19 尾畑修二(男子五番)は相変わらず、山すその茂みの中から畑に向かって視線を向けていた。先ほど近くで銃声が聞こえたときは、驚いたが、少し安心もした。つまり他にもやる気になっているやつはいるということだ。少なくともどこかで、殺し合いは行われている。銃声は全部で五発聞こえてきた。誰だかは知らないが、恐らくそれだけ撃てば、相手を仕留めているに違いない。とにかく時間切れの心配はなくなったということだった。 殺し合いはほかのやつに任せておけばいい。俺はここから、畑を通るやつがいたら、そいつだけ狙えばいい。なんの危険もない、茂みの中からボウガンだけを出して、自分は隠れたままでいいのだ、相手に気づかれることなどないだろう。 そして今、その畑の前にそびえるように建っている一軒の家の壁際に人が隠れていた。陽もかなり高くなり、かなり遠くまで見ることができたので、その人物の顔まではっきりと見て取れた。黒木久信(男子十番)だった。久信は周りの様子を確認していた。誰もいないことを確かめたら、こっちに向かって走ってくるだろう。どうしようかと少し迷った。何せ相手は学校一(ひょっとすると麻峰市一)不良の黒木久信だ。おまけに肩に下げているのは、多分マシンガンらしかった。 修二が迷っている間に久信は、畑の中を走り抜け始めていた。もはや考えてる時間はなかった。修二はボウガンを構えた。こっちの姿は見えていないのだ、何を怖がることがある――、久信の胸の辺りに狙いを定めた、確実に当てるためには十分ひきつける必要があった。久信の動きに合わせてボウガンの先端を動かし、おおよそ、畑の真ん中あたり、自分と距離にして十五メートルあたりにさしかかったところで、引き金を絞った。びゅん、と矢が茂みの間から飛び出した。 当たった。久信はそれでバランスを崩した、――だが倒れなかった。矢は右腕を貫通していたが、とても致命傷とは言い難かった。 修二は茂みの間から、一瞬久信が顔を歪ませたのが見えた。だがすぐにその顔は怒りに変わり、矢が飛んできた方向(修二が隠れているところ辺り)へ向けられた。 大丈夫だ、まだ正確にはばれていない、すぐに新しい矢を装填し始めた。だがそのとき――ぱらららららららら、という一種タイプライターに似た感じの音が響いた。その音とほぼ同時、修二の右手の辺りの地面がめくられていた、そしてそれは自分が今いるところへと向けて、何かの生き物のように動いてきた。黒木久信は肩に掛けていたイングラム・サブ・マシンガンを無事な左手一本で持ち、撃ちながら、ちょうど一という漢字を書くように動かしたのだ。 ひいっ、修二は両手で頭を抱え込んだ。 音が止んだ。 運がいいことにその弾跡は修二のいる少し上辺りを通って左手の方へと続いていた。 当たらなかった・・・・・・しかし安心する間もなく、第二波がきた。 ぱらららららら、今度は見事に修二に向けて弾の雨が降り注いだ。先ほど撃ったときに修二が動いたことにより生じた茂みの揺れを見逃さなかったのだ。体のあちこちに、焼け火箸を突っ込まれたような感覚が襲った。だがそれもすぐになくなった。頭――眉間のあたりに穴が開いて、そこから血飛沫を吹きだしていたのだ。 こうして自分の武器を過信しすぎて、黒木久信という男を甘く見すぎたために彼は命を落とした。そもそも狙うときから、彼の判断は間違っていたのだ。止まっている標的を狙うならともかく、動いているものを狙うならば、少し先を目がけて撃つべきだったのだ。そこが彼の生死を分けたのであったともいえよう。 一方、黒木久信の方はと言うと、右腕に貫通した矢に手をかけたかと思うと、一気に引き抜いた。大怪我ともいえる傷にもかかわらず、彼は気にした様子はなかった。 それは不良である彼にとっては、怪我は付き物だったし、隣町のグループとやりあったときは、今よりひどい怪我さえしたこともあったので、気にすること自体が無意味だったのだ。 黒木久信はそのまま矢を放ったのが誰だったのかなど、確認することもなく山頂に向かって走り出した。 [残り36人]
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