2006年春 イタリア旅行記

5月2日(火)晴れ
ヴェネツィア


サン・マルコ寺院テラスから臨んだ「海の玄関」

起床後、サン・マルコ広場へ。時間が早かったので、広場はまださほど観光客でいっぱいというわけではなかったのですが、その中で中国人観光客の団体さんが目に付きました。首にカメラを提げて群れ固まっているその様子は、きっと30年前くらいの日本人の団体もこんな感じだったのだろうな、と思わせるものでした。ちなみに彼らは朝早くに観光する傾向があるそうで、確かに午後にもう一度サン・マルコ広場に来てみたら、各国の観光客で賑わういつもの光景でした。
私は、サン・マルコ寺院 Basilica di San Marco に入場し、いつものように博物館 Museo di San Marcoへ。博物館が私にとって必須ポイントなのは、上階に上れて金色に輝く天井のモザイク画を近くで見られること。もちろん、バルコニーから、サン・マルコ広場の賑わいや小広場(Piazetta)とその向こうの「海の玄関」(上の写真参照)を俯瞰することも出来るし、コンスタンティノープルの四頭の青銅の馬の本物も間近で見られます(現在、寺院正面、バルコニーに置かれているのは、レプリカ)。

続いて、これまたヴェネツィア必須ポイントのアカデミア美術館 Gallerie dell'Accademia へ。ヴェネツィア美術の概要、代表作を網羅したこの美術館は、規模が比較的コンパクトなこともあり、大好きなヴェネツィア派絵画を落ち着いて鑑賞できます。一枚一枚の絵に言及していたら、紙数が尽きてしまいますが、ご参考までに2001年の旅行記の記述はコチラ。今回、これに付け加えたいのは、ティントレットの『サン・マルコの遺骸の運搬』『奴隷の奇跡』の二枚。何か渦巻きを思わせる求心力のあるねじまがった空間(バロックの予感)、嵐の前のような胸騒ぎを覚えさせる絵画世界に引き込まれました。
そして、我が最愛の画家、ティツィアーノの遺作『ピエタ』に、時を忘れて魅入り、出口の同じくティツィアーノの『マリアの宮詣り』に、「また来ます」と心の中で挨拶して、ガレリエを出ました。



Riccardo Wagner frequento' questo luogo meditando e scrivendo 1883

1883年"リッカルド"・ワーグナーはこの場所に通い、瞑想し作曲した
バールで簡単な昼食後、またまたお約束のコースなのですが、サンタ・マリア・グロリーサ・デイ・フラーリ聖堂 Basilica Santa Maria Gloriosa dei Frariへ。大学の卒業旅行以来、ヴェネツィアを訪れる度、このゴシック式の教会に通っています。ティツィアーノ初期の集大成『聖母被昇天』が主祭壇を飾り、左側廊には同じ画家の『ペーザロ家の聖母子』が、右側廊には、ティツィアーノ自身の墓所があるからです。高さが7m近い板に描かれたこの油絵を初めて目にした時、自分の卒業論文に取り上げた絵がこれほどまでに輝かしく偉大なものだったとは!と、異教徒である私も心からの敬虔の思いに打たれました。宗教画が、美術館でなく、本来の場所に置かれているという状態がどんなに尊いことであるか。 地上で驚き祈る弟子達に見上げられ、天使たちに押し上げられながら、眩しい光の源である天の主の下に上っていく聖母マリア。その美しい容貌は、この地を訪れたワーグナーがおりしも作曲していた『トリスタンとイゾルデ』のイゾルデのイメージの源泉としたとも言われています。
今回もいつものように、心行くまで天上の絵画を堪能しようと思ったところ…スピーカーからバロック音楽が絶え間なく流れて、集中力を削ぐことはなはだしい。そもそもBGMなど不要もよいところの上、音質も悪い。思わず、京都の竜安寺の庭に行った時に、スピーカーからガーガーと説明が流れていたことを思い出しました。どんな宗教であろうと、こんな安手の観光客向けのサービスは不必要だと思います
さらによく目を凝らすと、『聖母被昇天』の画面がところどころ折り目がついたように浮き上がっています。絵の保存状態が悪化しているのではないかと、気になりました。

がっかりした思いを抱えて、サン・マルコ広場に戻ると、一服しにCafe Lavena カフェ・ラヴェナに入りました。有名なカフェ・フローリアンの斜め向かいにあり、同じく高級カフェとはいえフローリアンほど敷居が高くはないので、以前はトーストとカフェラッテ(美味で量が多いことを考えれば、それほど高くなかったと思う)の昼食を摂ることもありました。ユーロ以降は、以前のように手軽に飲食出来ないだろうは予測できたので、今回はスプレムータをカウンターで立ち飲みしました。カウンターの向かいのテーブルの際の壁に、ワーグナーを記念するプレートが掲げられているのは変わりません。ちなみにこの店は、カール・ベーム、マリオ・デル・モナコ、フランコ・コレッリらも常連だったと上記公式サイトに記されています。
しかし、このカフェにもいささかの変化が…。2階の化粧室に入ったところ、以前のように管理のおばちゃんの姿が見えず、ぴかぴかにきれいでなくなっている…。途中で電気が消えて真っ暗になるし…。ちなみに、筆者はたとえチップを払っても、きれいな化粧室を使いたい人です。


夕方になって、仕事を終えた友人と合流しました。彼女のアパートへの帰途、スクオーラ・ダルマータ・サン・ジョルジョ・デッリ・スキアヴォーニ Scuola Dalmata San Giorgio degli Schiavoni(Scuola Dalmata delli Santi Giorgio e Triffon)を一緒に見学。15世紀に建立されたダルマチア(現在のクロアチア)人たちの為のスクオーラ(信心会)で、カルパッチョの壁画『聖ジョルジョの伝説』『聖トリフォンの奇跡』が遺されています。すべてがカルパッチョの手になるものではありませんが、1、2階とも天井・壁に聖人伝で埋め尽くされ、カルパッチョの特異な世界を堪能できました。ここを知ったことは、今回のヴェネツィアめぐりの収穫のひとつ。この近辺は運河からは少し離れていますが、いかにも普段着のヴェネツィアらしい街並みです。

右の写真は、上記の界隈とは違いますが、「裏通り」ならぬ「裏運河」ともいうべき、やはり普段着のヴェネツィアらしい風景だと思い、掲げてみました。

ところで、ヴェネツィアに限らないことなのですが(それどころか東京でも…)、街のあちこちに落書きが多くて、なんとも気になりました。以前は、これほど多くなかったのに。

この日の町歩きは、ここまで。

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2007年8月2日

→5月3日に続く


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