日本の芸術を研究してみると、あきらかに賢者であり哲学者であり知者である人物に出合う。彼は歳月をどう過ごしているのだろう。地球と月との距離を研究しているのか、いやそうでない。ビスマルクの政策を研究しているのか、いやそうでもない。彼はただ一茎の草の芽を研究しているのだ。ところが、この草の芽が彼に、あらゆる植物を、つぎには季節を、田園の広々とした風景を、さらには動物を、人間の顔を描けるようにさせるのだ。
     硲伊之助訳「ゴッホの手紙」
草花の一枝を枕元に置いて、それを正直に写生して居ると、造化の秘密が段々分って来るような気がする。     子規「病床六尺」
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