【 第 2 章 】−(3)

唯維ちゃんの答えには奇面組の面々だけでなく質問した千絵ちゃんまでもが驚いていた。
しばらくして注文したランチセットがウェイトレスによって運ばれてきたが、食事しながらも8人の
座っているテーブルはさながら小さな尋問場のように、
千絵ちゃんや奇面組が色々と唯維ちゃんの事を
聞き出そうしていた。

唯維ちゃんも1つ1つそれに対してきちんと答えていった。
唯維ちゃんの話によると家は両親・弟との4人家族で両親は唯ちゃんと同じ様に父が画家で母も病弱で
唯維ちゃんが高校卒業するまでは伏せっていたらしい、
ただ父の
名前は『板造』ではなく、まだ画家といっても日本画が専攻というのは唯ちゃん家と
違っていた。また唯維ちゃん自身、現在は教育関係の勉強の為、大学で行っており将来は小学校の教員に
なるのが希望していると事も奇面組や唯ちゃん・千絵ちゃんに
話した。

それを聞いた千絵ちゃんが
「唯は確か短大だったよね。保母さんになる為に」
「ええ・・・小さい子ってみんな手はかかるけど可愛いしね。」
「じゃあ、2人とも将来子供を相手にした仕事をするのが希望って所は同じなんだね。」
「あたしは子供が好きだから、将来子供の為に何かの役に立てないかなと思ってね、色々考えた末に
小学校の教師になりたいと思うようになり、今の大学に通ってるの。」

「ふ〜ん、ここまで似ているって事もあるんだな。」
食事も終え、唯維ちゃんの話も一通り聞いた後で、コップに入っていた水を一気に飲み干し
豪くんがボソッと呟いた。他の
4人も同じ様な事を思っていたらしく、
不思議そうな表情をして並んで座っている二人の唯(唯維)ちゃんを見ていた。
「まぁ、あたしも最初は驚いたけど・・・今は良い友達が7人もできて良かったと思っているよ。」
そう言うと、唯維ちゃんは微笑んだ。言葉遣いなどは唯ちゃんと違う所があるが微笑んだりする時の
表情なんかは本当に唯ちゃんにそっくりであった。

「ところで、唯維さんも東京に住んでいるんですか?」
「ううん、中2から高校まではこっちだったけど、大学は大阪にあるから今はアパートで1人暮らし
しているわ、明日には帰るつもりだけどね。」

唯維ちゃんがそう答えた時である、突然何かを思い出したかの様な表情で大くんが話し始める。
「ねぇ、今思い出したんだけどさ、ボクの家の店の中にあった本に唯ちゃんたちのような事を
書いていた本があったよ。」

「何が書いてあったんだよ、大。」
「う〜んとね、確か・・・世の中には自分にそっくりな人がいるんだけど、ただ顔立ちがそっくりな
だけでなく名前や生まれや家族構成、それに
2人とも結婚とか人生の中での出来事も同じような経験して
いるんだって。」

それは正に今の2人の唯(唯維)ちゃんを表すかのような話であり、大くんはこの後、本の中に
書いてあった実例を簡単に紹介していき、
それを唯ちゃん以外の人は頷いて聞いていた。

他の6人が大くんの話に耳を傾けていたが、一方で唯がちゃんは複雑な表情をし、うつむいていた。
唯維ちゃんや大くんの話を聞いているうちにある事が頭をよぎって不安にさせていたからであった。
「どうしたの、唯?気分悪いの?」
千絵ちゃんが元気のなくなった唯を見て心配そうに声をかける。
「えっ、ううん・・・大丈夫。ちょっと考え事をしていただけだから。」
唯ちゃんは千絵ちゃんや奇面組に心配かけないように作り笑いでそう答える。
「じゃあ、唯ちゃんもいつかは大阪に行っちゃうのか?」
「えっ、零さんいきなり何言い出すの?」
「だって、こっちの唯維ちゃんが今大阪に行ってるんだったら唯ちゃんも行く事になるんじゃ・・・」
大くんから話を聞いて気にしたのだろう、零くんが唯ちゃんに心配そうに尋ねてくる。
「だっ、大丈夫だって、零さん。確かに似ているけど全く同じってわけではないんだし・・・
それに学校は東京にあるしお母さんの面倒見なければいけないから、どこにも行かないわ・・・」
唯ちゃんはそう言うと零くんをはじめ奇面組の面々はホッと胸を撫で下ろし、唯ちゃんが遠くに
行かない事を喜んでいた。


その一方で唯ちゃんは不安に駆られていた。
『零さんにはああ言ったけど、本当はどうなんだろう?私も2年後には唯維さんと同じ様になるのかな?』
唯ちゃんは心の中で思っていた。まるで自分が分身したかのように隣に座っている唯維ちゃん、
しかもそれは自分の
2年後の姿であるかも知れないもう一人の私・・・
2年後には自分も唯維さんと同じ様になるのかな?唯維さんは零さんみたいな人と
付き合っているのかな?それとも・・・』

それを考えても詮無き事だと一方ではわかっていてもどうしてもその事に対する思いが募っていき、
それが唯ちゃんの胸の中で苦しめていった。

勿論、周りに悟られないよう唯ちゃんは表情にそれを出す事は無かったし、水を飲んだりして
自分を落ち着かせようとしていた。

隣にいた唯維ちゃんはその事に特に気付いた様子もなく、水を飲み千絵ちゃん達と会話を交えていた。

唯ちゃんの気持ちとは裏腹に時間は過ぎていき食事も終わった所で千絵ちゃんが話をきり出してきた。
「唯維さん、この後なんですけど・・・もしお暇でしたら遊園地にでもこの連中とですけど一緒に
行きませんか?」

「え・・・遊園地?。」
唯維ちゃんは少し驚いた表情で千絵ちゃんを見つめる。
「実は今、遊園地のチケット持っているんですよ、こんなに・・・」
と言いながらバックから遊園地の入場券と取り出す。ちょうど8枚ある。
「これ、一体どうしたの?」
「実は卒業前に知り合いから貰ったんです。本当はすぐに唯たちと使おうかと思ってたんですけど、
唯が当日になって家を飛び出してしまってその時は行けなかったんですよ。」

「あっ、あれは一平とお父さんが急に当日になって色々と言ってくるから、つい・・・」
その時の事を思い出した唯ちゃんは顔を赤くしながら千絵ちゃんに言い返す。
「それでまだチケットが残っていたんです。服やお昼のお礼もしたいですし、唯維さんどうですか?」
「いいよ。今日は暇だし。遊園地か・・・随分行ってないから久しぶりだね。」
「わーい、やったー。遊園地、遊園地。」
唯維ちゃんが答えると一緒にはしゃぐようにして奇面組も喜んだ
「じゃあ決定ね。唯も一緒に行くでしょ?」
「え・・・うん。」
千絵ちゃんに聞かれて唯ちゃんも頷いて短く答える。
「どうしたの?唯、さっきから元気ない様に見えるけど。」
「そう・・・、何でもないよ。平気だって。」
唯ちゃんはさすがに思いつめていた事を表情には出さず、笑顔と作ってそう答えた。
ふーん、なら良いんだけど…。」
「おーい、何やってんだよ。早く行こうぜ。」
「ちょっと待ってよ、今行くから。ほら、唯も早く行こっ。」
「うん…」
豪くんがレジの所から呼びかけるので、それをあしらうようにして答えると席を立ち、

唯維ちゃん・奇面組の後に続くようにしてレジの方に向かう。

唯ちゃんも気持ちを切り替え、今まで考えていた事は無理に頭の片隅に押しやって
今は遊園地で皆と楽しもうと思い、千絵ちゃん達の後に続きレジの方へ向かっていった。

【第2章】 - あとがきへ続く

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