【 続・ケーキなんか大キライだ 】−(その6)


翌日、千絵は約束の時間どおりに取りに唯の家に行き、ケーキを持って、そのまま唯と一緒に零の家に向かった。
その零の家である『おもちゃの一堂』の入り口では暇を持て余すかのように啄石が仕事着のまま煙草を
吹かしていた。
「こんにちは、おじさん。」
「おーっ、唯ちゃんに千絵ちゃんじゃないか。いらっしゃい。」
「零さん、中にいます?」
「あぁ、中に入るよ。零に聞いたけど、また皆、集めて勉強するんだってね。
すまないねぇ、二人にはいつも苦労かけさせてしまって。」
啄石は申し訳なさそうな表情で二人に言った。
「い、いいんですよ、そんな。気にしないで下さい。」
唯がそう言って啄石を安心させる。
そんな唯の言葉にちょっとホッと表情を見せた啄石は、店の中に入っていき、大声を出して中にいた
霧を呼び出すと、返事と共に廊下を小走りに走る足音が聞こえて来た。
「何?お父ちゃん。」
中からエプロン姿をした霧が覗き込むようにして現われる。
「霧、唯ちゃんと千絵ちゃんが来たんでね、二人を零のところまで案内してくれ。」
「うん。こんにちは、唯お姉ちゃん、千絵お姉ちゃん。」
「霧ちゃん、こんにちは。」
二人は家から出てきた霧ちゃんにも挨拶をする。
「まぁ、さっき後の四人も来ていて、中で零と一緒に待っているから二人も上がって行きなさい。」
そう言って啄石は二人に中に入るように勧めた後で、2本目の煙草を吹かし始めた。
「じゃぁ、お邪魔します。」
二人はそう言って軽く会釈をしながら、啄石の横を通って店の中に入っていった。
霧ちゃんの案内で零達が待っていた部屋に入り、千絵が中の五人に声をかけるが、こちらを見るだけで
返事がない。
「ねぇ〜ちょっと、何暗くなってんのよ。」
暗く沈滞しているように感じたので、わざと明るく振舞って声をかける。
「だってよ、せっかくの日曜だっていうのに、何でわざわざリーダーの家に集まって、勉強しなきゃ
いけないんだよ。」
潔が面白くなさそうにして不平を鳴らすと、それに呼応するように他の四人も不平を鳴らし騒がしくなる。
「何言っているのよ、アンタ達がちゃんと勉強しないからでしょ。」
千絵はまくし立てるように言うと(何処から持ってきたのか不明だが)、竹刀を取り出して床を叩く。
部屋全体に響き渡ると、これには効いたようで、さすがの五人もおとなしく千絵と目を逸らしたりして黙ってしまった。
「じゃぁ、これから勉強会を始めます。まずは…英語からやりましょうか?」
「そうね。じゃぁ、みんな。教科書の70ページ開いて。ほらっ、早く!」
千絵が語気を強めて急かす様に言うと、零達は渋々しながらも教科書を取りだして一斉に指示されたページを開く。
『ひっ、ひでぶ。』
零を除く四人が断末魔の叫びをしながら、一斉に仰向けに倒れる。
「何、やってんですか!何を!!」
「いや、あの…また、いきなり拒絶反応が…」
「どういう拒絶反応ですか!全く、アンタ達と来たら1度ならず2度までも…」
二人は呆れてしまい、千絵は手で額を押さえる仕草をする。
「ハハハ…駄目だなぁ、みんな。全然進歩してないんだから。」
「そう言う、零さんはどうなのよ。まだ教科書開いていないじゃない。」
ちょうど,窓側に座って四人の醜態を笑っていた零に対し、千絵は横目で疑うようにみながら鋭く指摘する。
「えっ、私。私はみんなと違って、ほらこの通り。」
と言いながら、堂々とした様子で英語のテキストを開く。
『キキッキ、キッキ、キィーーー!!』
と奇声をあげて猿のように飛び回り、暴れ始めたので、唯と千絵は思わずコケそうになる。
猿のように零は甲高い声を上げながら器用に仁や潔の頭の上を飛び移ったり、
机の中央に飛び乗って自分の胸を叩いて誇示しようとしたり、テキストを机の上で叩き始める。
「何よ、全然変わってないじゃない。」
「て、言うか、前よりひでぇじゃねーか!!」
豪が呆れながらも暴れる零を抑えこもうするが、零はそれを巧みに交わし、所構わずテキストを
叩き続けたりして暴れ続ける。
「零さん。やめなさい、コラ。」
千絵が持っている竹刀を零に向けて振り下ろすが、零は千絵とは反対側の窓際の方へジャンプして、
難なくかわすと、奇声をあげながら、今度は千絵の隣にいた豪の方へ飛び掛ってきた。
「ウエスタン・ラリアート!」
飛び掛ってくる零に対し、豪はこうなるのを予測していたのか左手で右肘をさすりながら落ち着き、
狙い定めたかのように右腕を一閃する。
「おりゃ。」
狙い通りに右腕は零の首元にミートし、気合の掛け声と共に豪はそのままバットを振るかのようにして
そのまま右腕をスイングさせた。
零は打ち返されたボールの様に真っ直ぐ飛んで行き、そのまま頭から庭のブロック塀に激突する。
「零さん!」
唯が心配そうに、履物も履かずに庭に飛び出して零の元へ駆け寄った。
「零さん、大丈夫。」
「お〜い、リーダー生きてるか?」
「あ〜あ、瞳孔が開いちゃってるよ。」
唯が心配そうな表情をしながらも零の半身を起こして呼びかける。
その後ろでは潔や仁といった面々も駆けつけて、零に声をかけた。
「ふぅ…世話のかかる事しやがって…おわっ」
「アンタもでしょ、全く!やりすぎなのよ、アンタは。」
千絵は後ろから誇らしげに右腕をさすっている、豪の頭に竹刀を振り下ろした。


(その7)へ続く

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