TRIP



なんて書いてあるんだ?
出迎えの人が持っていた紙















11月25日 金曜日 はれ   (その3)

空港出口のところに
変な文字が書いてある紙を持っている
民族衣装を着た人と、シャツを着た
二人の黒人男性がいる。
あの人だろうか?
そ〜っと近づいていくと声をかけられた。
「ナトリさんのお客さん?」
「そ、そうです!」
良かった、この人がホテルの人に
間違いない!!!
というのも、ホテルの予約確認が

“名取”という名前で送られて
きていたからだ。
この人がホテルに人じゃなければ
名取さん(ちなみに女性)の
名前を知っているはずがない。
わぁ〜、良かった〜! 一安心だ!!!














話をしながら車に向かう。
この人は英語が通じるようだ。
日差しがきつく、
空気がすごく乾燥している。
100mくらい歩くと
迎えの車があったのだが、
その車はボロボロだった。
シャツの男性が後部座席の扉を
開いてくれた。
「メルシー(ありがとう)!」
そう言って、カバンをイスの上に載せると
ブワーッと埃が舞う。
息を止めて俺も後部座席に乗り込むと、
車内もボロボロだ!
CDデッキやカセットはもちろん、
ラジオすら付いていない。
当然クーラーもない。
フロント・ガラスの一部に穴が開いており、
バック・ミラーも壊れている。
要するに走るために
必要なもの以外は何も無いのだ。
シャツの人が運転手で
民族衣装の人が助手席に乗る。
ボロボロではあっても
車はちゃんとエンジンが掛かり、
一応は舗装されている道を走り始めた。















バックミラーが割れてるのが見えるかな?
出迎えの運転手






















左下にヤギさんがいるよ!
マリの風景 1

























な、なっ、何じゃ、こりゃ〜〜〜!!!!!
開けっ放しの窓の向こうには、
まさにアフリカの景色が拡がっていた。
道路の両サイドに拡がる草原、
とは言っても、暑さのせいか
草はほとんど枯れていて
草原とは言えども
茶色の草原が広がっている。
そこには数十頭の牛が群れを成して歩き、
男の人が棒のようなものを持って
牛のお尻を叩きながら誘導している。
バナナを頭の上に載せた
民族衣装の女の人が道を横切る。
しばらく行くと赤土の大地が現れ、
砂埃で辺り全体が赤茶色に煙っている。
壊れかけた家から
裸の子供が走り出してくる。
小さなマーケット、とは言っても
棒っ切れを4隅に立てて
布を掛けただけの簡易テントの下で、
何かを売っている。
人々はみな民族衣装を身に着けている。
パッ、パー!
大きなクラクションの音に驚いて
前を見てみると、
牛が車の前を横切って行った。














あまりのショックに空いた口が
ふさがらないどころか、
顎がはずれたような気分だ。
心臓がドキドキしている。
一気にアフリカの深い所に
入り込んでしまった感じだ!
こんな所があるなんて・・・
すごい、すご、凄すぎる!!!
これをカルチャー・ショックと
言うのだろうか・・・















スゲー!!!
マリの風景 2













一変に頭の中が真っ白になって
呆然としてしまい、
前の座席の民族衣装の人が
話しかけているのに
しばらく気が付かなかった。
「ようこそ、マリへ! 
 私の名前はボクンです。」
この人がボクンさんか!
名取さんのメールには、
『困ったときには、ホテルの管理人
 ボクンに相談してみてください。』
と書いてあった。
「ああっ、どうも・・・ 
 僕はトモノリ・ウエノです。」
「トモ、トモロリ?」
誰がロリやねん!
「ああ、トムと呼んでください!」
「トム、それなら簡単でいいな。
 日本人の名前は難しい。」
ボクンさんがにっこり笑うと、
前歯が一本抜けていた。
「トム、ナトリさんから
 いろいろ聞いてるよ。
 ドラマーなんだろ!
 今夜ライヴに連れて行って
 あげられるよ!」
「ええっ、ほんとに?」
「もちろんさ!」
名取さんが電話連絡してくれてたようだ。
ありがたい!!!















男の人も民族衣装を着てるんだ!
マリの風景 3























しばらく走ると大きな河を渡り始めた。
「この河はニジェール川だよ。」
中学校の地理の時間に
聞いたことのある名前だった。
あの頃は、まさかこの川を
渡ることがあるだなんて
思ってもみなかった。
橋を渡ると車はまもなく左に曲がり、
いきなり停まった。
ボクンさんが車を降りて
俺の座席の扉を開けてくれる。
えっ? まさか、ここがホテル?
ホームページに載っていた地図では
ホテルはほぼ街中に在るように
書かれていたので、
お店などがたくさん建ち並んだ
一角にあるものだと思い込んでいたが、
周りの風景からすると、まだまだ郊外を
走っているのだと思っていた。
ここか〜・・・
自分ひとりじゃなかなか
見つけられなかっただろうから、
出迎えをお願いしておいて
よかったのかもしれない。















ホテルは少し奥に
入ったところにあるようで、
中庭のようなところを歩いていくと、
メチャきれいな
フランス人女性と擦れ違った。
「ボンジュール(こんにちは)」
「ボ・ボンジュ〜ル・・・」
ワァ〜オ、なんてビューチフルなんだ。
どうやらホテル・ラフィアの宿泊客らしい。
ラッキー!
入り口付近には木陰にボンボン・ベッド
(海水浴の時等に使う
 リクライニングのイスのこと)
を出してくつろいでいる黒人が数人いた。
「トム、部屋は今掃除中だ。
 すぐに終わるから、
 ここに座って待っていてくれ。」
ボクンさんはボンボン・ベッドのひとりに
何か声を掛けてホテルの中に入っていった。
イスに座って周りを見回す。
雑然とした雰囲気が漂っていて、
衛生状態は良くなさそうだ。
いや、それはこのホテルが、というよりは、
この街全体の衛生状態が悪いようだ。
中庭に木陰を作っているのは
大きなマンゴの木
(実が成っているから
 マンゴだと思ったのだが、
 後から考えるに、
 あれはアフリカ特有の木
 “ソーセージ・ツリー”
 じゃないかと思う)だ。














真ん中より少し右にあるのがその木だ。
ホテルの中庭


























○※▽♀♂
何か話しかけられたので
振り返ってみると
先ほどのボンボン・ベッドの若者が
コーヒーを入れてきてくれていた。
「メルスィー(ありがとう)」
アルミでできたコップに入った
インスタントのコーヒーを飲んでいると、
マンゴの木の根元で何かが動いた。
な、なに?
一瞬自分の目を疑った。
なんとマンゴの木の周りを
土と同じ色をしたイグアナが
這い回っていた。
一匹や二匹ではなく、結構な数がいる。
うわぁ〜、気色わりぃ〜!
こっちに来んなよ〜!















木の幹によじ登っていく
イグアナを見つめながら、
当初は虫除けをちゃんと塗り、
食べるものにも細心の注意をしていれば
病気になんてならないだろうと
思っていたが、
その考えを改めなくては
ならなくなった。
どんなに注意しても、
これじゃあコレラやマラリアだけでなく、
下手をすれば狂犬病にだって
なりかねない状態だ。




前へ もくじ 次へ