TRIP



11月25日 金曜日 はれ   (その1)

そのまま、寝ていません。
相変わらず、空港の隅っこのイスに座って
次のフライトのチェック・インが
始まるのを待ってます。
向かい側にはジーンズをはいた
ねーちゃんが、その後もず〜っと
携帯電話を掛けまくっていてうるさい。
その横には民族衣装を着た
おばちゃんが座っている。
二人とも俺と同じように
フライトの時間まで
ここで待っているようだ。










4:00を過ぎると
空港も少し閑散としてきたが、
とても眠る気にはなれなかった。
『そうだ、折鶴を作ってあげよう!』
今回の旅にも、お世話になった人に
折鶴を折ってあげようと思い
千代紙を持ってきている。
おばちゃんは民族衣装を
着てるくらいだから、
きっと異文化のものに
興味を示してくれるに違いない。
カバンの中から千代紙を2枚取り出し、
丁寧に折り上げると二人に渡した。
すると意外にも、
ジーンズ・ねーちゃんは大喜びで
受け取ってくれ、
民族衣装のおばちゃんには
受け取りを断られてしまった。
な〜んか調子狂っちゃうな〜・・・









しばらくすると、横の空いた席に
黒人のおっちゃんが座り、
首から下げた空港職員の証明書を
見せながら話しかけてきた。
しかし、こういう国では
いくら証明書を持っていても要注意だ!
「やあ、どこから来たんだ?」
「日本です。」
「そうかそうか、ようこそアフリカへ!
 俺は空港職員なんだ。
 お前の航空チケットを見せてみろ。」
あまり気は進まなかったのだが、
まだエア・セネガルの
リコンファーム(予約再確認)を
していないので、おっちゃんに
どこでできるか聞いてみよう。
「おっちゃん、リコンファームは
 どこでできるの?」
「こっちだ、ついて来い!」
「いやいや、場所を教えてくれたら
 自分で行くから・・・」
と言っても、いいからいいからと
おっちゃんはどんどん行ってしまう。
も〜、なんか調子狂うな〜・・・
今までの経験からすれば、
こういった場合は
ややこしいことになるのが落ちなんだが、
俺のチケット持ってっちゃったし・・・
ジーンズ・ねーちゃんと目が合うと、
カバンは見ててあげるから、
と言ってくれた。










おっちゃんはある窓口に連れて行き
中にいる黒人の女性となにやら話しながら
俺のチケットを渡すと、カチャカチャと
パソコンに入力して
おっちゃんにチケットを返した。
「次はあっちだ!」
「リコンファームは?」
「今やってもらったから、大丈夫だ!」
おおっ、このおっちゃん空港職員だけあって、
なかなかやるじゃん!
次におっちゃんは、テーブルが並んだところに
連れて行ってくれた。
「明日マリに飛ぶのなら、セネガルの
 出国カードを書いておかないとダメなんだ。」
そう言って、用紙を用意してくれた。
この用紙は、先ほど苦労して書いた
入国カードと兼用になっているようで、
同じように書き込んで出国のほうに
印をつければいいみたいだ。










「おっちゃん、どうもありがとう!」
「ああ、なんてことないよ!」
そう言いながら、手を差し伸べてくる。
『やっぱり・・・』
妙に優しい人が現れると必ずと言っていいほど
こういうことになってしまう。
「おっちゃん、俺はリコンファームの場所を
 聞いただけで、手伝ってくれなんて
 言ってないよ〜。それに、俺
 アフリカのお金を持ってないんだ。」
「いいじゃないか、俺はお前に
 優しくしてやったんだから!」
「いや、俺本当にお金持ってないんだよ!」
そういっても一向に引き下がる気配がない。
どうしようもなくなって、
日本から持ってきていた飴玉を取り出して
おっちゃんの手に数個握らせると、
「ヘンッ!」
と言って、
どこかに行ってしまった。
とんでもない職員だ!
まぁ、言われるがままに、
のこのこついていった俺も
よくなかった。
これからは気をつけなきゃね!










5:00を過ぎた頃から
再び人が増え始めた。
今頃になって眠くなってきたけど、
もうそろそろチェック・インが始まる。
ウトウトしながらも、
なんとか眠らないようにがんばって、
6:00になるとすぐにエア・セネガルの
チェック・イン・カウンターに向かった。
カウンター入り口の警備のお兄さんが
俺のチケットを見ながら
「コォンヌゥイツィワ!」
と変てこな日本語で出迎えてくれ、
ふたりで大笑いした。
列に並んでいると、俺の後ろには
昨夜同じ飛行機に乗っていた
ダンディーなイタリア人のおじさんが並んだ。
たぶん50歳後半くらいの人なのだが、
耳にピアスを付けてお洒落な人だったので
よく覚えている。
おじさんも俺のことを覚えていてくれて
話しかけてくれた。










「おぉ、おはよう! 
 きみはどこに行くのかな?」
「おはようございます! 
 これからマリに飛ぶんですよ。
 おじさんは?」
「グゥインチョールまで行くよ。」
「グィンチョール? 知らないな〜・・・
 おじさんは夕べはどうしたの?」
「近くのホテルに泊まったよ。きみは?」
「この空港で待ってました。」
おじさんはウ〜ゥ!と声を上げて両手を広げた。
「そりゃ大変だね! 
 この後も気をつけてね!」
「ありがとうございます。」
あんな夜中に着いてもホテルに行くんだから、
おじさんはきっと旅慣れてるんだろうな。
まあ、日本からアフリカはとても遠いけど、
イタリアからだと結構近いから
おじさんは何度も来ているのかもしれない。
ちなみに、後から調べたところによると
“グィンチョール”と聞こえたのは、
実は“ジガンショール”というところで、
地図によるとセネガルの南部、
カザマンスの辺りだった。
日本の外務省が出している
『海外安全ホームページ』では
カザマンスは渡航延期勧告が出ている。
おじさん大丈夫なのかな〜?










チェック・インを済ませ
窓際の席を取ってもらって
上機嫌で出国の手続きをしに行った。
ややこしいが、マリに飛ぶということは、
セネガルを出ることになるので
出国の手続きが必要になってくる。
昨夜、飴玉をくれてやった
おっちゃんに手伝ってもらって書いた
出国カードを提出すると
審査官は2,3の質問をしてきた。
どうやら、カードが
ちゃんと書けてないようだ。
クソ〜、あのオヤジ・・・
なんとか無事に通過して
今度は手荷物検査だが、
ここでも引っ掛かった。
今度はナイフを持っとるだろ!
とか言いよるし・・・
苦労して鍵を開けてカバンの中を見せると、
係員のおばちゃんは適当に見て
OKと言ってくれた。
ほんまにちゃんとチェックした?
なんか、携帯電話いじっとるみたいじゃし・・・
まあ、無事に通されたので良しとしよう。










待合室に行くと、そこは夕べ来た所だった。
係員に出発ゲートを聞いてイスに座ったのだが、
ゲートにナンバーが表示されていないので
本当にここがエア・セネガルの
出発ゲートなのか解らないが、
外にエア・セネガルの飛行機が
停まっているのでたぶん大丈夫だろう。










朝7:00を過ぎると
空が少しずつ白み始めてきた。
その時だった。
待合室の隅っこにペア・ルックの
民族衣装を来た男女が
小さな絨毯(じゅうたん)を敷き、
太陽が昇ってくる方向に向かって
お祈りを始めた。
まず、太陽に向かってお辞儀をし、
小さな声で何かを唱えながら
床に頭が付くまでかがみこみ、
立ち上がる。
それを数回繰り返す。
この辺りの国はイスラム教を
信仰している人が多く、
信者は、日の出前、正午、3時頃、
日没、就寝前の一日5回礼拝を
するのだと聞いたことがあった。
それは、いくら空港であっても
敬虔な信者にとっては
欠かすことのできないものなのだろう。
テレビでは何度か見たことはあったが、
こうして目の前で見る姿に驚き、
神聖な気持ちになった。




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