異形狩り師 05

 翌日。仁は学校に来なかった。

 彼に薬の件で話があった司は、肩すかしを食った気分になった。

「また無茶な修行や仕事を、させられていなけりゃいいけど……」

 釈然としない気分で、司は席に着いた。

 しかし、仁の欠席は続いた。司がおかしいと思い始めたのは三日目からだ。どう考えても、時間がかかりすぎている。

 仁が欠席し始めてから四日目。遂に司は動く事に決めた。皐には内緒で、である。

 逢魔が時、〈八光流〉の所に行こうというのである。二人連れでは、危険が大きいとの判断である。

 危険か。何が危険だというのだろう。たかが一流派の本拠に出向くだけだというのに。

 しかし司の感覚としては、〈八光流〉の本拠というのは半敵地という物で、そんな所に皐を連れて行く、というのは気の引ける事であった。そんな訳で司は一緒に帰れない旨を皐に伝えたのだが、皐の答えはこうだった。

「私は司くんの行きたい所についていくよ。それが許嫁であり、パートナーである私の役目でしょ?」

 と言う訳で、司の目論見は見事に粉砕された。結局言い負けて、皐も一緒に〈八光流〉の本拠である、〈日下神社〉へと赴く事になった。

 放課後。いつも通り皐と待ち合わせて、通い慣れない道を辿る。目的地は勿論、〈日下神社〉だ。

 仁とは、友人という間柄ながら、考えてみれば互いの面子のような物で、彼と共に遊んだ記憶という物はなかった。仁が一度、〈斎乃神社〉に来た事はあったが、その逆は皆無だった。

 司の偏見故であるが、仁の方でもそれを歓迎しない雰囲気があった。今まではそれとなく流していたが、今にして思えばよく考えてみるべきだったのかも知れない。

 何故、〈日下八光流〉はこうまで閉鎖的なのか。何故、誰も近寄らせないような雰囲気があるのか。普通神社と言えば、人が通ってくれなければ生計が成り立たない所である。

 それを、こうも閉鎖的な空間にしてしまったのは何故か。勿論、異形狩りの秘技を、他流派に知られない為に決まっている。そうまでして、異形狩りにこだわるのか。

 確かに異形狩り師は、一種のステータスである。素質のある者しかなれない。警察にも顔が利くようになる。だが同時に、警戒され、監視されると言った一面もある。

 異形狩り師達は、普通人達には尊敬と同時に警戒されているのだ。その卓越した刃が、自分たちに向けられるのを恐れている。実際にそう言う事例があった訳ではないが、それが将来もそうである事を保証している訳ではない。実際、危ない流派もあるのだ。

 警察の監視の元、異形狩りが行われる事もある。それは要するに、異形ではなく異形狩り師が危険視されているという現れだ。現在の所、そうやって危険視されている異形狩り師はごく少数だが、いる事には違いない。

 司は憂慮している。〈日下八光流〉も、その内のひとつになってしまうのではないか、と。それを止めるには、今の内しかない。

 司はそう心を定めた。

 しかし皐は、どういう心境で司についてきているのだろう。傘は皐に尋ねてみた。

「皐さん。どうして僕についてくる気になったんです?」

 答えは決然として返ってきた。

「昼間も言ったでしょ。許嫁として、パートナーとして、私には司くんの背後を守る義務があるって。司くんが前を向いて戦う時、後ろを守るのが私の役目だよ」

「そうですか……」

「そう。だから危険かも知れないから帰れ、なんて言っても無駄だよ。危険かも知れないから、私はついていくんだからね」

 司は頭を掻き回した。

「分かりました。一緒に、行きましょう」

 実は司は、四日前の突如現れた鬼の件も、〈日下八光流〉が怪しいと睨んでいた。

 司の偏見だが、あの流派ならやりかねない、と言う思いが離れない。友の所属する流派だというのに、何故だろう。

 それは恐らく、その友、仁を知っているからだ、と司は思う。大事な跡取りに、無理難題を押しつける流派。仁が駄目なら、他から養子でもとる気だろう。最早、この流派に、存続に値する正義はない、と司は思う。過激過ぎるだろうか?司はそうは思わない。仁はまだ十三歳なのだ。まだこれから、伸びる余地は充分にある。なのにこの仕打ち、司には我慢ならない。

 友を取り返す。そう言う意志を持って、司は〈日下神社〉の石段を登っていった。

 石段を登りきった所で、不意に皐が口を開いた。

「司くん。仁くんが心配なのは分かるけれど、冷静にね。できるだけ、いつもの冷静な司くんでいて」

 その言葉は、司の中で凝り固まっていた、〈日下八光流〉への疑心を、ほんの僅かながら溶かす効果があった。

 同時に、司の思考に冷静さが戻ってくる。やはり、二人出来て良かったな。そう思いながら、司は歩を進めていった。皐もその後をついてくる。

「荒れてるな……」

 それが司の感想だった。皐も頷く。

 社は半壊し、最早見る影もない。ホームレスも、住み着くのを躊躇うだろう。そして、そんな輩が入り込めない雰囲気が、この社全体から立ちこめていた。この雰囲気。陰気に近い。

 人が闇を恐れるように、例え普通人であっても、陰気の固まりというのは何となく分かる物だ。生きている物を近寄らせない、そんな雰囲気がある。この社は、それに近かった。

 こんな社に詣でる者がいるとすれば、それは御利益を得たいのではなく、呪をかけに来たのだ、と確信できる。

 司は社に足を踏み入れた。皐を後ろに待たせて。

 天井も、破れて穴が空いている。そこから風雨が入り込んで、中は痛み放題だった。しかし、それだけだ。中には何もない。あるべき、ご神体も、無い。かつて何を祭っていたかも分からない。最早ここは、単なるあばら屋だった。

 司は何の収穫もなく外へ出た。と、皐が何やら怯えた表情で後ずさっている。司もそちらを見やる。

 〈八光流〉のご老体達が、勢揃いして、社と母屋を分ける線上に立っていた。皆一様に、喜色満面、と言った風である。はっきり言って、気色悪い。皐が後ずさった気持ちも、分かる気がした。

 司は皐の前面に立ちはだかって、喜色をあらわにしている老人達を睨み付けた。そして開口一番、

「仁くんを返してもらいに来た」

 と告げた。

 老人達は一様に笑った。けく、けく、けく、と異様な笑い声で。

「やれ、おかしな事を言う」

「仁は我らの内の子」

「汝の物ではあるまいて」

 誰が喋っているのか分からない。まるで八人いて初めて、ひとつの人格を形成しているかのようだった。

「汝は斎乃の所の子よな」

「我らと対立すべき立場の子」

「そのような者に、仁を任せられる物か」

 司は反論した。

「少なくとも、あんた達に飼われているよりは、幸せに出来る自信がある」

 老人達はまたしても笑った。けく、けく、けく。

「幸せか。何を持って幸せと言っておるのかのう、このボンは」

「仁の幸せは異形狩り師として大成する事」

「それが出来るのは我らしかおらぬ」

「いましばし、いましばしで大成する」

「それまで、適当に遊んでおれ、童共よ」

 それと同時に、カラスが四羽、舞い降りてきた。口に何か、くわえている。それを、司達と老人達の丁度中央に落とした。

 途端。舞い上がる陰気。次の瞬間、四頭の鬼が現出した。

 司の鋭敏な視力はしっかりと捕らえていた。カラスがくわえていたのは、確かに公園で見た、あのびい玉だった。違うのは、その色。カラスが落とす前は、どす黒い色をしていた。

 今鬼達の足下に転がっているびい玉は、無色透明だった。公園で、鑑識に見せられた物のように。

「朝霧公園の鬼は、やはりあんた達の仕掛けだったんだな」

 司は詰問の口調で問うた。返ってきたのは、けく、けく、けくという笑い声。

「そうよ。仁に鬼を斬らせる為に、我らが用意した物よ」

「じゃがお主らが邪魔をした」

「お陰で計画が狂う所じゃった」

「結果として問題は無かったのじゃがの」

 結果論として問題は無かった?何の事だ、と司は訝しげた。

「分からぬ、と言う顔じゃの」

 老爺の一人が、あざけるように言った。

「分からぬのも無理はない。お主らは、あの宝物をいとも簡単に廃棄してしまうらしいからの」

「全く、惜しい事をするものじゃ」

 そこまで言われて、ようやく司にも合点がいった。

「『鬼の角』か!」

 けく、けく、けく。老爺達が一斉に笑った。「その通りよ。鬼の角は我らにとって宝物」

「アレを加工する事で、様々に効力を持つ丹が出来る」

 司はそれを聞いて、怒りで我を忘れそうになった。

 『鬼の角』は陰気の固まりである。しかも、かなり強い陰気を内包している。だからこそ、本体が滅びても角だけは残るのだ。それを薬にしていたと言う事は、仁は陰気を服用していたのと同じ事である。

「貴様ら……自分がした事が分かっているのか?貴様らは仁くんに、陰気を服用させていたんだぞ!その結末がどうなるか、分からぬ訳ではあるまい!」

 答えは笑い声で返ってきた。けく、けく、けく。

「無論承知しているとも」

「アレは最早、その程度の役にしか立たぬのじゃからの」

「しかしこれで、我ら八光の名が天に轟くという物」

「鬼をもって鬼を狩らせる。これぞ、我らが計略。我らが祈願」

「馬鹿か、貴様ら……!」

 司は歯ぎしりして悔しがっていた。

「鬼が人に従うものか!例え元が人であったとしても、鬼となればそれは鬼でしかない!人を食い、衝動のまま暴れるだけだ!」

 例えば丹を含んでみるとか。例えば丹の陰気に気がつくとか。たったそれだけの事で仁を救えたかも知れないのだ。司は悔しかった。己の迂闊さを、呪っていた。

 そんな司に、そっと触れる手があった。

「司くん、まだ間に合うかも知れないよ」

 皐だった。皐は油断無く四頭の鬼に視線をやりながら、司にささやきかけた。

「ここまで来て時間稼ぎをすると言う事は、仁くんはまだ完全に鬼になりきってはいないって事だよ。とっとと片づけて、仁くんを元に戻そう!」

「……そうですね。ありがとう、皐さん」

 皐の言葉で、司に希望の灯がともった。それは同時に、戦意の高揚の現れでもあった。「……貴様らに見せてやるよ。斎乃が、何故月光を名乗っているか!」

 司の幻力が膨れあがる。膨れあがった幻力はさらに昇華して、神気となった。

 黄金色に輝く司を見て、初めて八光の老爺が狼狽えた。

「そうか!『斎』と『月』との言霊か!」

 老爺の一人がうめくように言った。

「その通りさ。〈斎乃月光流〉は月がある夜に最高の力を発揮できる。見せてやるよ、その力を!」

 『斎』とは月を指す言葉。そして『月』。

同じ言葉を二度繰り返す事で効果を相乗しようと言う言霊であった。

「か、かかれ。かかれぃ!」

 老爺の一人が狼狽えた声で鬼に言った。でくの坊のように突っ立っていた鬼が、凶暴なうなり声を挙げて動き出した。

 それを見ても、司の考えは変わらなかった。生まれた鬼を御する事は不可能だ、という。

 確かにこの玉は、単なる陰気の固まりかも知れない。だが最初から鬼となるよう制御されている。そんな人為的なものが加わっているものならば、そこから生まれたモノも、制御できるだろう。だが。

 人をして鬼と成す。これは誰も行った事のない術だ。失敗の可能性も高いが、八光の老人達の喜びようを見ると、どうやら成功しつつあるようだ。そんな鬼も、制御しうるのか。 可能性は低い。司はそう見た。

 人としての意識が残っていれば、或いは可能かも知れない。しかし鬼と化してまで人に従うかどうか。そして無論、人としての意識がなければ、制御する事など不可能であろう。

 八光の老爺達は、見果てぬ夢に夢をかけているらしいが、付き合わされる方としては、冗談ではなかった。付き合ってなどいられない。とっとと眼前の鬼を片づけて、仁を救いに行かなければ。

 司は一番近い鬼に向かって跳躍した。既に服は式服に、得物は十握剣を握っている。

 黄金色の残光が奔った。一頭目の鬼は何も出来ずに、十握剣の錆と化した。

「何をしとるか!囲め!囲んで袋叩きにするのじゃ!」

 老爺の調子外れのわめき声に、司は冷笑で報いた。

「包囲したければすればいいさ。その方がこちらも一瞬で済む」

 雄叫びを挙げて、鬼達が三方向から襲いかかってくる。その様子を、司は冷笑と共に見守っていた。

 剣光一閃!

 黄金色の閃光が複雑な螺旋を描く。三頭の鬼は、角と首を落とされて、呆気なく倒れた。皐の手を借りるまでもない。神気で斬ったのだ。陰気の固まりであった鬼は、呆気なく散華した。尤も、後で皐に、土地の浄化をしてもらわなければならないだろうが。

 司は空を見上げた。おりしも今宵は満月。現状で最高の力を、司は振るえるだろう。そして皐も。

 黄金色の光で出来た陣が、司を中心に描かれる。皐の術だ。司はその陣の中心に、十握剣を突き立てた。流れ込んでくる神気。

 皐が呪を唱える。そして叫んだ。

「汝、月を守護に持つ物よ。その力、限界のその以上に引き出さん!」

 司の身体が活性化される。幻力で活性化した時以上だ。それも当然。自力の神気で活性化している所に、神気を注がれたのだ。器からこぼれんばかりの神気が、司に注がれていた。それを力に変える。今の司は、普段の数倍の力を振るう事が出来た。

「ひ……引けぃ!」

「『アレ』を『起こす』のじゃ!」

「そうじゃ!アレさえ起きれば我らが勝利、疑いなし!」

「そうじゃ、そうじゃ!」

 『アレ』とは恐らく仁の事であろう。起こす、とは恐らく、鬼として覚醒させる、と言う意味だ。そんな事をさせる訳には行かなかった。

 司は走った。尋常でない速度で。あっと言う間に老爺達を背にする。そのまま老爺達を捨て置いて、司は走った。

 仁はどこにいる?母屋に幽閉されているのか?それとも修行場か?それはどこだ。司は立ち止まって陰気の流れを探った。仁の居場所は、すぐに突き止められた。恐らく、母屋の裏側。老爺達は老人とは思えないほどの速度で司に追いすがってくる。急がねばならなかった。

 司は走る。陰気の流れに従って、母屋を突っ切る。母屋の裏側、石舞台の上。

 仁は、そこに、いた。

 仁はまだ人間の姿をしていた。少し安心して司は近寄ろうとした。

 途端。跳ね飛ばされた。司は十握剣を床の間に突き立てて、どうにか踏みとどまる。

 どういう事だ?司は一瞬混乱したが、理由はすぐに判明した。

 仁の周りには、陰気の結界が張られていたのだ。陰気と反発し合う神気を身に纏っている司は、その中に入れない。しかし仮に神気を払っても、その中には入れないであろう。それくらいの仕掛けはしてあるに違いない。

 司は大音声で、仁に呼びかけた。

「仁くん、僕だ!斎乃司だ!助けに来た!目を開けて、結界を払ってくれ!」

 返ってきたのは、けく、けく、けくと言う笑い声だった。

 老爺達がようやく、司に追いついてきたのだ。しかし充分に、俊足といえよう。司は歯がみした。

「無駄よ」

「そう、無駄よ」

「結界の外から内へは、わし達の声しか届かぬ。そして幻力を持つ者は、この結界の内には入れぬ」

「そう。わし達以外はな」

「結界は払えぬ。仁の力ではな」

「汝の力でも、無理だろうさ」

「そう。無駄さ」

 その時、美しく若々しい声が、老爺達のしわがれた声を遮った。

「司くんには無理でも、私ならどうかしらね。私は結界を司る。この程度の結界、私なら破れる。今日の私なら!」

 皐が呪を唱える。それを老爺達が慌てて止めようとするのを、司が遮った。

「皐さんの邪魔はさせない」

 そして皐が叫ぶ。

「神気発勝……常ある者達を縛る陰気よ。常あらざるモノよ。元の姿に返れ!」

 久遠が、いつの間にか現れて結界の上に立っていた。そして神気の雷を結界に流し込む。

 結界は、弾け飛んだ。

 結界が失われて足場を失った久遠は、地面へと降りたって皐の元へ駆けていった。そして甘えるように皐に首筋をこすりつける。皐もそんな久遠の頭を撫でてやった。

 司はそんな光景を横目で見ながら、仁の元へ駆け寄った。仁は禅を組んだまま、動かない。まるでそのまま、石になったかのように。

 自分の想像にぞっとして、司は仁の頸動脈に指を当てる。

 脈が、無い。

「……馬鹿な、こんな……」

 けく、けく、けく。

 あざ笑うかのように、否、実際あざ笑っているのだろう、奇怪で不快な笑い声が響いた。「無駄骨、ご苦労じゃったなあ、斎乃の」

「それは既に生きた屍」

「脈がないのがその証拠さ」

「後は鬼となりて復活を待つのみぞ」

 けく、けく、けく。

 まつわりついてくるような不快な笑いを振り払うと、司は神気を仁に吹き込んでいった。

 しかし流し込んだ神気は、流し込む先から垂れ流されていく。神気を持ってしても、死者は生き返らないのだ。

 と言う事は、仁は既に死んでいるのか。本当に、もう鬼と化すしかないのか。あの控えめな笑みは、もう戻っては来ないのか。司は吠えた。〈八光流〉への恨みを込めて吠えた。

 その吠え声に、共鳴する声があった。

 仁だ。

 仁が、吠えている。内側からの衝動に、耐えかねたように。

「仁くん……」

 司は呼びかけてみた。すると驚いた事に、返事があった。

「やあ、斎乃くん。久しぶりだね」 

 司の顔に、喜色が戻った。勢いで、質問をぶつける。

「元に戻れたのかい!?」

「いや、僕は死んだままだよ」

 ごく軽い口調で言われたので、司はその言葉の重みを、一瞬捕らえ損ねた。

「死んだ……まま?」

 司ははっ、となって仁をよく見てみる。

 彼を生きさせているように見える、その原動力は何なのか。

 普通人なら、魂、生命力だ。異形狩り師はそれに幻力が加わる。神気まで昇華出来る流派は数は少ないが、無い事はない。〈斎乃月光流〉の様に。

 そして異形は、陰気で生きている。

 今の仁は――陰気で動いていた。

 司はショックで、何もする事が出来なかった。その不意を打てば、あっさり倒されてしまう程に。しかし不意打ちはなかった。陰気で生きている以外は、全くいつも通りの仁で、それがまた、痛々しかった。

 仁が口を開いた。淡々と。

「どうやら僕は鬼になってしまったみたいだ。角のない、人鬼と言う奴だね。外見は全く、変わっていないだろう?」

「……ああ。普通人が見たら、いつもの仁くんと変わらないように見えるだろうね」

 自分は、何をやっているんだろう。

 司は心ではそう思っていたが、口は勝手に言葉を紡ぎ出していた。

「だが、僕には分かる。今の君は、異形そのものだ。陰気で生きている、鬼だ」

 仁も淡々と、言葉を紡いだ。

「そうだね。その通りだ。異形狩り師が、異形になった訳だ。ミイラ取りがミイラになった訳じゃないけどね」

 何だろう、この無駄なやりとりは。司はそう思いながらも、この会話が必要な物だと、無意識に悟っていた。

 決別の為に。


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