53 3日目の午前10時を過ぎた。 平田亜由美(女子15番)は焦っていた。制限時間は今日の11:59まで、それまでに生き残りが2名以上だと全員の首輪が爆発させられる、という分校を出発前に言われた言葉を忘れてはいなかったのである。 亜由美は隣で周囲に目を凝らし続けている中西恵(女子14番)を見やった。 恵の数を外したとしても、残りは15人。私たちがこの二日で出会ったのは4名だ。禁止エリアが狭まってくるといっても残り15人にすんなり出会うという確立はかなり低いことくらい容易に想像できた。現に三日目に入り現在まで誰とも遭遇してなかった。相手の警戒度も今までのようにはいかないだろう。こちらも警戒重視で進むとしたらやはりどう考えてもタイムリミットまでに片が付くとは思えなかった。延長戦なんてもちろんないし、やるつもりもないだろう。他の生き残りたちが今後自暴自棄になって殺しまわるということも考えられなくはないが、そういったギャンブル的な考え方は嫌いだった。一人でもどこかに隠れ続けられたら、それまでだ。 そろそろ何か別の策を講じたほうがいいのだろうか?生き残るというよりもここから逃げるという前提でいくべきなのだろうか? どうする・・・・・・どうする・・・・・・どうする・・・・・・・・・ 頭の中で疑問詞のみが駆け回り、肝心なことは全く浮かばなかった。 「大丈夫?」恵の囁きによって、我に返った。 「え、なにが?」亜由美は心の乱れを悟られないよう、とっさに思いついた返事を返した。 「ほら、亜由美ってなにか悩みがあるとき、いつもそうやって毛先を指で巻く癖があるじゃない。何か悩んでるんじゃないかなって思ってさ。あ、こんな状況で悩まない方がへんかもね」 そうか、私はそんな癖があったのか。言われなければ自分でも気づかないことが多いものだな。それで打ち明けてみる事にした。 「ちょっと今後の行動のことで考え事してた。正直このままいくと、制限時間オーバーで全滅の可能性が高いと思うよね。計算上のことだから、確定とは言わないけど・・・・・。それで悩みはここからなんだけど、このまま低確率で生き残ることを目指すか、脱出の手段を探すかどちらか。ただし脱出の手段は今のところなにもないってことも問題ね」 恵は少し考える素振りを見せた後、口を開いた。 「亜由美・・・・、もうこの際だから言っておくね。このゲームで生き残れるのは1人だけだよね。つまり首尾よく物事が運んだとしても亜由美かあたしのどちらか。でもね、あたしはその場合喜んで亜由美に殺されるつもり。まぁあたしが本気で抵抗したところで亜由美に勝てる可能性なんてないかもしれないけどね。あ、冗談ね、今のは気にしないで。一応あたしも考えていたのだけど、脱出の確立は生き残る確立に比べてみてもかなり低いかもしれない、っていうか存在しないんじゃないかな。ほんとはね亜由美ともっといろいろなことをやってみたかったけど、二人で脱出することはあきらめた方がよさそう。それなら亜由美1人でも生き残って欲しい。あたしはね、亜由美がいたからここの学校に転校してきたのよ。亜由美がいたから毎日学校に出てこれたのよ。・・・・・・・ごめん、結局悩みの解決にはなってないね」 亜由美は正直驚いていた。開始当初からずっと私は恵の殺し方をずっと考えていたからである。恵のことをただの道具としか見ていなかった、用が済めばいつでも切り捨てる予定だった。 「・・・・・・・・・」亜由美は言葉が出なかった。いや発せなかった。子供の頃感じて以来の感覚、何か胸が熱くなるような刺激が全身を覆っていた。それは一種のエクスタシーに似ている気がした。 恵の言葉で腹は括れた。この先の行動は決まった。私は恵と生きてここを脱出する。そして謝ろう。本物の親友と呼べる彼女に。生まれて初めてできた親友に。 それまで恵を死なせない、どんなことがあっても私が守ってあげよう、私たちの前に立ちはだかる敵はどんな相手だろうと容赦しない、そう決意した。 「恵、ごめんけど私は脱出優先でいきたいと思う。あなたも死んでもいいなんて言わずに、私とずっと一緒だから、手伝ってね」 とはいえどうするべきか、それだけがしこりとして残った。 |
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