【 第 2 章 】−(1)

デパート『Nisetan』に入った3人は千絵ちゃんの服を買うために婦人服売り場を見て回っていった。
最初、千絵ちゃんはなかなか気に入ったのがなく
2人を連れて
色々な所を歩き回っていたが、
唯維ちゃんが手頃な値段で千絵ちゃんに似合いそう服を
見つけ薦めてみると唯維ちゃんの見立て通り、
千絵ちゃんもその服を気に入った様で
すぐにレジへ行き購入した。
3人は服を購入するまで、色々なお店を回っていたので気が付くといつのまにか時間が12時半を
越えていた。

千絵ちゃんは唯維ちゃんに対して服のお礼をした後で一緒に昼食を取ろうと誘って見る事にした。
「唯維さん、一緒に上の階でお昼ご一緒にしませんか?」
「いいよ。私もそう考えていた所だったし今回は2人に出会った記念として私が特別におごってあげる。」
「え〜っ!本当ですか〜!!」
「上の階だったらおいしいパスタのお店があるからそこでお昼にしましょうよ。」
「あっ、それならあたしも知ってる、唯と時々2人でいきますから。」
「じゃあ行こうか。」
唯維ちゃんがそう言うと3人は『Nisetan』の最上階にあるパスタのお店に向かいました。
3人はエスカレーターで最上階に向かいましたが途中、先頭にいた千絵ちゃんが1段後にいた2人を見て
「しかし、本当にそっくりですね。あたしや唯でもびっくりしたんだから。唯の所の叔父さんや
あの連中が見たら、きっと腰を抜かすでしょうね。」

「そーね、きっとみんなびっくりするでしょうね。」
「連中って?あなた達の友達?」
唯維ちゃんが千絵ちゃんに聞き返す。
「まぁ、友達と言えば友達かな・・・あたし達のクラスの中に「奇面組」って呼ばれている個性的な5人組が
いたんですよ。」

「へぇー。あなた達が個性的っていう位だから、さぞかし変わっているんでしょうね。どんな人達なの?」
「うーん、どんな人って言われても・・・とにかく一度会えば忘れられない人達である事は確かですけど・・・」
唯ちゃんがどう答えて良いかわからず、言葉を濁した形でそう答えた。
「ふ〜ん。」
話をしている間にエスカレーターの終点に近づいたので唯維ちゃんは短く答えただけだったが、
心の中では奇面組に対する興味を覚えていた。
2人の話では一体
どんな人物かは解らなかったが、
かえって言葉で表現できない程、個性的な人達
なのだろうと思い始めていた。
さて、最上階に到着した3人はお目当てのパスタ専門店の前に到着した所で唯維ちゃんが2人に近づき
小声で話しかけた。

「あなた達なら大丈夫だと思うけど・・・奢るとは言ったけど、ほどほどしてよね。あたしもそんなに
たくさん持ってる訳ではないんだから・・・」

「大丈夫ですって心配しないで下さい。」
2人はそう苦笑しながら答えると唯維ちゃんはホッとしたようで3人は何を頼むか店の前に飾られている
メニューを見て決めることにした。

「唯はどうするの?」
「う〜ん、私はこれにしようかな。」
と唯ちゃんはペペロンチーノを指差すと後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
零「う〜ん、それでは私はどれにしようかな。」
仁「僕は食べられる物だったら何でも良いや。」
豪「そうだな、なんたってスポンサーがいるし。」
自分達の背後にいきなり現れた3人の会話を聞いて背筋がぞっとするような感じを覚えた唯ちゃんと
千絵ちゃんは思わずその場から後ずさりするようにして逃げ出した。

零「おーい、スポンサーの君達が逃げ出しちゃ駄目じゃないか。」
「れ、零さん何でここにいるの?」
「あんた達!一体どこから現れるのよ!それに誰がスポンサーよ!誰が!」
「えっ、だって千絵ちゃんの服、買いに行くのに付き合ったら我々に昼飯を奢ってくれるって・・・」
「誰から聞いた!そんな事。」
千絵ちゃんは怒鳴るようにして奇面組に言い返す。
「都合の良い解釈しないで下さい。今日は私と千絵が唯維さんに奢ってもらうんです。」
唯ちゃんも来るんじゃないかと心の中では思っていたが、本当に奇面組が来た事に
半ば呆れてしまっていた。

豪「だから唯ちゃんが奢ってくれるんだろ?」
「違います。私ではなくてあちらの唯維さんが私達に奢ってくれるんです!」
そう言うと唯維ちゃんの所へ行き奇面組に紹介をする。
5人は唯ちゃんが行った方に振り向くとそこにはもう1人唯ちゃんにそっくりな人がいた事に
ようやく気付き、
5人は慄き慌てふためいた。

「何で唯ちゃんが2人いるんだ?もしかして唯ちゃんって双子なのか?」
「ちょっと豪くん。何であたしと同じ事を言ってるのよ。」
同じリアクションをし、同じ事を言ってくる豪くんに対し千絵ちゃんがムッとした表情で言ってくる。
「豪くん、違うったら。こちらは私と同じ名前の『河川 唯維』さん。私とよく似ていますけど双子でも
姉妹でもない別人です。」

唯ちゃんは手を横に振り違うという仕草をした後、彼らにも解るように優しい口調で唯維ちゃんについて
説明をしていった。すると零くんがいつになく真剣な表情をして
唯ちゃんに近づき・・・
「唯ちゃん、君は偉い!」
「え?」
「いやー、いつの間に我々にしか会得出来ないはずの秘技『細胞分裂』をマスターしたのだ?」
と言いながら2頭身になって零くんは秘技『細胞分裂』で分裂し2人の唯(唯維)ちゃんの前で
あっという間に
4人に分裂し、それを見た唯ちゃんは
思わずコケてしまう。
「一体、何を聞いていたんですかさっき唯も言ってたでしょうが、全くの他人だって。」
千絵ちゃんも口を尖らせながらも唯ちゃんのフォローをするべく必死に奇面組に唯維ちゃんの事を
説明したが、なかなか
5人は状況を理解できない様であった。

「まさか・・。ここまでとはね・・。」
一方、唯維ちゃんは心の内で、そうつぶやきながらじっと彼を見ていた。もちろん唯維ちゃんに
見つめられている彼を含め、唯維ちゃん以外の人は誰も気付いていない。

最初こそ奇面組の顔つきやその行動で呆気に取られていたが、今は唯ちゃんや千絵ちゃんと奇面組の
やりとりをじっと見守っていた。彼女達は何も言っていないが恐らく
あの5人が奇面組と呼ばれる人達だと
心のうちでは確信していた。

唯維ちゃんはしばらく彼らのやり取りをずっと眺めていたが、近くを通行する人達がこちらに対し
視線を投げかけているのを感じていたので唯ちゃん・千絵ちゃんの2人に

そっと近づいて小声で耳打ちした。

「ちょっと、2人とも。そろそろ中に入らない?こんな所で騒いでいると周りの人達にも注目されてしまう
じゃない。」

「すみません、つい・・・」
唯維ちゃんに耳打ちされ落ち着いたのか千絵ちゃんは顔を赤らめ下を向いた。
「ねぇ、あなた達が彼女達の言っていた「奇面組」って呼ばれている人達でしょ。
せっかくだからあなた達も中に入らない?何か奢るからさ。」
それを聞いた5人は大喜びする。
「ちょっと、唯維さんそんな事したら・・・」
慌てて千絵ちゃんが唯維ちゃんを止めにかかった。
「いつまでもこんな所で騒いでいたら周りの人にも迷惑じゃない。」
「だけど、連中なんかに奢ったら何を頼むかわかりませんよ。特にあの中には底なしの胃袋を持っている
のもいますからね・・・」

千絵ちゃんの後半の指摘は言うまでも無く仁くんの事である。
「大丈夫だって7人分ちょっとお金かかるけど何とかなるって。」
「でも・・・」
「大丈夫ここはあたしにまかせて、ね。」
唯維ちゃんはそう言うと奇面組を手招きし彼らと一緒に店に入った。
唯ちゃんと千絵ちゃんは互いに不安そうな表情を隠し切れないまま6人の後に続いて中に入っていった。

【第2章】 - (2)へ続く

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