TRIP



11月25日 金曜日 はれ   (その4)

「トム!」
様々な思いを巡らせながら
コーヒーを飲んでいると、
中から出てきたボクンさんが
声をかけてくれた。
「マリには何日居るんだ?」
「十日間の予定です。」
「そうか、十日間でマリの
 どこに行きたい?」
「まず、ジェンネ!
 月曜日に着くように行って、
 月曜市が見たいです。
 それから、ドゴンの村に行きたいな〜。」
「ナトリさんが、トムはあまり長くは
 マリにいないから、
 トムが必要としていれば
 ガイドを付けてやってくれと
 言われているんだ。」















日本にいるときに名取さんからのメールで、
短期間でマリを効率よく回るには、
バマコからガイドを雇うのも
一つの手だと教えてもらっていた。
今までの旅行のように全て
一人でやりたいという気持ちもあったが、
先ほどの空港からの景色を見ていると、
とても一人では
回れないような気がしていた。
それにドゴン族の村に行くには、
ガイドを雇わなくては
行くことができないようだった。
遅かれ早かれガイドを雇わなければ
ならないのなら、バマコで雇っておいた方が
得策かもしれない。
ただし、ガイドを雇う場合、
朝から晩までその人と一緒にいるわけだから
気の合う人を選ばないと、
きつい旅になってしまう可能性がある
ということも教えてもらっていた。















「もしガイドをお願いしたら、
 どんな人を付けてくれるの?」
「もし、時間があれば俺が行くよ!」
「え、ボクンさんが来てくれるの?」
「ああ。」
空港に出迎えに来てもらったからか、
ボクンさんなら頼り甲斐が
ありそうだし楽しくなりそうだ。
「で、料金は?」
「そうだな〜、あさって出発で6日間、
 ガイド料、交通費、食事、
 一日につきミネラル・ウォーター
 2リットル×3、
 全て込みで600ユーロでどうだ?」
「そ、そりゃ高い!」
600ユーロは日本円で
約9万円近くのお金になる。
「そうかな〜、
 そんなに高くはないと思うが・・・
 じゃあトムはいくらならいい?」
マリに着いてまだ相場も何も解ってないのに
こんな大きな買い物をするとは
思わなかったので、
どうしたものかと迷ったが、
インド旅行のときの教訓を生かして
安めの金額を言ってみた。
「200ユーロ(約3万円)。」
「ウフフフ・・・、トム、いいか?!
6日間は自分の買い物以外は
全くお金が要らないんだぞ〜。
200ユーロじゃムリだな。」
そんな問答が数回繰り返され、
結局6日間でモプティ、ジェンネ、
ドゴンの村、それにバマコの案内や
ライヴ・ハウスにも
連れて行ってもらうということで
400ユーロ(約6万円)で
手を打つことにした。
高いのか安いのかよく解らないが、
これで自分の行きたいところは
全て回れると思うとうれしくなった。
出発はあさっての日曜日だ!














なかなかいい感じでしょ!
ホテル・ラフィアのドミトリー






























「ところでボクンさん、
 僕はまだアフリカのお金を
 持ってないんだけど・・・」
「ああ、わかった。
 後で両替をしてくれる奴を
 紹介するよ。
 部屋の掃除も終わったし
 準備もできたから案内しよう。
 ドミトリーだったよな?」
「はい、そうです。」
ドミトリーとは共同部屋のことで、
部屋を借りるのではなく
大部屋に並んでいるベッドのひとつを借りる。
プライベートな時間は持てないが、
いろんな国の人と一緒になったりして
情報交換をするのが楽しいし、
とにかく安いので俺は結構気に入っている。
「トムはあのベッドを使ってくれ。」
部屋の中は薄暗く、ベッドが三台置いてあるが、
今は誰も居ない。
少し広くなったところに
応接セットがおいてあり、
タバコを吸ったり、
リラックスできるようになっているようだ。
蚊が入らないように窓には網戸が張ってあり、
天井には数台の扇風機が取り付けてある。
蛍光灯も一応付いている。
思ってたより広いし、結構いいじゃん!
「30分後に両替する人を
 連れて来るから。」
そう言ってボクンさんは部屋を出ていった。















ふ〜っ、やっと着いたぞ〜!
落ち着く前に、まず日本から持ってきておいた
蚊取り線香に火をつけた。
応接セットに座って
しばらく日記を書いていると、
両替をしてくれる人がやってきた。
旅慣れた人ならレートがいいとか
悪いとか解るのだろうが、
俺はいつもよく解らない。
これからいったいどのくらいのお金が
必要なのかもよく解らないが、
とりあえず400ユーロ(約6万円)
両替してもらった。
ちなみに西アフリカのほとんどの地域の通貨は
セーファーフラン(CFA)というお金で、
100円=500CFAというのが
大まかな為替レートだ。















これが西アフリカの通過だ!
セーファーフラン













これで両替もできたことだし、
一安心したところでシャワーを
浴びることにしよう。
家を出てから全然シャワーを
浴びていないので、すごく気持ち悪かった。
トイレ兼シャワー室はドミ(ドミトリーのこと)
のすぐ奥にあった。
中は結構広くて、おだいじ袋
(貴重品を入れているカバンのことを
 そう呼んでいる)
も持ち込めるし、洗面台の下には
アフリカ版の蚊取り線香に
火が点けてあるので、
安心してシャワーを浴びれるぞ!
アフリカ版蚊取り線香は日本製より
色が黒くて太い。こりゃ、かなり効きそうだ!
シャワーは思っていたより
ちゃんとしていたが、
蛇口をひねると、もちろん水しか出ない。
えいっ!水はそんなにも冷たくなく、
快適快適!
頭も洗ってスッキリだ。
ついでに歯磨きと洗濯も終わらせた。
ヒゲも剃ろうかと思ったら、電池が無い。
なんてこった〜・・・
まあ、インドのときのようにヒゲは剃らずに
旅することにするか!














TOPページの絵はこれなんだよ!!!
部屋にかかっていた絵



























「トム!」
シャワー室から出ると、
奥の部屋から声が掛かった。
中を覗いてみると、
大きなベッドの向こうのイスに
ボクンさんが座ってくつろいでいた。
「ここはボクンさんの部屋?」
「ああ、そうだよ。」
部屋はあまり大きくなく、
ベッドとイスとタンスのようなものが
置いてあるだけでほぼいっぱいだった。
タンスの上には何枚かの写真が飾ってある。
「この人は、ボクンさんの家族?」
「そう、モプティに住んでいるんだ。」
「離れ離れじゃあ寂しいですね?」
「少しね。トムがモプティに行ったときに、
 俺の家族に会えるかもしれないな。」
「あっ、そうだ!ちょっと待って・・・」
家を出るときに千秋が、
『アフリカの人は、家族の写真を
 見せてあげると、
 喜ぶかもしれんけぇ
 持って行きんさい。』
といって数枚の写真を
おだいじ袋に入れてくれていたので、
ボクンさんに見せてあげよう!
「お〜ぉ、これがトムの
 ワイフ(奥さん)か?」
ボクンさんは目元が緩み、
歯が抜けた口元をほころばせて、
ニコニコしながら写真を見ている。
その顔がとても優しそうに見えた。















「ワイフはどうして一緒に来なかったんだ?」
「たぶん、アフリカにあまり
 興味が無いんだと思うな〜・・・」
「そうか〜、お土産買って帰らなきゃな!
 ところでトム、ガイドのことなんだけど、
 俺は時間が取れなくなりそうなんだ。
 代わりに弟をガイドにつけるよ。」
「えぇーっ、そうなんですか・・・」
ボクンさんは頼りがいがありそうだったので
期待していたのだが仕方ない。
「後でここに来るから紹介するよ。」
「解りました。ところで一つ
 お願いがあるんですが・・・」
「なんだ?」
「できればでいいんですけど、
 モプティに行ったときにホテルではなく
 ボクンさんの家族の家に
 泊まらせてもらうことは
 できませんか?」
図々しいお願いだとは思ったけど、
俺としてはチャンスがあれば
アフリカ人の家に泊めてもらって
原住民の生活を生で
体験してみたいと思っていたので、
モプティにボクンさんの家族がいるなら、
またとないチャンスだと思った。
「それでトムがいいのなら、俺は構わないよ。」
「ほんとですか? 是非、お願いします。」
「解った、弟に伝えておくよ!」
「ありがとうございます!
 僕は今から街を少し歩いてみようと
 思うんですけど・・・」
「日中は日差しが強くて暑いから
 やめといたほうがいい。
 弟が4時頃来るから案内させるよ!」
ちょっとでも早く街を歩いてみたかったけど、
確かに今は暑すぎる。
「じゃあ部屋に居ますね。」
よ〜し、これでアフリカの
ディープなところを見られそうだ。
楽しみになってきたぞ〜!




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