15

 宮崎欣治(男子十八番)茂みの中に座り込んだまま考え込んでいた。先ほど時計を確認したところ、ゲームが始まって、五時間近く経過していた。ということは、もし誰も殺し合うことなく時間が経過すれば、あと十九時間余りで自分たちはおしまいになる。皮肉なことに、ほかのクラスメイトが死ねば死ぬほど、生き残る時間が増えるというわけだ。

 それから欣治は思った。他のクラスメイトは敵″なのか、それとも味方″なのか。もし味方だったとしてもそれをどうやって、見分ければいいのか? いや、そもそも敵、味方などという区別がおかしいのかもしれない、果たして一体誰がマトモでいて、誰がマトモじゃなくなったのか?という方が適切だろうか? しかし――このゲームでは自分こそマトモじゃないのか? 狂ってるんじゃないのか?

 頭が変になりそうだった。

結局、今はここでじっとしているしかないように思えた。下手に動き回らない方がよい、混乱の内に誰かと出遭ったら、殺し合いになるかもしれない。一日経てばみんな、冷静な判断ができるようになるかもしれない。

そこまで考えて欣治は、耳を澄ました。何か近くでかさかさっという植物が擦れる音が聞こえたような気がしたからだ。自分でも体が緊張するのがわかった。身を低くして、茂みの中に完全に隠れるようにした。

 かさかさかさっというその音は近づいてきていた。欣治は身を隠したまま、顔だけを少し持ち上げ茂みの隙間から、様子を窺おうとした。

 そうするとはっきりとその姿は欣治の目に飛び込んできた。井上和美(女子二番)だった。

 いつも、透き通るような美しい肌の色をしていた子だったが、今、その顔は月明かりでもわかるほど、酔っ払いのように赤かった。足取りも重く今にも倒れそうな感じだった。その後も欣治は様子を見ていたのだが、やはり予想は的中、ばさっと倒れこんだ。

 欣治は思った、もしかしたら誰かとやりあって、それでここまで逃げてきた? だとすると彼女を追って誰かが来るかもしれないと。けれど彼女には人とやりあった雰囲気はなかった、よく見てないが血の痕もなかった。

 もはや迷う理由はなかった、欣治はばっと立ち上がると和美へと駆け寄った。

「大丈夫! 井上さん、どうしたの!」その言葉に反応するように、うつ伏せに倒れていた、和美の顔が少し持ち上がった。そして口から吐き出される呼吸はすごく荒かった。

 和美は何も喋らなかった。ただ、はあはあと呼吸をしながら、またぐったりした。

 欣治の頭の中ですべてのパズルが完成しようとしていた。そうだ、彼女は、よくあることなのだが、今日も病気で学校を休んでいたのだ。病気なのだ、もちろん今も。普通なら家で寝ていなければならないはずなのに、このクソゲームのおかげで、無理に連れてこられたのだ。それで坂持に対する憎悪がいっそうこみ上げた。

「こんな子にも・・・・ひどすぎる・・・・」

 とりあえず欣治は和美の体を仰向けにさせた。やはり顔は真っ赤だった。和美の額に手をそっと乗せた。すごい熱だった。四十度近くあるだろう。危険な状態と判断した欣治は和美を担いでとりあえず自分がいた場所に運んだ。横に転がっていたデイパックも移した。それには、ジッパーからはみ出すように木刀みたいなものが入っていたのだが、とりあえず今はそれどころじゃなかった。

 欣治はまず自分のデイパックからまだほとんど口はつけていなかった水の入ったペットボトルを取り出した。次に学生服のポケットからハンカチを取り出し、そのハンカチをペットボトルの口のところに近づけ水を垂らし、湿らせた。

「ごめん、あんまり冷えてないけど、我慢して」そう言いながら欣治はきれいに折りたたんだハンカチを、和美の熱くなった額に乗せた。

[残り38人]





前章へ 目次 次章へ