pauw3  

すくーる・らいふ 校門編

早朝7時半。
今日は朝連もないはずの、3月とある土曜日だった。

「あ、手塚、おはよう〜」

いつも通りの朝の風景のように、門扉に手をかけているとと、不意に声をかけられた。
振り向くと、走り去る派手な車をバックに不二が手を振っている。

「おはよう。どうした?今日は練習は午後からだぞ?」
「ん。ちょっとね、10時からガットの張替えを頼んでるんだけど、ラケット1つ忘れちゃっててね。取りにきたの」

休日らしく、制服ではないが、抑え目のチェックのシャツにチノをはいた不二はテニスバックを肩に抱えてるのが、
ちょっと不釣合いなくらいだ。
それとは対照的にきっちりと隙なく制服を着込んだ手塚に、不二は、バックを降ろしながら、くす、と笑みを零す。

「なんだ?どうかしたか?」
「…制服なんだね」
「…?生徒会の用意だからな。卒業式の準備がまだ少し残っているんだ」
「ふ〜ん」

いつもちょっと可笑しげに含み笑いをする不二に手塚は「…?」という顔しかできない。
掴みどころのないリアクションをする相手に、つい眉間に皺もはいる。

「なんだ?不二」
「ん。ねえ手塚って頭の中に棚いくつあるの?」
「は?なんだって?」
「んーだって、あのテニス部の部長でしょう?それに生徒会でしょう?…なんか君、忙しくない?忙しいの
好きなのかなぁ〜ってね」
「頭の中に、棚って…それはどういう表現だ」
「英二といってたの。手塚の頭の中って、引き出しがいっぱいみたいだよねって。やっぱりちゃんと引き出しにはインディクスが張ってあるのかな?『テニス部用』とかさ。ウェアに着替えたら、生徒会とかの引き出しに鍵かけちゃうの?」

土曜日は管理人がいない為、開いていない門扉を押してあけるながら、手塚はちょっと困る。これは困る質問だ。

「自分ではあまり忙しいとは思っていないんだが…」
「僕らはお陰で楽だけどね。あんなアクの強い奴ら纏めていくのなんて、無理だもの。適所適材ってね」
「お前も少しは後輩の面倒でもみてくれよ」
「僕は自分で精一杯」
「そんな嘘をいうな」

心の奥まではそうそう覗かせようとしない相手。それでもネットを挟んで向かい合えば、どういう性格かは判る。
決して奥底は見せない、考えていないようみせて、それでいて考えていて、相手を揺さぶって、把握して、どこまで楽しめるかを探り、純粋に楽しむプレイ。
そう…テニスならわかる。

「手塚、それどれくらいかかるの?」
「ん、名簿と座席の再チェックだから1時間くらいだと思うが…。…待てるか?何か迷ってるものでもあるんだろ?」
「そう。よかった!助かるよ。シューズなんだけど、新しいの1つ予備買いたいと思ってね。手塚もそろそろガット張替えだろ?」
「じゃあ、お前は私服だからな…。部室で待っててくれ」
「判った。ちょっと打っててもいい?」

手塚からチャリ…と部室の鍵を預かると、不二はバックを片手に部室に向かっていった。

「不二!」
「判ってる。もう肩は痛くはないけど、無理しないから安心してよ」

気苦労と考えることのたくさんたくさんある手塚の頭の棚。不二ファイルから『不二、左肩打撲痛あり』の項目が削除される。
更に『ゴミ箱』から捨てるには、もう一度確認をしてからだ。
飄々と去っていく仲間の後姿に、ため息をちょっと漏らすと手塚は校門を後にした。10分。ここでロスした分を早送り
しなければ10時の予約に間に合わない。
覚えている名簿を頭の中で、反復しながら手塚は歩く速度を速めていった。

早朝の校門。今、朝の鐘が鳴った。