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 秋也はほとんど放心状態に陥っていた。川田が話してくれたこと、それは、まず自分たちが親から捨てられた人間ではなかったこと、確かに坂持は分校で俺たちの紹介をするときには、クローン技術によって創られたとか言っていた。もちろんそれは他の連中に容赦なく自分たちと戦えるように仕組んだこととばかり思っていた、それが実は本当だったということ。そんなことは今まで夢にも思わなかった。

次に、このゲームは昔行われていたらしくその際に俺たちが参加させられていたこと。そしてそのとき俺と川田、それに今回は参加していないが施設にいる中川典子(よくはしらないが、見たことはあった)が組んで行動していたこと。そのゲームで川田は同じくゲームに参加していた桐山による攻撃で重症を負い、最終的には亡くなったが、七原、つまり俺と、中川は逃げ延びたこと。その七原秋也は死んでいなかったのだ、だから俺は特別、ここにいるべきではない人間なのか。それで分校で誰かが、遺伝子とかなんとか言っていたことを思い出した。だから俺のことを訊いたのか。川田の言った通り、知ってないと訊けないよな。

さらにその逃げ延びた七原が、後に書いた本があって、その参加したゲームのことを詳しく描いてあり、その本を川田は偶然手に入れることがあって、それを熟読していたこと。それはあの俺のことを訊いたやつにも当てはまるが。

ざっとそんな感じのことだった。川田はその本の中の秋也と川田の仲を少なからず、現在の俺たちに移し見たということなのだろうか? それで俺を前から知ってるような話し方をしたのだろう。

「おい、七原、大丈夫か?」ぼうっとした秋也に川田が言った。

 秋也はそれで、現実世界に引き戻された。「あ、ああ」とだけ言った。

 あまりに現実離れした話に、ショックなどまったく感じていなかった。ただ訊いた。「俺を助けてくれた理由もその本を読んでいたからか?」

 川田は短くなった煙草を地面に押し付けた。言った。「まあな、それも一つある」

 秋也はその言い方に対し、違和感を覚えた。それが何なのか考えた。すぐにわかった。「一つってなんだよ。他にも理由があるのか?」

 川田はいつもは見せないような、照れたような笑みを浮かべ言った。「前にも言ったように、お前みたいな一直線なやつは嫌いじゃない、昔の俺がお前と組んでいたのも分からなくもないな」

 川田が突然そんなことを言ったので逆に秋也の方が照れた。確かに俺は曲がったことが大嫌いだったが、まさかこんなところで、それも川田に誉めてもらえるなんて思ってもいなかった。

 川田が話を続けた。「俺の知っている範囲、俺たちの性格も特技も、当時の俺たちとほとんど同じのようだ。まあ訓練を受けたって点は異なるがな。こればっかりは実際このゲームが始まってから、お前以外には会ってないから絶対そうだ、とは言えないが、多分同じといえるだろう。そうだとすると、やはり桐山と、相馬には気をつけなくてはいけない」

 相馬という名前が出てきて、秋也ははっ、とした。「そうだ、相馬だ、あいつなんだ、俺をいきなり撃ってきたのは」

「そうか、相馬か――、でも相馬でよかったかもしれないな。桐山だったら、お前、恐らくもうこの世にいないかったぞ。場所もよかったといえるだろうな。月の光も差し込まない屋内だったから、相馬には血痕が飛んでないのにも気づかなかったのだろう。まさかお前が防弾チョッキなんて着ているなんて予想もしないだろうし」

 秋也はそれ以外にも相馬に襲われたときについて言った。「あいつ始めは境内の中にいたはずなんだ、外から呼びかけたが返事がなく、仕方なく俺が入り込んだが中には誰もいなかった。そして出ようとしたときに扉の前に相馬が立っていた。なあ、こんなのって有り得るのか?」

 川田は再び煙草を取り出し、火を点けた。「気づかなかったのか、あそこ以外にも出入口はあったぞ。確かに見にくかったがな。勝手口みたいなものだろう、ほとんど壁と同化したような模様だったので気づかなくても仕方がないがな」

 秋也はすべてを理解した。暗かったとはいえ、そこまで確認しなかった俺が甘かったのだ。これじゃ誰かを助けるどころか、危険な目に合わせるのが関の山かもしれない。川田の話通りなら、俺はこのゲームから脱出したと言っていたが、それは多分、川田の力がおかげだったに違いない。でないと俺なんかが脱出できたとは思えないし――。

 ――待てよ、脱出したんじゃないか、俺は。それに川田はその本を読んでいる、ということは脱出した方法も知っているんじゃないのか。秋也は希望に満ちた目で川田を見て、言った。「川田! 脱出の方法知っているんじゃないのか。俺たちは無理でも他の連中を逃がす方法は知ってるんじゃないのか!? このゲームをむちゃくちゃにできるんじゃないのか?」

「無理だ。本では俺は首輪のばらし方を知ってたようだが、俺はそんな方法知らない。それにこの首輪はそのときから改良されているだろうからそれは不可能だろう。どんなすごいやつをもってしてもな」川田の言葉に秋也の希望は一気に萎れた。それでしばし沈黙が落ちた。

 突然川田が声を上げた。「七原、自分の荷物を持て。行くぞ、ここは一晩を過ごすには危険過ぎる」川田が腰を上げた。秋也もつられるように立ち上がると、その場を歩き出した。

[残り22人]




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