11 島の南東にあたるところエリアでいうとI=9には、海を見渡せる集落があった。福島妙子(女子十六番)はその中の一軒の家のキッチンらしいところで、ただ泣いていた。石で窓を割って入り込んだのだった。なんでこんなことになったのだろう? いつものように、学校に来て、いつものように下校の時間がくるのを、待っていた。学校なんて大嫌いだった。なんで学校なんてあるのだろう? そのようにすら思っていた。そりゃあ、みんなといろいろつまらない話で盛り上がることができたら、少しは楽しいかもしれない。だがそれはかなわぬ夢であった。みんなあたしに声をかけようともしない。あたしだってほかの子と同じようにみんなと仲良くしたいのに・・・・・ それはまだ、妙子が小学生の頃だった。低学年のころはまだそんなに背も高くなく、友達も何人かはいた。それが5年生になるくらいからぐんぐんと背が伸び始めた。クラスの男の子もごぼう抜きだった。ついには学校で一番背が高くなっていた。それからだ、自分自身にコンプレックスを感じるようになったのは。外にもあまり出なくなった。遊びに誘われても断ることが多くなっていた。どんどん友達も減っていった。男の子たちにからかわれるようにもなった。それに続き女の子たちもあたしに近づかなくなった。 思い出すだけで涙が溢れ出した。みんなあたしのことなんてどうでもいいに違いない。あたしのことなんて平気で殺すだろう。 妙子はデイパックの横に置いていた、オートマチック拳銃を大きくして後部をぐっと引き伸ばしたような短い銃身の銃(ウージー九ミリ・サブマシンガンだ。このゲームの支給武器の中ではもっとも当たりといえる武器であった)を引き寄せた。夜とはいえ、むしむしして暑苦しい家の中でそれは、ひやっとして気持ちよかった。 みんな死ねばいいのよ。あたしは生き残る。あたしをいじめていた人はみんな死ねばいい。そうすればあたしも、ほかの子と一緒に楽しく話したりすることもできる。新しい人生が始まるのだ。 妙子はウージーをぐっと握り締めた。 それで妙子は決意をした。あたしはこのゲームに乗る。そして生きて帰ろうと。 立ち上がった。とにかく外に出ようと思った。こっちにはこのマシンガンがある。見つけた人間を容赦なく撃つ! そう決めていた。 妙子は闇の中キッチンのドアへやや手探りで進んだ。少しバランスを崩しながらもそのドアにたどり着き、くぐろうとしたちょうどそのとき、目の前に何か飛んできたように思えた(ただ暗くてよくわからなかった)。 それで妙子の思考回路は途絶えた。 妙子のその大柄の体は、後ろへと傾きそのまま倒れた。ごんっという鈍い音がした。頭を床に思いっきりぶつけたらしかった。そしてその頭、というより顔の部分に懐中電灯の光が当てられた。ちょうど額のところにナタが食い込んでいた。ナタの刃のかっきり半分が、額から突き出していたのだ。額の上から入り、きれいに左の眼球を割っていた、そこからねばねばした液体が血と一緒に流れ出していた。開いた口の中では、ナタの刃が懐中電灯の光に反射して薄青く光を撥ねかえしていた。 「ばかね、窓なんか割って入ったらそこに誰かが入ったのがばればれよ」さらに続けた。 「それと戸締りはきちんとね」 相馬光子(女子八番)はそれだけ言うと、妙子の支給武器であった。ウージー・サブマシンガンに歩み寄った。 「みーつけた」そう言うとマシンガンを取り、再び妙子の死体に近づくと、その額から生えたナタを抜きにかかった。 [残り39人]
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