【 続・ケーキなんか大キライだ 】−(その4)

次の日(土曜日)、学校で1時間目の授業が終わり休み時間になると蘭が、
席で話をしていた唯と千絵の二人の所にやって来て、声をかける。
「唯さん、千絵さん、相談があるんだけどちょっと良いかな?」
「はい、良いですけど。何ですか?相談って…」
千絵は頷くと蘭は空いている椅子に座り、一瞬、視線を窓際の方へチラッと動かし
目配せする。
窓際では奇面組の五人が談笑していた。そしてその様子から二人も蘭が何の相談を
しようとしているのか察しがつく。
「まーた、あの連中。何か、やらかしたんですか?」
千絵は蘭の困惑気味の顔を見て、それに合わせるかのよう呆れながらも蘭に尋ねる。
「ううん…そうじゃなくて、来週テストがあるじゃない。だから、また彼等の勉強を
見てあげて欲しいの。」
「あ、そうか。もう来週から期末テストですもんね。」
蘭に言われて、唯もテストの事を思い出した。
「それでまたあたしと唯の二人で連中の監視をしろと言うわけですね。」
「そう、何しろ最近は小テストを含めて、平均点が2桁になった事が一度も無いのよ。
本当にこのままだと最後の最後で留年が決まりそうで、すごく心配なの。
だから、二人には大変だという事は分かっているけど、もう一度、彼等の面倒を
見てくれないかしら。」
蘭は時々、奇面組の方に視線を向けながら二人に軽く頭を下げて懇願する。
「あっ、先生。あたし達で良ければ、明日にでもちゃんと連中の面倒を見ますから。」
元から断るつもりはなかったが、蘭が頭を下げてまでして二人に懇願するので、
かえって二人の方が慌ててしまった。
「本当? では、大変申し訳ないと思うけど彼等の面倒をお願いするわね。」
蘭はそう言って、ようやく安堵の笑みを浮かべる。
「あっ、そうだ千絵、ちょっと良い?」
はっと、何かを思いついた唯は千絵にそっと耳打ちする。
「何?」
「今、思いついたんだけど今日の午後にケーキを作るじゃない。それで、
もし上手く出来たら明日の勉強の後にも、零さん達みんなに食べてもらうってのはどうかな?」
「えっ…でも、連中あたしの作ったの食べてくれるかな?昨日は事もあるし…」
唯の話を聞いた千絵はまだ自信が持てないのか、途中で口篭もってしまう。
「大丈夫だって、今度は時間かけて行うし難しい所は私も手伝うから、ね。」
「うん…それなら良いんだけど…」
千絵は戸惑いを隠せないものの結局、承知し頷く。
蘭は目の前の二人が耳打ちしながらそんな事を囁いているのが聞こえていなかったので、
首を少し傾けて不思議そうな表情をする。
「あっ、若人先生ごめんなさい、何でもないんです。とにかくテストの件は千絵と二人で
明日にでも行いますので…」
蘭の視線に気が付いた唯は千絵から離れた。
「じゃぁ、唯さん、千絵さん、お願いね。」
蘭はそう言うと立ちあがり教室を後にした。

二人はこの後、蘭が言った事をすぐに零達に伝えて、零の家で勉強会をする事を伝えた。
当然、零達は駄々をこね、抗議の声をあげるが千絵がじっと睨みつけて点数の低さや
普段の素行について指摘されると、その声も封殺してしまった。
結局、零達も渋々、承諾し明日正午に零の家で勉強会を行う事で決まった。
唯と千絵は取りあえず奇面組の事ではとりあえず落着したので一先ずは安心した。
そして、学校が午前中一杯で終了すると二人はすぐに学校を下校し、
ケーキの材料であるクリームなどの材料を買いにデパート『Nisetan』へ向かった。


(その5)へ続く

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