【 第 4 章 】−(4)

唯維ちゃんは高校を卒業してからの経緯を全て唯ちゃんにありのまま話した。
全ての話を聞いた唯ちゃんはその内容に表情が凍りつく。そして話が終わると心の中でまたもや
不安が掻き立てられる。昼間のレストランで感じたのと同じ感覚だった。
(もしかしたら、零さんも…)
話を聞いた直後なので少し俯き加減になり困惑する。不安を払拭しようとしても、どうしてもその事が
思い浮かんでしまう。
「零くんの事が心配?」
唯維ちゃんが心配そうに尋ねる。
唯ちゃんはそれに対しコクンとうなずく。
「心配させるような事を言ってしまって…ごめんなさい。でも、これはあたしが歩んで来た生き方で
あってもあなたが同じ道を歩む訳ではないのよ。あなたはあなたで今まであたしと違う生活をして
きたんだし、過去で少し似たような経験をしたからといって未来が同じになるとは限らないわ。
それにもし、同じ道を進んでいるのだとしたらあなただってあたしと同じ大学に行ってなくちゃ
いけないでしょ?ほら、そこから違ってるじゃない。」
そう言って、唯維ちゃんは唯ちゃんの右手を包み込むようにして両手を添える。
唯ちゃんはひんやりとしていた唯維ちゃんの両手で掴まれて軽く驚く。
「あなたが零くんの事をどう思っているかはわからない。それについてあたしがとやかく
言うつもりもないけどね…」
唯ちゃんは唯維ちゃんの言っている意味が掴めていないのか少し困惑した表情になる。
「でも、もっと周りに遠慮しないで。もし零くんの事が好きなら、どんどん積極的になって欲しい。」
「べ、別に…さっきも言いましたけど、私、零さんとは何も…」
唯ちゃんは耳まで真っ赤にしながら消えて行きそうな小声で弁解する。
「嘘おっしゃい。口に出さなくても顔にはそう出ているわよ。」
唯維ちゃんは唯ちゃんを軽く睨み、強い口調でそう答える。
「さっきも言ったけど、あたしも2年前に零さんに告白するまであなたと同じ気持ちだったから
わかるのよ。あたしはあの時、自分の気持ちを零さんに打ち明ける事で少しは変われたと思う。
だから、零さんがあんな風になってしまった今でも自分のした事に後悔だけはしてないわ。
事故にあうまでのたった3ヶ月の間だったけど、零さんと本当の意味で一緒に過ごす事ができて
すごく幸せだったって思っている。だから、唯ちゃん…あなたにもきっとすぐに自分の気持ちに
正直にならなければいけない時が来るわ。周りの人は後押しする事くらいは出来るかもしれないけど
決断しなきゃいけないのはあなた自身なのよ。でないと…一生後悔する事になるからね!」
唯維ちゃんに凛とした表情で思わず見つめられながら強く言われたので、唯ちゃんは
圧迫されるような感じを受け少したじろぐ。
言い終えると唯維ちゃんは立ち上がって部屋の隅にあった靴を手にする。
「じゃあ…そろそろ帰るね。あまり長居するとご迷惑だから…」
そう言って唯維ちゃんは背を向けて襖を開けようとする。
「あっ、待って。駅まで送っていくから…。」
慌てて、唯ちゃんも立ち上がる。
「ありがとう。でも、気持ちだけ頂いておくわ。」
唯維ちゃんはやんわりと断った。
「そうですか…じゃあ、明日11時に一応駅に行きますね。」
そう言って唯ちゃんは襖を開ける。
唯維ちゃんは頷いて部屋を出て、唯ちゃんも続いて出て玄関で靴を履き外に出た。
そして、最初にあった橋の上まで一緒に行くと唯維ちゃんが唯ちゃんの方へ振向く。
「唯ちゃん、話聞いてくれてありがとう。こんな夜更けにあんな話に付き合わせてごめんね。」
「いいですよ。私こそ色々と励まして貰いましたし、何よりも唯維さんにも零さんがいた
事が嬉しかったんです。それに唯維さんも私と同じだって事がわかったから…」
少し照れながら唯ちゃんはそう言って微笑んだ。
「えっ、今、何て言ったの?私と同じって…」
唯維ちゃんは少し驚いて唯ちゃんに聞き返す。
「なっ、なんでもありません。それじゃあ、お休みなさい。」
唯ちゃんは笑いながらそう言って家の方へ帰って行った。
唯維ちゃんは苦笑するも自分も家に帰るべく、振り向いて駅の方へ歩いていった。

「自分の気持ちに正直に…か…」
唯ちゃんは帰る途中、唯維ちゃんが言っていた事を思い出して立ち止まる。
唯維ちゃんの言う通りそろそろ自分の為に決めなければ、いけないのかもしれないと思っていた。
唯ちゃんが上を見ると空は晴れ晴れとして清みわたり辺り一面に星々が輝いていた。

次の日、唯ちゃんと千絵ちゃんは唯維ちゃんを見送る為、待ち合わせ場所の一応駅にいた。
唯維ちゃんは11時前に現われ、そして少し遅れて奇面組の5人もやって来た。
そして、唯ちゃん達は電車に乗りお互いに高校の時の話などをしながら電車を乗り継ぎ、
東京駅の新幹線のホームに辿り着いた。

唯維ちゃんは新幹線のホームで唯ちゃん達に話し掛ける。
「昨日は楽しかったわ、皆とも友達になれたし・・・もし大阪に来るような事があったら
連絡くださいね、歓迎するから。」
「唯維さんもまた東京に来てくださいね。」
「ええ…ありがとう。」
千絵ちゃんが言うと唯維ちゃんも嬉しそうに頷いた。
「それじゃあ、そろそろ出発するから行くね。」
「また、遊びにくるのだ」
「元気でね。」
千絵ちゃんや奇面組の面々が新幹線に乗ろうとする唯維ちゃんに次々に声をかけ、
唯維ちゃんも笑顔を見せ、頭を下げる。
「唯ちゃん、唯ちゃん!!」
唯維ちゃんは新幹線に乗ろうとした時に何かを思い出したかのような表情をし、唯ちゃんに
向かって手招きをする。
「えっ?」
不思議そうな顔をして、唯ちゃんは1人唯維ちゃんの側に駆け寄る。何で自分が呼ばれたのか
解らなかった。
「あのね…昨日1つ大切な事、言い忘れてしまったの。」
「何ですか、大切な事って?」
「あのね…あたしと零さんが初めて………なのが、……だからもしかしたらあなた達も……かもね。」
唯維ちゃんは恥ずかしそうに照れながらも唯ちゃんにだけ聞こえるようにそっと耳打ちする。
「ちょ、ちょっと変な事を言わないで下さい!!」
唯ちゃんは耳まで真っ赤にして抗議するように唯維ちゃんに叫ぶ。
少し遠くから見ている千絵ちゃんと奇面組の面々はちょうど、発車を示すベルがホームに
鳴り響いていて何を話しているのが全く聞こえなかった。
その…発車ベルがなり終わった頃、唯維ちゃんは笑顔を見せ唯ちゃんから離れて勢いよく
乗車口に乗り込む。
「みんな、ありがとう。さよなら。」
とホームにいる唯ちゃんに達に向かって手を振って元気な声で言った後、中に入っていった。
唯維ちゃんが中に入るとドアが閉まり、新幹線はゆっくり発車していった。
唯ちゃんが走り去る新幹線を見送っていると後ろから千絵ちゃんが近づく、
「ねぇ、最後に唯維さん。あんたに何て言ったの?」
「なっ、何でもないって、大した事じゃないから…」
千絵ちゃんが2人で話していた事を尋ねると唯ちゃんはその内容を思い出したのか
顔を赤くして俯きながら答えをはぐらかした。


【終章】 へ続く

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