20 前原尚継(男子十六番)は、はっと目を覚ました。周りを見渡し今の状況が分からず少し混乱したが、すぐに思い出した。そうだプログラムに選ばれたんだ。 ぞっとした、何やってんだ、俺は、眠ってしまうなんて。それこそ生きているのが不思議だった。いつ殺されてもおかしくなかったのだ。 あたりはもうすっかり明るくなっていた。すかさず時計をのぞくと、AM10:30近かった。ということは五時間ほど眠っていたことになる、それで尚継は少し顔を引き攣りながら微笑した――。 「はっ」、咄嗟に声が洩れた。後ろを見たら・・・・、そこは自分を覆い隠すための障害物が何もなかった、つまり丸見え状態だった。そんな状態で寝ていたことを思うと、今度こそほんとに震えがきた。夜の暗い間はここは完全に隠れていたと思ったんだけど・・・・・・。 とりあえず、無事だ。尚継はもっといいところに早く移動した方がいいと思い、デイパックを担ぎ、支給武器の銃(コルトガバメント)をベルトとズボンの間に差し込むとそっと立ち上がった。 自分が無事だということは、この辺りには人はいないということになるだろうが、とりあえず、慎重に動いた方がいいと思った。 歩き出したのはいいが、足が思うように動かなかった。夜のうちに全力で走ったせいだろう、かなり張っていた。完全に運動不足だ。 尚継は高校に入って以来、運動は全くしていなかった。それが災いしたのか、中学のときと比べると体重は四十キロも増えてしまった。言わば太ってしまったのだ。そんな尚継でも中学の時にはバスケ部のレギュラーを務めるほどでもあったし、それなりに女の子にももてていた。それが今じゃデブの仲間入り、人間変われば変わるものだ。 林の中は思った以上に歩き辛かった。よくこんなところを暗闇の中で走ったものだ、今になってそう思った。あのときは夢中だったもんな。それで尚継はちょっと思った。それは今の自分のやっていることを覆すような疑問だった。本当に殺し合いなんて行われているのか? みんな自分が眠っている間に協力して逃げたんじゃないのか? そうでないと、自分があんな状況でつい(あくまでもついで、故意ではない)眠ってしまっていたのに、無事なんておかしすぎるのではないか? 次々に不安で疑問ばかりが浮かんできた。それはどこか昔行っていたかくれんぼ″のことを思い出させた。確かあのときも絶対見つからないようなところに隠れていたっけ、そうだそのあと眠ってしまったんだ。そして目が覚めたときにはもう誰もいなかったんだよな。 そういえば俺、昔から隠れるのはうまかったんだ、ひょっとするとさっき隠れてたところも、他の人にとっては予想もつかない場所だったとか・・・・・ まあそんなこと言ってもしかたない、とにかく誰かを見つけることができさえすれば、まだゲームは続いているということなのだ。誰でもいい、ただそれだけ確認したら、またどこかに隠れ続けよう。
尚継が起きる少し前のこと、田中静江(女子九番)は、ぱらららららという、タイプライターのような音が北の方から聞こえたので、怖くなって南へと移動し始めた。その途中、林の中を通るとき、彼女は人影(それは前原尚継の姿だったのだが)を見ていた。といっても、腰から下だけが茂みの隙間から完全に露わになっていた状況だったので、彼女にはそれが誰だったかなどは知ることはなかったが。いやそもそも知る必要のないと思ったし、見たくもなかったのだ。 なぜなら静江にはその人物はすでに死んでいると思ったのであったから。そうでないとあんな風に丸見えで横たわっているなんてあるはずない、というのが普通の考えだったのだ。それに普通の女の子が人の死体なんてみたいはずもなかった。 それで静江はまだ殺した人間が近くにいるかもしれないと思いすぐにその場を立ち去ったのだった。 [残り36人]
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