18

 前田友里(女子十九番)は、少しぼうっとした頭で、島の南東にぽつんぽつんと点在する家と家の間の細い路地を歩いていた。先ほど田中直美(女子十番)の姿を見つけた。直美は探偵ごっこでもしているように、物陰に隠れては前の様子を確認しながら、進んでいた。友里はその姿を後ろからしばらく見ていたのだが、こちらには全く気づく様子はなかった。

それはそれで少し間抜けな眺めだったが、友里はとりあえず声をかけた。

「直美じゃない、何してるの?」と。

 直美はびくっとして振り返った。そう、振り返ったのだ。だがそれだけだった、こちらの姿を認めたとたん、一気の家の向こう側に走り、そのまま消えた。

確かに友里には小学校のころから、すれたところがあった。興味本位でタバコを吸ってみたのが、小4のとき、今に至ってはクスリにまで手を出すようになって、クスリなしではもうやっていけないほどにもなっていた、立派な麻薬中毒症になっていたのだった。その点は不良仲間の黒木久信(男子十番)も同じだが。

そんな友里にクラスの連中、特に女子にいたっては、話しかけようとする者などいなかった。それは恐れられていたのと同様に、煙たがられていたのだった。

「なによ、逃げなくたっていいじゃない」友里は言った。

 もちろん友里にも相手が簡単に自分を信じてくれるとは思っていなかった。だけど、あんなにいきなり逃げなくても――、不良にもさびしいと思うことはあるのだ。一応人間なんだし、特にこんな状況の下に一人でいること自体が、辛かった。今の彼女にとっては、この殺し合いのゲームの恐ろしさなどより、一人という状況のほうが怖かった。

友里は今まで一人でいることは、ほとんどなかったのであった。学校では同じ不良グループとずっとつるんでいたし、不良とはいえ、友里はなかなかかわいい子だった。中学の頃から、彼氏が途切れたことはなかった(ほとんどが同じ不良の彼氏だった。一度だけ普通の男性と付き合ったことがあったが、どうも退屈でしょうがなかったので、すぐ別れた)。

とりあえず誰かと一緒にいたかった。それが一つだった。それともう一つ友里には必要なことがあった。

――クスリだ。クスリが必要だった。いつもは大体三時間ごとくらいに飲んでいた。しかし、もう前に飲んでから、六時間は経っていた。やばい、これ以上は――幻覚が出てくるかもしれない。まだ意識ははっきりしていたのだが、頭の方が少しぼうっとしかけていた。もはや歩くのもだるく感じるようになった。

こんなことなら、ポケットにいつも忍ばせておくべきだった。今になって悔やんだ。

[残り37人]




前章へ 目次 次章へ