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 草場亮は先ほどまでいた、建物を出て、そのまま北に向かった。地図が正しければこのままいけば、山に入るはずだった。そして今、その山すその手前まで来ていたのだが、ひとつ問題が出てきた。山の手前には広大な畑が広がっていたのだ。そこを横切らないと山には入れそうになかった。だがかなり危険な気がした。夜とはいえ月明かりに照らされ自分の姿を敵にさらすことになる。一度入れば隠れるところはないし、死角もない、どこから狙われてもおかしくなかったのだ。おまけに全力で走り抜けるにしても三十秒はかかる距離でもあった。

 

 畑を挟んで、亮とはちょうど反対側こちらは山すその方にあたる、その場所には尾畑修二(男子五番)が隠れていた。

 彼は考えていたのである、比較的出席番号が早いほうである自分がここに隠れていれば、後から出てくるやつらが、北へ向かうときここを通る可能性が高いと。もし誰かが畑に入ってくれば格好の標的にできると。修二は両手で支給武器であったボウガンを握りなおした。矢はすでに装填してあった。手にはじっとり汗が滲み出してきた。

 修二は分校を出発してまっすぐ北へ進んできたはずだった(くわしくは地図をみていなかったので分からなかったのだが)。一度も立ち止まることなく、ここまでやってきた。そしてこの場所を見つけてからもう四十分近くここに隠れていた。

 その間に修二の頭に思い出したように一つの映像が蘇った。それを思い出すだけで吐き気がもよおした。あの頭がなくなった荻野先生の姿、無残に顎骨のところだけ残し、すっかり頭だけ消失していた、そこからどす黒い血が溢れ出して自分の座っていた机のところまで流れてきたその映像を。

 それと同時にその荻野先生が残した言葉も蘇っていた。荻野先生は言った、絶対に乗るな。力を合わせて――″その後は聞くことはできなかったのだが、予想するのは簡単だった。いき残れ″だろう。

 その言葉を思い出したときには、ほかの誰かを探しに分校に戻ろうかとも考えた。だがその考えを覆すようにもう一つの言葉も蘇ったのであった。あのクソ教師坂持の言った言葉、ほかのみんなはやる気になっているぞー、やらなきゃ、やられる″であった。

 確かにそうだった。みんなで協力なんてできるわけがない。生き残れるのは一人なんだ。協力なんかしたって時間切れまで生き残ることしかできないのである。

 一方、亮は考えた末、やはり畑を横切るのは危険だと判断した。とにかく少しでも安全に行動することだけを考えた。こういう状況ではとにかく用心するにこしたことはない、と考えての行動だったのだ。

 その通り亮の判断は正解だった。もしあのままいっていたら、ボウガンの餌食になっていたことは言うまでもなかった。

[残り39人]




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