【 続・ケーキなんか大キライだ 】−(その9)

千絵はすっかり暗くなった道を自分の家目指して、一人歩いていた。
「はぁ…なんであんな事、しちゃったんだろう…」
風邪の為か、頭がボーッとし考えが定まり難かったが、感情にまかせて廊下で豪にひどい事をした事を
思い出しては、後悔しつつ家を目指していた。
「あっ…そういえば…ケーキ置いてきちゃった…まぁ、いいか…」
どうせ、わたしが作ったのなんか…。と呟きかけたが、外が思ったよりも寒かったので言葉が
続かなかった。
「おいっ!」
千絵は後ろから大きな声と共に肩を捕まれたので慌てて後ろを振り向くと、追いかけてきた豪が
息を切らしながら立っていた。
「ご、豪くん。おどかさないでよ。ゴホッゴホッ…」
千絵は驚いて、言おうと思ったが咳が出てしまい、続きを言う事が出来なかった。
「どうしたのよ、こんな所まで来て。」
「これ、おめぇのだろ。忘れもんだぜ。」
そう言って豪はかざすように千絵にケーキの箱を見せる。
「バ…バカじゃないの、何でそんなものの為にわざわざ追いかけて来るのよ!」
「だって、おめーが作ったんだろうが。」
千絵は火照り気味だった顔がさらに紅潮し、思わず豪に怒鳴ってしまったので、負けずに豪も怒鳴り返す。
「ふん!そんなもん、今更いらないわよ。」
「じゃあ、どうするんだよこれ?」
「あんたが好きにすればいいでしょ!」
「じゃぁ…食っちまうからな。いいんだな?」
豪は顔を真っ赤にして千絵の方を見ずそっぽを向きながら言うと、徐に箱を開き始めた。
「ちょ、ちょっと、豪くん。こんな所で…人が来たらどうすんのよ」
道中で箱を開け始める豪を見て慌てるが、豪はお構いなしに器用にケーキを1つ取り出しては、
一気に半分を口の中に入れてしまった。
「うめぇじゃなぇか、おめぇが作ったのか?」
「うん…一応、唯に一通り教えてもらったんだけどね。」
豪は素直にケーキを一口食べて感想言うと、千絵は頬を紅潮したままうつむき加減に呟いた。
「言っとくけど、お世辞じゃないからな。」
「わかってるわよ!そんな事…」
「なぁ、ケーキ美味いから全部貰って良いか?」
「全部!?いいけど…そんなに食べれるの?」
千絵のそう言って心配したが、豪は瞬く間に全てのケーキを平らげてしまった。
「ほらよ、美味かったぜ」
豪は満足そうな表情で空になった箱を千絵に差し出す。
「あっ、ありがとね…それに…さっきはゴメン。あんな事して…」
千絵は箱を受け取ると礼と共に廊下での出来事について頭を下げて謝った。
「ん…?何の事だ。さっきまで酔ってたから何の事か覚えてねぇや。」
「フン…口にケーキ付けてカッコつけるんじゃないの。」
千絵はそう言ってポケットからティッシュを出し、恥ずかしそうにしながらも口についているクリームを
拭ってあげた…。


… 翌朝。
豪に送ってもらった千絵は一版寝るとすっかり元気になり、唯と共に学校に登校した。
そして朝のHRで蘭が出席を確認する。
「冷越豪くん…。あれ…豪くんはどうしたの?」
蘭は豪一人だけが欠席しているようなので、零達に何か聞いていないか尋ねた。
「大くん、何か聞いているかい?」
「うん…今日、豪の家に寄ったんだけど、なんでも叔母さんがいうには「腹、壊したから休む」って…」
「へぇ〜、珍しいな豪の奴が腹痛なんてよ。」
「今まで、そんな事一度もなかったよなぁ〜」
豪は今までそう言った理由で欠席した事がなかったので零や潔・仁までもが口を揃えて不思議がっていた。
「千絵…。もしかして豪くん。あのケーキ食べちゃったの?」
「バッ、馬鹿…変な事言わないでよ。いくら何でも一人で全部食うから悪いのょ!」
千絵はそう言って必死に否定した。

「ふぅ…これじゃ…試験は当分延期ね…」
そう呟いて、がっくり肩を落とすのは、今日の放課後に模試を行おうと考えていた蘭だった。


…一方、冷越家では
「う……」
豪は布団を頭から被って苦悶していた。
「豪、一体どうしたの?滅多にお腹なんか壊さないお前が腹痛なんて」
腹痛の薬と水入れを持ってきた叔母が、心配そうに尋ねるが豪は痛さのあまり、苦悶の声をあげるだけで
答えられなかった。

…結局、豪はそのまま2日間学校を欠席しまい、奇面組への模試はその次の日の水曜日に行われたのであった…。


(あとがきへ続く)

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