【 第 3 章 】−(2)

「ところであの子って好きな人いるの?」
唯維ちゃんは目の前で座っている千絵ちゃんに話し掛ける。いきなりストレートな問いに思わず
千絵ちゃんは辺りを見回すが周りには2人以外、誰もいない…
それもそのはずで、ここは観覧車の中で入る前にジャンケンをして千絵ちゃんは唯維ちゃんとペアになり
2人で観覧車のゴンドラから外の景色を眺めていた。
同じ様に唯ちゃんや奇面組もそれぞれペアで別のゴンドラに乗っていた。

遊園地に入った8人はジョットコースターやフリーフォールといった激しい乗り物を立て続けにこなし、
さすがに全員少々(特に唯維ちゃんと一緒に乗らされた奇面組の面々が)疲れたので一息つける形で
観覧車に乗ることにした。

千絵ちゃんが外を見ると頂点に差し掛かろうとしていた所ではるか遠くで富士山が見えるくらい
清んだ景色が広がっていた。
「う〜ん、そういう事については絶対に口が開かないですからね、あの子。」
と千絵ちゃんは景色を時おり見ながら先程の唯維ちゃんの問について応える。
2人の言う‘あの子’というのは言うまでもなく唯ちゃんの事である。
「あの子とはそういう話とかはしないの?」
「まぁ、たまにあたしからそういう話をするくらいなんですが、自分に話が及ぼうとすると
すぐにあたしの方に振ってくるんですよ『そういう千絵こそどうなの?』ってね。」
と軽く溜息をついて話す千絵ちゃんを見て、
(そういう所に関しては彼女から信用されていないのかもね)唯維ちゃんは
心の中でそう思いつつも口にはそれを出さず「そうなんだ」と言って外の景色をチラッと見る。
「唯維さんはあの子を見てて、何か感じる事とかはないんですか?」
「感じるって…何を?」
「例えば、あの子の考えが伝わってくるとか、次に何をするのかがわかるとか、
そう言うのってなんかありませんか?」
「あのね〜、別に超能力じゃないんだから判るわけ無いでしょう、ただ単に似ているだけなんだし。」
千絵ちゃんの方へ顔を向け、唯維ちゃんはそう言って呆れてしまう。
「なら、そういう唯維さんの方はどうなんですか?」
「なっ、何で今度はあたしになる訳?」
と唯維ちゃんは少しムッとした表情になった。
「だって、唯維さんにもそういう人がいるのか興味あったし、もしかしたら唯とその辺も
同じなのかなと思って。」
ちょっと含みのある笑いをしながら唯維ちゃんに尋ねる、
「そう言う事なら答えません。」
と唯維ちゃんはきっぱりとした口調で答え、顔を外に向け再び視線を外の景色に移す、
話をしている間にゴンドラは頂点から2〜3時あたりの所まで下がり、外の景色からも高度が
下がっている事が感じられた。
「え〜っ!いいじゃないですか、教えてくださいよぉ〜誰にも言いませんから」
ちょっと媚びるような口調で言ってくいさがる。
「だ〜め、それにもうすぐ下に着いちゃうから時間も無いし。」
「え〜っ!そんなぁ〜」
と千絵ちゃんはそう言って肩を落とす。
「千絵さん、ごめんね。」
唯維ちゃんは軽く頭を下げて謝る。
千絵ちゃんも別にはぐらかされた事に対して怒るつもりは全くなかったので頷き返す。
やがて、千絵ちゃんと唯維ちゃんを乗せたゴンドラが下に着き係員がドアを開けると2人は外に出た。
2人はメンバーの中で一番最初に乗ったので降りた後、他のゴンドラが見える所まで少し歩いて行く。
そこで千絵ちゃんは背筋を伸ばして体を解している時に唯維ちゃんは顔を見上げて降りてくる
ゴンドラの1つを見つめていた。
そこには唯ちゃん・零くん・大くんの3人が乗っていて、唯ちゃんも下から見ている
唯維ちゃんに気付いたようで手を振っている。
唯維ちゃんも少し遅れて気付き、軽く手を振って返す。
(ごめんね千絵ちゃん…)
手を振りながら心の中でもう一度千絵ちゃんに謝り、そして…
(もし、今のあたしとあの人の事を話してそれをもしあの子がそれを聞いてしまった時、
どう思ってしまうか怖いから…)
隣で千絵ちゃんも唯維ちゃんと同じ様に唯ちゃん達に向け手を振っていたが、
いつの間にか唯維ちゃんは暗く考え事をしている内にその振っていた手を下ろして
しまっていた。

【第3章】 - (3)へ続く

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