| CAT latter part act2 |
アレから、リョーマの部屋に向かって、ハイッとタオルを渡されて、風呂場直行を余儀なくされて、今に至っている。 照明の付いている本堂は、それでも独特の気配を充満させ、照明は本来の意味を欠いているかのように、桃城には思えた。 街中の小さい寺。とは言え、寺だけあって、程度の必需品は配置されている。以前聴いた話しでは、真言宗派だと言う事で、曼陀羅図などもある。 寺独特の気配や匂いや感触。こうして照明に照らし出されて尚、時間に取り残されている薄昏い感触と言うものは一体なんだと言うのだろうか? 「ハイ、桃先輩」 剥き出しの床の上。ゴロリと寝転んでいる桃城の額に、不意に冷たい感触が押し付けられる。 「お前………」 額に触れる冷たい感触の正体は、すぐに知れた。 「宴会って言ったら、付き物でしょ?冷やの方がよかった?それともウィスキー?」 取り敢えず一通り揃ってるよと笑うリョーマに、桃城は起き上がり、呆れた。 「お前のアメリカでの生活が、忍ばれるな本当に」 受け取った缶ビールに、桃城は脱力した。桃城の眼前では、既にプルトップルを開け、一口啜っているリョーマが居るから尚更だ。酒が強いようには見えないリョーマが、かなり酒が呑める事を知った桃城は、心底アメリカでのリョーマの生活を心配した程だ。 「別に。今時ビールなんて水でしょ。桃先輩だって、笊なくせに。いつも呑んでる訳じゃないし、害はないっスよ」 南次郎と桃城の二人がビールやらウィスキーやらを呑み、あげく中学生に酒を呑ませてと、翌日盛大に母親に説教を食らった父親の姿は、まだ記憶に新しいものだ。 どうやら顧問の孫をガット張りの爺さんの元に連れて行ってやって以来。意気投合したらしい父親と桃城は、招かれたその場で酒盛りになったらしい。桜乃を送り帰宅したリョーマを、キレさせるに十分な展開をしていた桃城と南次郎だった。 「まぁ年中ファンタ呑んでるお前よりゃ、マシか」 「余計なお世話っスよ」 「でも本気で、ファンタは感心しねぇぞ」 プルトップルを開け、グイッと一挙に中身を呷る。呷り慣れた仕草、上下する喉元を、リョーマは眺めていた。 「俺、牛乳苦手」 「だったらスポーツ飲料でも飲んでろ」 「ソレも嫌いスよ」 妙に甘くてと言うリョーマに、心底呆れた表情を見せた桃城だった。だったらファンタは甘くないとでも言う気なのか? 「ねぇ桃先輩」 カタンと、小さい音が響いて、缶ビールが置かれた。 「ん〜〜〜?」 「マッサージ、してあげるスよ」 「どっちのだよ?」 クツクツと笑いながら、桃城はビールを呷っている。その余裕綽々な態度に、リョーマが挑発されない筈はなかった。 「どっちのがいい?」 スルッと、ネコ科の小動物を連想させる動きで、リョーマは桃城ににじり寄るように近寄った。近寄りながら、慣れた手つきで桃城の左下肢に触れた。 「脚、本当に痛くないんスか?」 「心配、してねぇんじゃねぇのか?」 左手で床に手を付き身を支えている桃城は、片手に持っていたビールを置くと、身を乗り出す格好でにじり寄り覗き込んで来るリョーマの端整な輪郭を、包む様に撫でて行く。 「してないっスよ、心配はね」 むしろ心配していたものは別の方向性のもので、もうそれは今回の試合により解消されてしまった。 庇っていた右脚でのジヤックナイフ。アレを見た瞬間の自分の安堵と言うものを、桃城は知っているだろうか? 「俺は、心配したぞ」 「疵なんて、残ってないでしょ?」 左の瞼に薄く残る疵痕以外は何処にも疵など残ってはいない。大きい掌中が撫でて行く位置。その意味を、リョーマが読み違える事はなく、だから心配性と呟いては、らしくなく胸に顔を埋めた。 らしくないらしさだと、埋めた胸で自嘲する。 体臭と言うものを、多分アノ時まで意識する事はなかったように思う。コロンなど着けている筈もない桃城の匂いは、けれどカルピンには適格に嗅ぎ判られてしまう程度には、自分の内に残されているものだと思えば、重ねた肌の回数は幾らだっだろうかと考えた。 らしくない自分の姿に、苦笑が聞こえた気がした。 不意に髪を柔らかく撫でて行く指の感触に、泣き出したくなった。 「あんたは、心配したの?」 「お前は?悔しくなかったのかよ?」 「知ってるくせに」 埋めた胸から顔を上げると、覗き込むように視線を合わせた。 「試合は終わったんだ、もう時効だろ?」 薄暗い照明の中でも判る、僅かに蒼味を帯びた双瞳が凝視して来るのに、桃城は柔らかく笑って先を促してやる。 らしくない仕草は、甘えなのだと判る。 滅多に甘えた仕草を見せないリョーマが、時折こうして甘えて来る時がある。大事なのは、発せられるシグナルを見逃さず、見誤らないと言う事だ。 「お前は、よくやったよ」 「ガキじゃないよ」 触れてくるヒトの手、温もり。こんな態勢でこれから及ぼうとしている行為の前で、呆れる程に優しい労りばかりを与えられる。だから悪党なのだと、思い知る気がした。 「ガキじゃないからだろ?」 「腹立つ…」 全部綺麗に見透かされていると思えば、やはり1年の年齢差は重い気がした。 「言えよ」 「悔しかったよ。暴れ出したい程」 触れてくる指には、腹が立つ程情欲は映していない。それに益々腹が立った。 「そっか」 「桃先輩は?」 スルッと、触れてくる指先をすり抜けて、尚深く密着させる。片腕一本で上体を支えている桃城に、ピッタリと胸を合わせて凭れる格好は、ネコが纏い付く姿にも見える。流石に片腕一本で体重を預けてくるリョーマを支えるのはきついのか、桃城は完全に上体を起こすと、改めて懐いてくるリョーマを腕にすれば、リョーマはスルリと態勢を入れ替えた。 「この方がラク」 人間座椅子、笑うと、リョーマは完全に桃城の胸板に背を預けた。 「泣かなかったな?」 そういえば、今まで一度もリョーマの泣き顔を見た事はなかったと、不意に思い出す。 瞼を傷付けた時。あれ程の運動をしたのだから、痛くない筈がなく、精神に受けたダメージかを考えれば、泣いても可笑しくはない筈だった。けれどリョーマはそんな中、益々闘志を燃やすかのように、冷ややかな熱さで相手を挑発する事には長けていた。 コートに立つ凛然とした姿は孤高な程で、泣き顔など思いも付かない気がした。研ぎ澄まされた冷ややかな切っ先を相手に突き付けて、片目のハンデなど、冷冽な笑みの前には、何一つ枷にはならなかった。 それもそうだろう。桃城がこうしてリョーマの家に遊びに来るようになって南次郎とラリーする機会が合って対戦した時。それくらいのハンデは当然だとばかりに、南次郎はウィンクさながら、片目で対戦したのだ。けれどそんな南次郎から桃城は1Pも取れないでいる。そんな父親と練習していたら、片目のハンデなど枷にならないのは、当然なのかもしれない。 「泣きたかったか?」 「泣かないよ」 「見せろよ、俺にくらい」 「見せてるじゃん」 「………………」 言われて、半瞬にはその意味が通じなかった桃城は、暫しの沈黙の後、リョーマの『啼く』意味を理解した。 「………そっちじゃねぇ」 「どっち?」 「弱さじゃねぇぞ」 泣く事は。 スルリと、桃城の大きい掌中がリョーマの目を塞いで行く。 「桃先輩、本当にバカだね………」 閉ざされた視界に、リョーマは諦めたように、甘やかしすぎと、呟いた。 「泣かないよ、もう必要ないし。桃先輩だって、本当は暴れたかったの知ってるし。桃先輩こそ、よく堪えたね」 塞がれた視界の広さだけ、桃城の優しさだと知っている。 「言うよな、お前も」 「判るよ」 それくらい。 「悔しかった?」 「アア」 ぶっきらぼうな返答に、リョーマは満足そうに笑った。 「………お前今笑ったな」 「笑ってないよ」 「いーや笑った」 「なんで?」 「どっちだ?」 どうして笑った事が判ったのか?或るいは、どうして暴れたかったのか?質問の意味は二つに受け取れる。 「両方」 「お前傷付けられて、俺が悔しくないって思うんなら、俺もマダマダだなってのが一つ。顔見えなくったって、お前の表情くらい判る。コレが二つ目」 「答えになってない」 「笑うなよ」 「………心底タラシだよあんた」 嘘だ。 笑ってなどいない。桃城の声から、それが偽りを含んだ答えだと判る。判る程度には、自分も桃城の事を知っている。そういう事だと気付かされる。 「ホラ。だから判るだろ?」 それが答えだと、桃城は穏やかに笑った。 大切な者を理不尽に傷付けられて、腹がたたない程自分は聖人君子ではない。それは多分、今までなら知り得なかった感情の一部だ。 「俺が堪えられたのは、お前がテニスで決着着けようってしてるの判ったからだよ。俺は当事者じゃないからな。当事者のお前がそう決めてんのに、俺が出る事はできないだろ?」 亜久津が青学に乗り込んできて、リョーマに向かってラケットで石ころを打ってきたと聴いたのは、同級生の荒井と、一年生トリオのカチローからだった。その時の腹の煮える感触は、きっとリョーマにも判りはしないだろう。それは自分だけの感情だからだ。それがリョーマに端を発する類いだとしてもだ。 事実を他人の口から語られる。それも大切な人間の身に理不尽に降り懸かった事実を、結果として聞かさせたのだから。表面を取り繕うのが精一杯だった感情の波は、誰も知りはしないだろう。石の当たりどころが悪ければ、障害を負う可能性だって在るのだ。 手当てを受け、保健室から戻ってきたリョーマの顔には、至る所にガーゼやカットバンが貼られていて、額まで切っていた。漸く瞼の疵が癒えてきたばかりの所を、それこそ石の当たる位置が悪ければ、眼球を傷付ける可能性だって十分にある。それを考えれば、背筋が寒くなる程だ。 綺麗な瞳が傷付けられて、治る疵ならともかくも、治らなかったら、自分は一生相手を許す事はなかっただろう。寛容で居られたのは、疵を負ったとはいえ、リョーマが自分の脚で歩いていたからだ。 傷付けられた綺麗な白皙の貌。その瞳に宿る眼差しは、決して脆弱な弱さを映してはいなかった。何よりも、相手を叩きのめしてやるという意志が見て取れたから、自分は正気で居られたのだろうし、内心持て余す程に煮えた感情も、リョーマの眼差しの前に、鎮まったようなものだ。 「お前、気付いてたのか?」 気付かれているとは思わなかったが、この話しの流れからいけば、リョーマは気付いていたのかも知れない。 「あれだけ露骨にされればね」 |
| 『ダメっスね、大石先輩。こいつ自分でカタつけてやるって顔してますよ』 触れてきた指の感触に、不思議と血が煮えている事が可笑しい程見て取れたのだ。表に出ない分だけ、底の方に、何者をも切断できる程、鋭い切っ先を秘めている気配だけは、嫌と言う程理解できた。触れられて、その切っ先にまで触れられた気がして、身の裡の何処かが痛んだ気がした。その痛みの正体は、今も判らない。考えても無駄な気がしたので、今は放り出している痛みの謎だった。 確かに、そんな痛みを含めてさえ、何故判ったのかと言えば、今ではもう判らない。アノ時は判ったとしか言い様がない。 けれど確かに理解していた、当然のように。桃城の、言葉にも態度にも出される事のない煮えている感情の波と言うものを。身の裡に潜められた、骨をも綺麗に切断できてしまう切っ先を。確かに自分は、アノ時見ていたのだ。感じていたのだ。 「俺はね、桃先輩、守られたいなんて、思ってないから」 対等で在りたいけれど、1年と言う年齢差に阻まれる事は少なくはない。けれど、意志や何かで守られてしまう事だけはしたくはなかった。 「判ってるよ」 守りたいけれど、簡単に守らせてくれるような人間ではない事くらい、今更だ。判っていなければ、リョーマとは付き合えない。 意志を無視した場所になど、労りや愛しさなどは存在しない。そんな事は、判っていた。そんな場所に在るものとしたら、相手の意志を無視してガキの独占欲で従属に縛り付けて安心してしまう、ガキの所有意識、それだけだ。そんなものは、優しさでも愛情でも何でもない。身勝手な独占と所有と征服だ。さぞ相手には迷惑な事だろうと思える程に。そんな事は、判っていた。理解していて尚、守られてほしいと、言葉にできない部分で願ってしまう。所詮小心者なのだと、桃城は自嘲する。 「怖いのは、俺の身勝手だって事もな」 怖いのだ。この腕の中の華奢な存在が傷付いてしまうのが、傷付けてしまう事が。 言葉に出して告げるべきではないのだろうと知りながら、言葉に出してしまう程度には小心者なのだと、桃城は深い自嘲を刻み付ける。 「……狡いよ、その台詞」 逃げ出す事一つ、許してはくれない。 いつ逃げ出してもいいと、緩やかに抱き締めてくる腕に、情欲の気配はない。そのくせに、決して逃がしてはくれないのだ、この天性のヒトタラシは。女に不自由しなかったわけだと思っては、込み上げる不快感に眉を顰めた。 「よっと」 「ちょっ………」 「お前本当に軽いな」 呆れたような桃城の顔が、気付けば眼前に在る。半瞬浮いた感触は、態勢を逆にされたのだと判った。つまりは、桃城と向き合う格好になっている。 「亜久津に簡単に胸倉掴まれて引っ張りあげられる訳だな」 「………今更感心したように何言うんだか」 誰よりこの躯を知り尽くしているくせに、そんな事は今更だろう。 「現物支給、してくれんだろ?」 急速に色付くと言う訳ではないのだろうが、リョーマを凝視する双眸には、確かな情欲が見て取れた。 「フーン、珍しい、気ぃ向いたんだ」 スゥッと、綺麗に整った顔を突き出すと、艶冶な気配が桃城を見上げ、クスクスと笑った。 「マッサージ、してくれんだろ?」 突き出された小作りな顔を包み込むと、 「してあげるよ。全身マッサージ」 細い腕が桃城の首に回った。 「んっ……ぁん…」 「越前……」 「んんっ…っう……ごい…てよ…」 桃城の腹を跨ぐ淫猥な格好で、リョーマは白い裸体を桜に染め、肉の奥を嬲って行く官能に、身悶え喘ぎを繰り返している。 「んっ…もぉ…やぁ…」 「どしたよ?お前今夜はえらく素直だな」 下肢を開いて腹の上で嫋々の喘ぎを繰り返すリョーマは、今夜は特別素直だった。情事の最中、リョーマは感じている事を隠す事はなかったけれど、別の意味で今夜は素直だ。 「意地…悪いよ…」 怺えきれない快楽に染まった貌を隠す事なく曝け出し、リョーマは桃城を見下ろし、先をねだる。 「お前が脚に負担掛かるから、今夜は一切動くなとか言ったんだろ」 墓穴を掘る事など、最初から判っていただろうに。 「うるさい」 ギリッっと桃城の胸板に爪を立てると、細腰に手を当てられ、 「ヒィッ」 瞬間あげた悲鳴の半瞬後には、体位をしっかり入れ替えられていた。 「ホラ」 細すぎる腰をグッと引き寄せる。この細腰でよくあれだけ鋭いショットを打ち、持久力が持つものだと、肌を合わせる都度に、桃城は感心する。 「ぁんんッ…桃先輩……」 腰を挟む格好で下肢を目一杯開かれ肌が密着する。根元まで衝き射れられている生々しさに、背筋が快楽に融けて行く気分だ。怺えられないと、肩口に顔を埋め、形良く並んだ白い歯が、肉を噛んだ。 「っ痛ッ」 「…ゃっ…んッ…桃…先輩…もぉ………」 イキたいと、薄い翳りの中央で昂まる熱は、桃城の掌中に捉えられ、淫靡な音を立て扱かれて行く。 「リョーマ…」 敏感な耳朶を甘噛みし、低温で囁けば、リョーマの身悶えは激しくなるばかりだ。 嫌々と細い首を頑是なく振り乱し、怺える術を失った嬌声が嫋々に響いて行く。場所が場所だけに、リョーマの声は綺麗に響く。それがよりリョーマを敏感にさせているのかもしれない。 「やっ…」 「お前本当…俺が名前呼ぶの弱いのな」 そう余裕で笑う桃城とて、もう余裕など何処にもなかった。情事の時にしか呼ばない名前。だからこそ、リョーマにとっては桃城が名前を呼ぶ事は、特別な意味を持っていた。 「んんっ…やぁ…もぉ…も…イッ…ちゃ…ぅ…」 濡れた淫靡な感触が耳の奥に這ってくるのに、リョーマは愉悦に塗れ、細腰を捩った。そうすればするだけ、絶対的質量で肉の奥の奥に埋没し、内側から柔襞を押し開いていく桃城の猛る雄を締め付けてしまい、益々淫らに乱れていく結果に陥って行く事を、けれどリョーマは気付いてはいなかった。 「ぅんっ……」 頑是なく内振る小作りな顔を包まれて、噛み付くように口唇を重ねると、リョーマの吐息が漏れた。 「ふぅ……んんっ……」 喘ぎを封じられ、熱だけが逆流するように躯に戻ってくる灼け付く感触が生々しい 容赦なく貪婪に貪られ、痺れる程舌が絡め取られ唾液を流し込まれて、白い喉元が淫靡に上下する。 「あぁ…や…だぁ…」 封じられた喘ぎに焦れて振り切るように口唇を放すと、リョーマは快楽のまま嬌声を上げる。 小さい肉の入り口が、雄を含み入れ、爛れた熱さに喘いでいるのが浅ましい程判る。内部の肉など、灼けたように爛れきって、擦られる感触に喜々として雄に絡んでいる。 「…う…ごいて……もっと……」 熱に浮かされ淫蕩に染まりきった眼差しが、桃城をねだって舌足らずな声を紡ぎ出す。愉悦に喘ぐ敏感な姿態は、力などなくなっている。賢明に桃城の背に爪を立て、どうにか態勢を保っているのが背一杯だ。 閉じる事の叶わない判開きに開かれた口唇からは、流涎が滴り形良い頤を伝い、胸元を濡らしている。淫らな造作が、桃城を挑発して行く。雄の嗜虐を煽情する被虐性というものを、こんな時のリョーマは否応なく滲ませは、桃城の理性を砕いて行く。 「リョーマ…」 細腰を抱え込む格好でより深く埋没させた自身を捩じ込む威勢で衝き射れると、充血する程爛れている肉襞が淫猥に絡んで締め付けてくるのに、桃城も開放を促されて行く。 端整な貌が、情欲に深く歪む様が、リョーマの涙に濡れた視界で揺れていた。 「……好き……」 不意にそんな言葉が口を付く。 「…珍しいな…」 熱に浮かされた言葉だと判っていても、正気を手放しているリョーマの真実なのかとも不意に思う。この状況では、主語の欠落している言葉の意味に、正確性は求められはしないけれど。 「あんたの顔……」 「……顔かよ…」 虚ろな眼差しと、耽溺する言葉に、意味など求めても無駄な事なのかもしれない。 「俺に欲情してる…あんたの顔…」 欲情しながら手荒にしないようにと、バカみたいにこんな時まど冷静になろうとしている表情が好きだと、朧な意識の片隅で思った。 もっと、乱暴でも構わない。そう思う。そう思えば、見透かされたように優しく扱われるから、ますます挑発したくなる。壊れものではないと言うのに、壊れ物を扱うようにされては堪らない。 「俺も好きだぜ、お前の乱れきった顔」 肌を重ねた最初こそ。羞恥に戸惑い隠されていた乱れに乱れて行く表情を、肉の底から良く官能に喘ぐ嬌声も、隠す事に必死になっていたリョーマは、いつしか隠す事もなくなって、奔放に振るまうようになっていた。幼い躯に穿たれる苦痛がない筈は決してないと言うのに、リョーマはいつでも桃城を拒否する事はない。 「桃先輩……もぉ…」 舌足らずな声が、開放をねだる。 「もう限界か?」 欲情に逸った声を耳朶を甘噛み聴かせると、それだけでリョーマは激しく身悶える。 掌中に包んだ幼いリョーマ自身は、先端から粘稠の愛液を滴らせ、限界を訴えている。ソレを緩やかに刺激すれば、嫌々と激しく細い首が振り乱されて、桃城は細腰を激しく揺さぶり立てた。 「あっ…ゃっ…あっ…あぁぁっ…ッッ!」 絶対的質量で内側から押し開かれていく肉襞。擦られていく生々しい感触。目前まで絶頂に追い上げられ、意識が融けて行く。 「んんっ…んっ…もぉ…ダメ…」 意味を持たない、譫言じみた哀願の音が、繰り返される。 「リョーマ……」 しっとり絡み付き、締め付けてくる媚肉の感触に、桃城ももう怺える限界を超えていた。 激しく細い腰を揺さぶり、穿った自身でリョーマの肉の奥を思う様掻き乱し、桃城はその奥の奥で、熱を開放させていた。 「あっ…やっ…あぁぁっ……ッッ」 迸る劣情を感じた刹那、リョーマの意識は爛れた官能の淵に混融して逝った。 濃密な気配が、本堂に漂っている情後。本堂の床の上。以前から置いてある布団を二脚分並べて敷いたその上に、リョーマは白い裸体の細腰の下に、申し訳程度にケットを掛け、妖姿を隠す事もなく寝転んでいる。尤も、正確には、桃城の胸板を枕に、躯半分乗り上げる格好出、ではあったのだけれど。 「なぁ…お前さ」 「何?」 真上から覗き込むように見下ろしてくる綺麗な貌に、桃城の指が伸び、輪郭を撫でるのは、情後いつもの仕草でしかない。 「見えてたか?」 「ジャックナイフ?」 頬を辿り伝い降りて来た指は、親指がゆっくり口唇を撫でて行く。薄く開いた口唇に割り込んでくるソレに、リョーマはゆっくり含み入れる事に躊躇いは見せない。柔らかく甘噛み舌を絡める淫靡な様に、まるで結合部を視るようだと、桃城は苦笑する。 「視えてたよ。でも多分、桃先輩と対戦した千石って人よりは、見えてなかったと思うけどね。乾先輩に言わせれば、あの人の動体視力は、コマ送り状態で見えてる筈だって言ってたから。でも俺は流石にソコまでは視えない」 「そっか」 「桃先輩さ」 含んだ指を離すと、リョーマはスルッと顔を近付ける。 「痛い時くらい、痛い顔してもいいと思うけど?」 「何の事だ?」 「痛くない筈ないじゃん。あんだけ脚痙攣させてて。飛んだり跳ねたり、そりゃ格闘戦と勘違いものの試合だったけどさ」 「………お前ソレ褒めてんのか?」 「当然」 「俺はお前と違うからな『痛い』って言ってたぞ」 「殴るよあんた」 言葉より先にしっかりと手が出ていた。何処までも優しい仕草、情後のピロトークに任せた仕草だった。 「お前な、殴ってから言うなよ」 「周囲は演技で誤魔化されてくれるかもしれないけどね、俺の前でまでソレやられると、腹立つ」 尤も、レギュラーの面々は、桃城の『痛い』と言った台詞が演技なのだと、見抜いていたのには違はないだろうけれど。 「第一勝手すぎ。俺には泣けとか言うくせに、自分は痛いの一言も言わないなんてさ。そりゃあんた部のムードメーカなんだろうけど。俺に隠すなって言うなら、桃先輩だって隠さないで下さいよね」 理不尽な我が儘を言っている自覚はあった。自分はきっとこの先も、桃城に泣き顔を見せる事はないだろう。けれど桃城の弱さや痛みを知りたいと願うのだから、甚だ理不尽な自覚くらい、リョーマにもあった。そして桃城が鷹揚に笑いながら、仕方無い奴と言いつつも、決して自分の前で痛みなど見せないだろうと言う事も、リョーマは嫌と言う程判っていた。 所詮お互い意地っ張りなのだろう。それでも、いつか弱さも迷いも曝す時は来るだろうか?相手に何もかもを曝け出してしまえる時は。 「お前もな」 「やっぱりね」 思ったとおりの反応に、リョーマは情後の気怠い気配を纏い付かせたまま、クスクスと笑った。 「なんだよ?」 「ん〜〜結構判るもんだと思ってさ」 帰って来る反応や何か。内心を推し量れない時は多いけれど、こうして判る時もある。肌を重ねた後なら尚更だと言うのは、夢見がちな思考だなと、自分の自身の内心に、リョーマは尚笑った。 「俺さ、青学入って良かったって思うよ。最初は問答無用で親父に放り込まれて腹立ててたんだけどね。色々なテニスと試合できるし」 「俺とも会えたし?」 完全に、身を乗り出して覗き込んで来る格好に、後頭部に腕を回して引き寄せる。 「………自分で言う当たり、マダマダだね」 呆れて溜め息を吐き出して、ひどく柔らかい笑みを湛えると、リョーマは触れるように桃城の口唇に己のソレを重ねた。けれどソレはそうと意識する前に、離れて行く。 「親父が未完成だって言ってた意味、全然理解できなかったけど。今日良く判ったし」 『マダマダだね』と、何が未だなのか教えても貰えないまま、自力救済しろと、決して答えは教えては貰えずにきた答えを、亜久津との対戦で嫌と言う程理解できた。 「スプリットステップか?」 観戦していた桃城は、リョーマの成長をまざまざと見せつけられた気がした。 試合最中で進化するテニス。天才なのだと改めて思えば、けれどその裏に、リョーマの努力を知らない桃城ではないから、世間のように、無責任な称賛を口にする事はなかった。 「親父に散々未完成だって言われてたからね。俺はその意味では、腹立てたけど、亜久津ってのには感謝してる」 「するな、っんなもん」 少しだけ憮然とした桃城は、けれどそれもリョーマらしいと苦笑する。 所詮テニスが好きで好きで、自分の事に関しては、周囲が呆れる程無頓着なくせに、テニスに関しては妥協しないテニス馬鹿だ。 テニスに対する姿勢なら、多分リョーマの意識はプロに近いものだろうと桃城は思う。それは青学レギュラーに共通している事であるとは言え、プロになる可能性が高いリョーマの意識は、たとえソレが当然の事であっても、周囲からみれば、そのプライドも技術的なものも含め、プロに近い位置に佇んでいる。 道は別れて行くだろうか? フト、そんな下らない感傷的な想いが胸に湧いた。 「だから倍返しで報復したでしょ?いい踏み台になるって、本音だから」 「まったく、お前らしいよ」 亜久津との試合の中で、リョーマの精神の強さを思い知った。以前顧問のスミレが行っていたのを思い出す。 リョーマの父親の南次郎のテニススタイルに、『防戦』という言葉はなかったのだと。徹底した天衣無縫な攻めのテニス。リョーマのテニスも徹底した攻めのテニスで、『守り』などと言う言葉を知らない。結局親子でとてもよく似ていると思う桃城だった。 「これから関東大会だし、ランキング戦も始まるし。気はぬけないな」 「でも今夜くらい、こうしてても、バチは当たらないでしょ?」 「………お前本気でそう思うか?」 違う方向性でのバチだったら、幾らでもありそうだ。 「桃先輩、いい加減諦め悪いスよ。する事してて、いい加減、本堂での行為にも、慣れて下さい」 「………俺はお前と違って、常識人なんだよ」 「でも結果は同じでしょ?」 だったら無駄だと、リョーマは呆れた。 「これからだって、こーいう事、あると思うし」 「……お前な…」 「だから、あんたの家が幸運にも家族不在で姦るなら、そりゃ構わないって、いつも言ってるスよ。まぁ別に、あんたの家族に俺との事がバレて良いとか、俺のあん時の嬌声を家族に聴かせても良いって言うなら、そりゃ話は別だけど」 シレッと言うリョーマに、桃城は『人でなしはお前だ』と、噛み付くようなキスを送る。 「だって桃先輩の妹さんさ、すごいブラコンなんだもん。女は怖いからさ、気を付けないと、見抜かれるよ」 桃城の妹は、自覚のあるブラコンだから始末に悪い。何かと桃城の隣に在る自分に挑んでくる。 「ハハハ、あいつは未だ子供だよ、ガキガキ。も少し経てば、俺から離れてくさ」 「どうだか」 どれ程幼くても、妹も女には違いない。判っていないのは桃城の方だ。 「それに俺は別に、お前との関係隠す気はねぇし」 「常識人じゃなかったの?」 二律背反的な台詞に、心底リョーマは呆れた顔をして見せた。 「このネコ」 「聞き飽きた。第一そのネコが良くって、手ぇ出してきたの、桃先輩なんスからね」 「可愛くないな、お前は」 「だ・か・ら、そーいうのが、好みなんでしょ?」 タチの悪い娼婦のような笑みを綺麗に浮かべ、リョーマは桃城の首筋に顔を埋め、張りの有る褐色の肌に歯を経て吸い上げる。吸い上げては、褐色の肌に付いた痕に、満足そうな笑みを刻み付ける。 「コラお前」 「フフン」 ネコだからと、リョーマはシレっと舌を出す。 「自分でされるのは嫌だとか言うくせに。俺にはすんのかよ」 「いいじゃん桃先輩は」 「何がどうしたら、俺なら良いっていう判断基準になんだ?」 「青学一のクワセ者だし」 「それがどういう理由に繋がんだ」 「悪党で人でなしで今更でしょ?」 「俺程な」 反駁は、けれどリョーマの笑みに掻き消されて行く。 「ハイハイ、『俺程誠実な恋人は居ないでしょ?』ソレも聞き飽きた」 「お前なぁ」 そーいう奴だよと、桃城は呆れた顔を覗かせると、態勢をいれ換えた。 「常識人で、本堂でのセックスは嫌なんじゃなかったの?今夜は随分気分が乗るっスね」 覆い被され、自然と桃城を挟み込む格好で下肢が開く。ねだる仕草で腕が伸びた。 「今夜くらいは、バチは当たらないんだろ?」 「やっぱ、そー言う顔、悪党」 「好きだろ?」 「さぁね?」 「寝かしてやんないからな」 「そーいう甲斐性があったら、みたいもんスよ」 「覚悟しとけよ」 「そっちこそ」 どうせ事が始まってしまえば、どちらも我慢などできないし、堪え性などないのはお互い様で、こんなやり取りさえ毎度の事だ。 本堂に再び濃密な気配が満ち、甘い吐息が夜気を顫わせて行く。 後日。リョーマが首筋に残した痕で、桃城が不二と菊丸に盛大に揶揄かわれたのは、言うまでもない。 |