前原尚継(男子十六番)は、闇の中をがむしゃらに走っていた。とりあえず分校から離れようと必死だった。自分より先に出発した連中と遭遇する可能性もあった。その連中が自分と同じように、やる気になっているのではないのならいい。しかしやる気になっていたとしたら、もっと慎重に行動したほうがよいのだろうとは思ったが、ありがたいことに(ありがたいっていうのかこれは?)、今は夜、真っ暗だった。誰かと遭遇しても思いっきり走れば逃げ切れると思った。

 かなり走ったとは思った。時間にしては二十分近く経っただろう(実際の距離にしては、500メートルも行ってなかった。かなり蛇行して走っていたし、彼自身太っていて足も遅かったのだ)。もう全員出発したはずだ。

 尚継は足を止めた。もう走れなかったのだ。今は、どうやら林の中にいるようだった。どの辺りなのかは全くわからなかったが、とにかく茂みらしいところに入り、腰を下ろした。

 そこで尚継は荒い呼吸を落ち着けようと一回深く深呼吸をした。なかなか収まれなかった。

 ちょうど同じころ、草場亮(男子九番)は分校から見たら、北に当たる古びた倉庫のようなところにいた。建物の中に入るのは、避けたかった。ほかに先客がいるかもしれないし、いなかったとしても後から誰かが入ってくる可能性も高いと思ったのだ。

 だがまずやらなければならないことがあった。地図の確認と武器の確認だ。それには懐中電灯を使わなければならない。いくら手で覆ったとしても光が洩れることは間違いなかった。そんなことしたら、自分の居場所をさらすことになる。慎重に考えた上で、倉庫の中に入ることにした、ただ確認が終わったらすぐにこの場を去るということではあったのだが。

 まず亮は倉庫の壁に沿って一回りした。裏口があったが、しっかり鍵はかかっていた。正面のシャッターは下りてたし先に人が入った気配はなかった。その中で開いている窓を発見した。真夏ということもあり、かなり高いところにあるということで、開けたままにしていたのだろう。ただ亮はかなり背の高い男であった。少し助走をつければ、簡単に届く高さでもあった。

 亮は再び周りを見回した。大丈夫だ。人の気配はない。そこまで確認すると壁から少し離れた。そして再び壁に今度は勢いをつけて、向かって近づくと、一気にジャンプした。両腕はがっちりと窓枠をつかみ、そのまま懸垂のように両腕を曲げると体がぐわっと持ち上がり、その勢いで、中へと滑り込んだ。

 中は本物の闇でまったく何も見えなかった。亮は目が慣れるまでしばらくじっとして、分校を出てすぐのことを思い出した。ひょっとすると出てきたところを襲われるかもしれないとも思ったので一気に戸口を走り出た。建物の外には、月明かりの下、テニスコートが三面とれるくらいの運動場が広がっていた。その向こうには、林があった。左手には小高い山が迫り、右手は視界が開けていた。まったく知らない場所だった。一瞬のことだったけれどそれは確認できた。ただ誰も襲ってこなかったということは、誰もいなかったのだろうか?

 そうしているうちに、少し目が慣れてきたので奥へと進んだ。よし、ここなら大丈夫だ、外に光が洩れることはない。それで懐中電灯を取り出そうと座り込んでデイパックに手を入れた。まず手に触れたのが水の入ったペットボトルだった。懐中電灯はその次に見つかった。とにかく目が慣れたとはいえ、ほとんど何も見えない状態だったので、すぐにそれを点けた。下へ向けて点けたので自分の脚がはっきり照らされた。少しまぶしいとも感じた。

 ぐずぐずしている暇はなかった。すぐに自分の武器を探し、それを取り出したとたんまさに絶望したい気分になった。プラスチック製の少し丸みを帯びたもの四つ入っていた。サポーターだった。初心者がローラースケートなどするときに手足首に着ける、あれだ。

 はずれだ、もしかすると一番のはずれかもしれないとさえ思った。

 亮はもっとポジティブに考えることにした。自分はこのゲームのことについて誰よりも知っていた、どうやれば生き残れるかなどすべて。ただその元になった、本はここへと拉致されたときにはもうなかったが、頭の中にはインプットされていた。

「どうってことはない、武器なんて、いいハンデさ」

 そう言うと地図を取り出した。

[残り40人]






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