩いていた。
そのガンバは、左半分の顔が見事に腫れあがって…抵抗できないくらいグロッキー状態であった。
「これで、少しは懲りるかな?」
「だといいがな」
ベアーの『予感』は、数時間後に的中した。
「おまえも、懲りねぇ奴だな。ん?」
「まあ、ここで諦めたら『がんばり屋のガンバ』の名に傷が付く、か?」
再度の脱走を試みるも、ベアーとジャックのふたりが待ち構えていた。もちろん、これですごすご退散するガンバではなかったが…
「これで、しばらくおとなしく寝ているだろうぜ」
数分後には、ボロボロに叩きのめされていた…


その頃、事態は悪化の一途をたどっていた。
「どうやら、ロックが要らぬことをしたのは、確実なようだな…」
ロックの一件があってから、しばらくサタンは町に出てこなかった。チョッキー達が、必死に情報をかき集めた結果…
「奴は、傷を癒していました。シッポに、傷を負わされたようです」
「ロックが…やったのか?」
「恐らく。傷そのものは深くもなく、致命傷にならなかったようですが…鋭いもので斬り付けられたような傷です。あの現場に散乱していた
 ガラスの破片と考え合わせると…」
「……」
「これで俺らは、奴を完全に敵に回したな」
アカハナは、ふうと軽いため息をついた。
「決戦…か?」
「待て、マジック。まだ、我々はサタンに宣戦したわけでもない。奴が、我々に牙を剥き出して来たわけでもない」
「しかし、時間の問題だ」
「そうだが…」
「アカハナよ…おまえ、火に油を注ぐようなこと、考えているんじゃねぇのか?」
それまで黙っていたシャドーが、意味ありげな口調で尋ねた。
「…何のことだ?」
図星を刺されたのに、アカハナの態度にも口調にも動揺は見られない。しかし、シャドーは続ける。
「付き合い長いんだ。おまえの腹ん中のシナリオくらい、大体読めてるんだぜ?」
なおも、揺さぶりをかけるシャドー。それに、動じない姿勢を取り続けるアカハナ。その場のリーダー達にも、次第にアカハナの腹の内が読めてきた。
「どうせなら、火を一気に燃え上がらせて一気に消してしまおう…ってところか?」
「ある程度、自信って言うか勝算はあるんだろうな?」
「俺らはともかく、要らぬ犠牲を生む戦いは避けるべきだ」
いきり立つリーダー達を前に、アカハナは静かな口調で言った。
「…これが、当然の結果に帰結するのは分かっている。だが、サタンのこれまでのやり口から考えて、恐らく我々をじわじわと追い詰めなぶり殺しにするだろう。
 死の恐怖と背中合わせの日々…それでは、仲間達は精神的にもボロボロにさせられてしまう。だが、サタンとの戦いが避けられなくなってきた今、辛いことだが
 多少の犠牲を覚悟してでも、我々は奴に立ち向かわねばならない。それならば…」
「確かに、仮に我々がこの町を捨ててもいずれまた、どこかの町でサタンと遭遇するだろうしなあ…」
「それに、我々が肝心なことを黙っていたら…仮に、我々を全滅させてもサタンの『目的』は、達せられないままだ…」
「そうなれば、別の町で町ネズミ達が犠牲になるだけ…」
「やるしか、ないのか…」
「特に、私には奴をここで食い止める責任がある…若い頃の、無茶の代償として」
「それを言ったら…俺は、一体何匹のネコの子供に狙われなきゃならない?」
ベアーの口から、珍しく軽口が飛び出し思わずその場の空気が和らいだ。
「とにかく、あと2、3日でサタンは活動を開始するだろう。それまでに、戦いの準備を整えるんだ。仲間達にも決戦の心構えをしてもらう必要があるが…
 特に、おい!ガンバ!」
アカハナは、部屋の一角を向くとちょっと大きな声でガンバの名を呼んだ。すると、例の穴から、ガンバがちょっと神妙な顔を出した。
「聞いた通りだ。私が“守るべきもの”と言ったのは、こういうことだ。私は、サタンをこの町で阻止する覚悟でいた。下手をしたら、この町の仲間達だけの
 問題ではなくなる可能性も、あるからだ…」
その時、チョッキーが慌ててやって来た。
「何だって!?」
報告を受けたリーダー達は、一斉に顔色を変えた。そして、運び込まれた『犠牲者』は、ただ機械的に口を動かしていた。
「コノ シッポ ノ キズハ オマエタチノ チ デ ツグナッテ モラウゾ…オマエタチ ノ クルシム カオガ ナニヨリ ノ クスリダ…」
サタンに催眠術をかけられ、奴のメッセージを繰り返すことを強いられ、そして…
「もういい、しっかりしろっ」
アカハナが肩を揺すると、それが術の解ける合図だったのだろうか、突然口を閉じると力なくアカハナの手から崩れ落ちた。
彼の身体は、今までの犠牲者と同様に、サタンの爪でズタズタにされていたのだ。
「宣戦布告、か…」
その場の空気は、あまりに重くシャドーがポツリと漏らした言葉が、精一杯だった。
「…緊急の集会を開く。仲間達を集めてくれ」
アカハナが、低い声で言った。
「しかし…!サタンに知れたら?」
チョッキーが、異論を唱える。
「確かに、危険性はあるが…しょせん、ネコ一匹だ。仮に例の笛で催眠術を使ったにしろ数が多い。そう簡単にはいくまい」
「それより、突然襲われるよりはある程度心の準備ってのも、必要だ」
「それは同時に、身を守る準備でもあるしな」
それからの町ネズミ達の行動は、恐怖に震えおののいているであろうという、サタンの考えを裏切るほど迅速で、効率的だった。
彼らは、あっという間に戦いへの決意を固め、準備を整えた。
中には、こうなったことに対するロックの責任を問う者もいたが、それにこだわる猶予はなかった。町ネズミ達が、サタンとの戦いに向かって一つになってきた。

…その頃、周囲の町では人間達が妙な会話を交わしていた。

「何だか最近、野良猫の姿が減ったなあ…」
「保健所が、駆除したんじゃないの?」
「それにしては、猫だけか?野良犬は…あの通りだぜ」
「何かの前触れかもな…」
「どっちにしたって、猫だけいなくなるのは妙だよ」
「まあ、野良どもが少なくなるのは、歓迎だけどね…」

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第4章・完

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