メグに連れられるままに、酒場へとやってきたシンゴ。
相当酒が入り、
ろれつの回らない客もチラホラ見受けられる。
その光景は憩いの場とは、程遠いものであった。
竜使い・11日目
『ここはボブの酒場。
竜使いたちの たまり場ね。
みんな ここで 仕事のウサを はらすんだってさ』
来るなり、そう言うメグ。
ふ〜ん、なるほど。
やっぱりサラリーマンみたいだなぁ、竜使いって。
ここで充分発散して、戦いに行くのだろう。
店の中はランプで照らされてはいるが、ほの暗い。
置かれているテーブルや椅子は
材木の切ったままを、くっつけたようなブサイクな作りをしている。
よくよく天井なんかを見渡してみるとクモの巣が張っているが、
しかしまぁ、これも、味、か。
中央には、サメの歯がドーンと飾ってもあるが、
これだって味だと言い切ってしまえば何の問題も無かった。
それにしても豪快。
とりあえず僕は片っ端からもれなく、
飲んだくれに話しかけることにする。
「ロールプレイングゲームにおいて、
酒場とは、たいてい情報を集める場所である」
と、僕の頭の中にインプットされているからだ。
真の酔っ払いだけが存在する酒場を
テレビゲームの中で、あまり見かけたことはなかった。
まずは、店の入り口近くに陣取る男と話し込む。
名はサワッディ。
あっ、こいつは!
どうも、キリコに絡んだ話をすると思ったら、
出撃前に見かけたキリコの取り巻きじゃないか!
話によると、僕は、
どういったワケかキリコに気に入られているらしく、
それがサワッディには納得できないようだ。
『NO.2の座は渡さねえぞ!』
なんて息巻いている。
おいおい、さっき竜使いになったばかりだぞ、僕は。
なにをそんなにムキになっておるのだ。
むむむ、さては・・・
はっは〜ん。
あんた、キリコに、ほの字だね?
いやいや、いいからいいから!
みなまで言うな!
わっはっは!
僕はそのままの勢いで席を立った。
またもや風呂あがりの親父のようなテンションである。
酔っ払いよりもタチが悪い。
つづいての標的は若い2人組だ。
ぐぇっへっへ。
どぉ〜んな話をしとるのかな〜?
おっちゃんも混ぜとくれ〜。
おーととと、手が滑ったーっ。
そして肉をつまんでしまったーーっ。
いやいや、失敬失敬、もぐもぐ。
うへへへへ、もぐもぐ。
んで、なに、ふたりは、どんな関係なの?
えらく迷惑なおっちゃんこと僕は、
耳のついた妙な帽子をかぶった男に話しかけた。
『ボクの前にいる よっぱらい、
シュリエって いうんらけろさ。
こいつ ああ見へれも とへも優秀なサーチャーなんら』
ふんふん、サーチャーねぇ。
知っとるで知っとるでぇ〜。
あれやろ?
元ヤクルトの野村監督のカミさんのぉ〜、
て、それはサッチーやないかぃ!
わはは、はよツッコまんかい!
んで、んで、優秀なんだけど、どうした?
『らのに ボクの研究に付き合ってるせいれーー
ランキングがた落ち〜♪
世界一の大バカら〜♪、ヒクっ』
うひゃひゃひゃ!
シュリエとかいう仮面の兄ちゃん!
アンタ、さんざんなコト言われとるでぇ〜。
なんか、反論ないの?ん?
大きく両目を覆う、妙な仮面をした男も
負けじと言い返す。
『俺の前にいる よっぱらい、
ナムピョンって いってさ。
こいつ ああ見へれも神殿の主席研究員様らんらぞ。
ほっほー、主席ねぇ。
なんや偉そうやな。
でもワシかて負けてへんで?
ほれ、この胸に光るバッヂを見てみぃ。
なにか分かるか、これが?ん?
そこの床で拾うてん。
わははは、これがまた臭ぇのなんのって、わはははは。
んで、なに、その、お偉い身分の人がどうしたって?
『らのに竜使いのマネごとらんぞ とつれん はじめるからーー
部下の信頼 ガタ落ち〜♪
世界一の大バカら〜♪、ヒクっ』
うひひひひ。
言うね言うね、アンタも。
いや〜、気に入ったよ、アンタら。
今夜は飲み明かそう!
金は、ほら、チャリーン、10Gmがあるから。
え?
なに?
足りない?
と、酒を飲んでもいないのに暴走気味な僕は、
しかたなく席を離れた。
シュリエとナムピョン。
初登場なのに、めちゃくちゃ酔っ払ってる二人に対して、
非常に親近感をもってしまった。
その後、田舎者のミョンゴン、
ウェイトレスのリンダ、
マスターのボブと、ひとしきり絡んだ僕は店を出た。
これにて、基地内の案内は終了。
あとは宿舎を残すのみとなった。
たんまりと金を絞られるであろう宿舎のみに。
メグは言う。
『ひととおり まわったわ。
どう、せまくて アイソのない所でしょ?
ま、最前基地だからね。
じゃ、最後のお楽しみ。
“ハウスヘブン”に隊長さま1名 ごあんな〜い♪』
ハウスヘブン・・・。
天国の家。
今はそのような名前が逆に引っかかる。
さきほどの浮かれ気分は、もうどこかへ消え去ってしまった。
この不安が杞憂に終わればいいのだが。
僕はポケットの中の10Gmを握り締めた・・・。
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