【 続・ケーキなんか大キライだ 】−(その2)

それは今から1週間ほど前の事…
一応高校のすぐ近くにある銀行で強盗事件を起きた。その時の犯人である二人の男が
逃走時の不手際で警察に退路を絶たれ、一応高校の家庭科室に立て篭った。
その時に家庭科の授業でスパゲティを作っていた若人先生と10組女子が人質に
取られてしまった。
暫くの間、警察と犯人との間で睨み合いが続いていたが、急に家庭科室に
立て篭もっている犯人の悲鳴が聞こえたので、救出しようとして近くに潜んでいた
事代先生や奇面組がその声を聞き、家庭科室に踏み込むと千絵が作ったスパゲティを
食べた犯人二人が床で手足を痙攣させながら悶絶していた。

その後…

犯人二人は気絶したまま、事代先生から警察に引き渡され逮捕され若人先生や
10組女子に1人の負傷者も出さずに解放され事件は解決した。
警察は事件解決の最大の功労者として1人の犠牲も出さずに犯人を気絶させた千絵を
表彰するために翌日、一応警察署の署長が一応高校に自ら赴き、
犯人逮捕に協力したことに感謝の意を表し、校長室で千絵に感謝状を手渡したが
一方の千絵は複雑な心境でその感謝状を受け取っていた。
確かに事件が無事に解決しその立役者として感謝されるのは嬉しかったのだが、
心のうちでは素直に喜べないものがあった。

ちなみに奇面組の面々も、その立て篭もり事件が起きる前に千絵が作ったスパゲティを
1口試食して同じように悶えている。

…という経緯があったので、零達は互いに困惑し千絵が作ったケーキを食べるのを
躊躇っていた。

「ちょっと、イヤな事思い出さないでよ。あれは、たまたま失敗しただけ。
それにあたし…スパゲティは作るの苦手し…。」
思い出したくもない事を言われた為か、苦虫を噛み潰したような表情で強く言い返そうと
するが、どうしても歯切れが悪い。
「何だよ、スパゲティなんてただ茹でるだけ簡単じゃねぇか。」
「バカねぇ〜。スパゲティってあんたが考えているような簡単なもんじゃないんだから
茹でる時も茹で加減に気を付けないと美味しいのができないのよ。」
千絵はいちいち言い返してくる豪に向かって徐々に感情的になり、強い口調で言い返した。
「だからって、どうやればおめーのみたいにあんな気絶させられるようなものができるんだよ。」
「だっ、だから…それは…その…」
千絵は豪の言葉に返す言葉に窮し、急に尻つぼみになりやや俯き加減に小さく
呟いただけに留まった。
「唯さん!千絵さん!そんな所で何やっているんです?そろそろ後片付け始めなさい!」
「はっ、はい!すみません…」
後ろから若人先生に注意され、二人は慌てて後ろを振り向くと既に他の女子は
余ったケーキを箱に詰めて調理器具を片付け始めていた。

「じゃあ、我々も戻らないと事代先生がうるさいからこれで…」
と言うや否や、二人が若人先生の方に注意が向いた隙に零達五人はさっと走り去っていった。
「あっ、零さん。ちょっと…」
千絵は慌ててまた外の方へ振り向いたが、既に奇面組は目の前からいなくなっていた。
「千絵、私達も片付けよう…」
「うん…」
千絵はそう頷き、一人だけぽつんと取り残されたような苦い気分で片付け始めた。


(その3)へ続く

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