素人歴史家たるわたくしは我儘勝手な道を行くこととする。路に迷っても好い。もし進退これきわまったら、わたくしはそこに筆をすてよう。いわゆる行当たりばったりである。これを無態度の態度という。 (中略)意にまかせて縦に行き横に走る間に、いつかかつ然として道が開けて、予期せざる広大なるペルスペクチイウがえられようかと、わたくしは想像する。そこでわたくしは蘇子の語を借りきたって、自ら前途を祝福する。いわく水到りて渠なると。 鴎外「伊澤蘭軒」その三
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