24 草場亮(男子九番)は坂持の放送が終わったときにはもう隠れていた寺から離れようとしていた。寺といっても、ただ鳥居が一つあり、そこをくぐれば小さな境内があっただけのものだった。亮が隠れていたのはその境内ではなくて、その裏、丘に続く林があったのだが、そこだった。 寺を含むちょうどその辺り一体はF=1のエリアであった。そのF=1のエリアはつい今しがた禁止エリアに選ばれたばかりだった。 初め亮は迷っていた。それは禁止エリアになるのは三時からであったし、今は零時を少し回っただけなので、たっぷり二時間以上はまだ時間はあったのだ。それで問題はいつこの場所から離れるべきか、ということだった。 考えに考えた末に亮は決めた、今すぐここから離れようと――。その結論に達した経緯はというと、これまで用心深く行動してきた彼にとっては、あまり理論的な考えには基づいていなかったかもしれない。 彼は初め時間ぎりぎりまでここに留まろうと考えた。普通だったらそうするだろう。下手に動き回るのは危険きわまりない行為だからだ。他の誰だってそうするに決まっているのだ――、それではっとした。 他の誰だってそうする? ダメだ! 他のみんなが同じ事やっていたら、そのときになって鉢合わせする可能性が高くなる。ここのエリアにいるのは自分だけとは限らないのだ。一つのエリアにいる連中が一斉に動き出したら、おせじでも広いとは言い難いエリア(かといって狭すぎということもない。縦横1キロちょいってところか)の中で出会ってしまう可能性は高すぎる。じゃあ俺は、ほかのみんなが動き出す前に動いたほうがいいのではないのか。かえってその方が危険は少ないのではないのか、と思ったのだった。 それで今、その寺を離れようとしたのだった。 どこへ行くかはすでに決めていた。亮にもこの島に響いた銃声はきちんと聞こえていた。一回目はここより、東に行った山の方からだった。二回目のぱららららら、というマシンガンの音(亮にはそれがマシンガンの音だとはすぐにわかった。このゲームのことで知らないことは俺にはない)も、同じく東側から聞こえた。そして三回目、こちらは銃声が計十発ほど響いていたが、こちらは南の方から聞こえた。ということは、少なくともそれらの方面には殺人者がいる、ということだ。残った道はここから北に向かうことだけだったのだ。 とりあえずこのエリアから出ることが先決だった。ただし禁止エリアといっても地面にここまでが、エリア何々です、とか書いてあるわけじゃなかったので余裕を持って離れておくべきだろう。 それで亮は北へ向けて脚を進めた。もちろん慎重に、それだけは忘れなかった。 [残り34人]
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