中途半端の類似性extra1











「そう言えば英二、何を騒いでたんだ?」
 手塚に早々に部室から追い出されたレギュラーの面々は、それぞれの帰路へと向かっていた。
「アア、アレね」
 英二と大石は、桃城とリョーマのように、自宅距離が自転車で15分と言う範囲の近さではなく、ある意味正反対に位置しているが、最寄り駅までは一緒に歩いて帰る事が日課になっていた。
 だから大石が副部長として、手塚と会議だミーティングだと忙しい中。待てる範囲で待っている事も日課になっている。尤も、それは相手に負担や負い目を感じさせない範囲の部類での事では有ったのだけれど。
 待てる範囲で待っている。それでないと、大石は気遣うから、英二はその範囲を越える事はなかった。それが英二の大石への気遣いで配慮だと言う事を、大石は正確に理解していた。
「大石知ってる?ファンタピーチっての」
「初耳だ、そんなの出たんだ。それでだな。どうせ英二と不二で、越前で遊んでたんだろ」
 流石全国区のゴールデンコンビだと、伊達で言われている訳ではない大石は、英二の台詞の背後に横たわる意味を、間違える事なく正確に読んでいる。
「まったく。越前可愛いのは判るけどな」
 5人兄弟の末っ子の英二は、後輩をいたく可愛がる。
桃城と二人で部のムードメーカだ。その英二が、昨年は桃城を構い倒し、今年はリョーマを構い倒している。余程可愛いらしいと、大石は可愛がられるリョーマに、一瞬同情を禁じ得なかった。
 他人に踏み込まれる事は極端に嫌うわりに、自分の身の裡に認めた者には、何処までも甘い英二を大石は知っている。
 小生意気なルーキーのリョーマは、けれどテニスの実力は嘘ではない。自分達の次世代に続く層の薄さが現在の3年レギュラーの杞憂でもあるから、リョーマの存在は歓迎されるたぐいのものだった。ましてその技術に見合う精神力も、嘘でも偽りでもないのだから、部長の手塚が行く行くはリョーマにテニス部を任せたいと考えていても不思議ではない。そして自分の次のテニス部を、桃城に任せようとしている手塚の内心の意図を、大石は知っていた。
「最初はさ『ナニこいつ、生意気』とか思ったけど、あれで素直だし」
 最初こそ、ポーカーフェイスを気取っていたリョーマは、けれど今ではその仮面など綺麗に剥がれている。
「まぁ、素直の意味、違うけどな」
「桃には、可愛いくらい素直じゃん」
「……だいぶ素直の意味違うぞ、英二」
「素直だよ。桃、甘やかしまくりだし」
 去年入部した時、桃城は一年の中では一番元気がよくて、その太陽のようなと形容されてしまう笑顔の前に、同学年からも先輩にもすぐに打ち解け気に入られ、部のムードメーカになるのは早かった。後輩の中では、自分と一番仲が良かったのも桃城だった。彼が『英二先輩』と、呼ぶようになったのはいつだっただろうか?想起しても、もう判らない過去の事だ。


『あいつはクワセ者だぞ』

 そう呟いた手塚の台詞も思い出しては、その洞察力には適わないと思い知った事まで思い出す。


「珍しく、慎重みたいだしな」
「可笑しいよ、見てると。桃が凄い慎重なの、オチビに。大切にしてるなって判ると、本気なんだって判るよ」  
 クワセものの笑顔。
呟いた手塚の台詞によくよく見ていたら、確かにそうなのかも知れないと思える部分も納得してしまって、けれど自分に向けられていた笑顔に偽りがない事も判っている。
 その桃城が、リョーマ相手には慎重なくらい慎重になっている事が、桃城の本気を語っているかのように英二には思えた。
「それで、肝心な部分が抜けてるぞ、英二」
「オチビの奴さ、何て言ったと思う?」
「目的が見えないぞ」
 自分との会話の中、よく英二はこうして前後の文脈を無視した言い方をする事がある。
 決して他人と話す時、こういう文脈を無視した会話はしないくせに、自分との会話は平気で飛ぶのだから、気心が知れている証拠なのだろうと大石は思う。思えば、僅かに胸の奥を擽って行く優越に、苦笑を漏らした。
 所詮青学テニス部一の万年新婚バカップルと呼ばれているゴールデンコンビだ。当人達に、その認識は薄い事ではあったけれど。
「ファンタピーチ、越前いつもファンタ飲んでるじゃん、今日もファンタ飲んでて、いつものグレープだったから、桃味が出たよって教えてやって」
「教えて遊んだんだろ、英二と不二の事だから」   
「飲まないのかって訊いたら、オチビの奴生意気〜〜」
「何言われた?」
 ヨシヨシと、跳ねた頭を撫でてやれば英二が満足する事は、判りきっていた。そういう、何気なく他人の優しさを引き出せる部分は、末っ子気質の才能だろう。
「ゴールデンとかっていうジュースでもあればいいねって。揚げ句に金粉入りの日本酒差し入れるとか」
 英二の台詞に、大石は笑った。何とも勝ち気なリョーマらしい反駁に、その場のやり取りが目に浮かぶ。
「盛大に惚気られたって訳だな」
 ヤレヤレと、大石は苦笑する。
「オチビの奴、アレが惚気なんて気付いてないんだよ。生意気」
 ふてぶてしいとばかり思っていた小生意気なルーキーは、結局クワセ者に掴まって、盛大に自覚のない惚気まで吐き垂れる。それでも、一向に悪い気分ではないのが不思議なくらいだ。
「その生意気が可愛くて遊んでんだからな、英二は」
 全面同情はできないなと大石が笑えば、
「だってさ大石〜〜オチビの奴さ、こぅ、小動物みたいで、抱き心地いいんだもん」  
 ジェスチャー付きで、『抱き心地バツグン』と喜々として英二が笑う。
 華奢な小さい躯。そのくせに、テニスは伸長や体格で左右されるものではないとでも言うかのように、綺麗なフォームで鋭いショットを打つ姿が印象的で。
 猛禽の鉄爪を隠し持っていると言ったのは不二だけれど、それでも構えば抱き心地はネコのようで心地好い。
「桃も大変だな。相手がアイドルで」
 手塚には桃城の後を継がせようと意図されて、3−6コンビには可愛がられて。
「桃もなぁ〜〜今一つって言うか、二つくらい自覚ないし」
 自分達の距離を慎重にして、相手をバカみたいに大切にしているくせに、肝心な部分が抜けている。アレはあれで、案外バランスのとれたカップルなのだろう。 
「それじゃ英二、待っててくれたお礼に、何処か寄って行こうか」
 桃城とリョーマのように、桃味のファンタと言う具合にはいかないけれど。
「流石大石。判ってるにゃ〜〜〜」
 何も欲しいのは、そういうジュースではないのだ。
欲しかったのは、些細な事で喜べてしまうこんな時間。
 傾く夕日に向かって二人はゆっくり歩いて行く。