TRIP



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11月25日 金曜日 はれ   (その5)

部屋に戻り日記を書きながら、
先ほどのボクンさんとのやり取りのことを考えていた。
家に泊めてほしいといったとき、
ボクンさんが言った
『トムが望むのなら構わないけど、
 それでいいのか?』
という言葉が引っ掛かっていた。
しかし、よく考えてみればボクンさんとしても
俺に自分の家に泊まってもらえば、
その分ホテル代が浮くので
好都合だったのだろう。
などと思いを巡らせながら我に返り、
自分しているの行動に気づいてみると
首の辺りをかきむしっていた。
うわっ、ヤバイ!蚊に刺された!!!
いつの間に刺されたのだろう?
あれほど注意していたのに・・・
マラリアの蚊じゃなければいいのだけど・・・
そう思いながら辺りを見回すと、
蚊取り線香が点いているにもかかわらず、
数匹の蚊が飛び回っていた。














ふわぁ〜、ちょっと休憩じゃ!
4時までにあと1時間くらいあるので、
少し眠ろうと思い日本から持ってきた寝袋を敷いて、
その上に横になった。
あ〜、やっと横になることができた。
部屋の中はかなり暑いのだけど、
蚊に刺されるのは嫌だったので、
寝袋にくるまったのだが
暑くて暑くてとてもじゃないけど眠れない。
仕方なく起き上がって再び日記を書いていると、
ヒゲモジャの若いフランス人の男が入ってきた。
先ほど挨拶をして少し会話をしたところによると、
中庭で出会ったメチャきれいなフランス人女性と
一緒に旅をしているらしい。
「今からモプティに行くんだ。」
「そうなんじゃ〜、気をつけてね!
 俺はたぶん二日後に行くと思うよ。」
「じゃあ、お先に。」
「お互いに、いい旅行しようぜ!」
「そうだな!」
そう告げると、ヒゲモジャ君は
金髪美人と一緒に元気よく部屋を出ていった。
ちくしょ〜、ちょっと残念じゃ!















なかなかの男前でしょ!
ガイドのソーリー君












「トム!」
4時過ぎにボクンさんが誰かを引き連れて、
部屋に入ってきた。
「こいつがトムのガイドをしてくれる、俺の弟だ。」
「アイム・ソーリー(ごめんなさい)」
弟さんは、ガイドが変わったことを悪いと思ったのか、
いきなり誤られたのでてビックリしてしまった。
「いやいや、ガイドはボクンさんじゃなくても
 構わないし・・・」
するとボクンさんが大声で笑い始めた。
「トム、弟の名前は“ソーリー”っていうんだよ。」
一瞬何を言われたのか理解できなかったのだが、
しばらくしてようやく解った。
アイム・ソーリーと言ったのは誤ったわけではなく、
アイ・アム・ソーリー、つまり
『僕はソーリーです。』と言ったのだ。
まんまと引っ掛けられたってわけだ。
ソーリー君の気の効いた挨拶のお陰で、
いっぺんに打ち解けた気がした。
「トムです、よろしく!」
「ようこそ、マリへ!!!」
お互い笑いながら握手をした。















三人でマリのどこをどんな風に回るか
話し合った結果、
日曜日に出発すると
ジェンネの月曜市に間に合うように行くには
結構大変なので、
明日(土曜日)に出てモプティまで行き、
モプティでボクンさんの家族
(ソーリー君の家族でもある)の家に一泊してから
ジェンネに向かうという案で決まった。
「そうとなったら今からソーリーと
 明日のバスのチケットを買いに
 行ってきたほうがいい。」
マリ〜セネガル間は鉄道が走っているが、
モプティやジェンネ方面には鉄道は無く、
一般的にはバスを利用することになる。
「うん、じゃあソーリー、連れて行ってくれる?」
「もちろん!」















準備をして外に出ると、
確かに日中より少し涼しくなったような気がした。
ホテルから一歩外に出ると先ほどの光景が現れる。
すごい、凄すぎる・・・
「ソーリー、少し買いたい物があるんだけど・・・」
「ああ、いいよ!何が欲しい?」
「マラリアの予防薬と蚊帳なんだけど。」
マリに着いて以来、マラリアのことが
気になってしょうがなかった。
「よし、じゃあまず薬局に行こう!」
ホテルから数十メートル歩くと
メイン通りに出た。
人、人、人・・・
こんなにたくさんの黒人を見たのは初めてだ!















う〜ん、なんともスゴイ!
ラフィアの前の風景














看板の絵が面白い!
アフリカの散髪屋さん















アフリカ大陸でも、サハラ砂漠以南の地域のことを
“ブラック・アフリカ”と呼ぶ。
当初、なんてオドロオドロシイ名前なのだろうと
ビビッていたけど、
ここに来て初めて“ブラック・アフリカ”とは、
ただ単に黒人の住む地域のことなんじゃ
ないだろうかと思い始めた。
しかし、これだけ黒人がいると、
なんだか自分の肌が白いのが(黄色?)
おかしいんじゃないだろうかと思えてくるほどだ。
今までニューヨークやイタリア、インド、バハマ、
様々な国を旅してきたけど、
どこに行っても日本人を必ず見かけた。
ところが、ここには日本人はおろか、
アジアの人さえ全くいない。















「トム、先に言っておくけど
 写真を撮りたいときには必ず俺に言ってくれ。
 写真を撮られるのを嫌がる人が結構いるんだ。」
「うん、解った。」
メイン道路の両サイドには
たくさんのお店が並んでいる。
果物屋、おもちゃ屋、食べ物屋・・・
ほとんどが露店だ。
本屋さんもあるが、もちろんこれも露店だ。
四隅にどこかから拾ってきたような木を立て、
布を掛けただけの簡易テントの下に
ベニヤ板のようなものを敷いて、
絵本や雑誌が並べてある。
「マリはどうだい?」
「す、すごいね! かなり驚いてるよ。」
「まあ、無理もないな。
 さっきマリに着いたばかりだもんな。」
「ソーリーにとっては
 この景色は普通なんだよね。」
「ああ!」














話をしながら歩いていると不思議な物体が
目に飛び込んできた。
うぎゃぁ〜〜〜ぁ!
なんじゃ〜これは・・・?
数台の小さな机の上に、
何かの動物の頭や足が並べてあり、
ハエがブンブン飛び回っている。
「これは、羊だよ!」
「これ食べるの?」
「美味しいんだよ! 
 ジェンネでは朝の名物料理だから、
 きっと食べさせてあげられると思うよ。」
「・・・」
頭がクラクラしてきた。
喜んでいいのか、どうかよく解らない。
「ソーリー、写真とってもいいかな〜?」
ソーリーはお店のおばちゃんと
交渉してくれているが、
なんだかややこしそうだ。
「やばそうだったらいいよ。」
「いや、おばちゃんは写らないように
 してくれれば、羊は撮ってもいいってさ。」
本当はおばちゃんも一緒に
写したかったが仕方ない。
写真を撮り終えると
ソーリーがおばちゃんにチップを上げていた。
「ソーリー、俺が出すよ。」
「あぁ、いいよいいよ。」
「ありがとう。でも、どうしておばちゃんたちは
写真を撮られたがらないの?」
「う〜ん、トムが写真を撮って、
 それをどこかで売って金儲けをしようとしていると
 思ってるみたいだよ。」
「え〜っ、そんなことないのにな〜・・・」
「さぁ、行こう!あそこが薬屋だ。」















こっ、これを食べるの?
マーケットで売られていた羊


































通りの向かい側が薬局だった。
ソーリーについて中に入ると、
造りは日本の昔ながらの薬局に近く、
土間の真ん中に大きなガラスの
ショーケースが置いてあり、
ソーリーはその向こう側の
薬剤師に何か告げると、
後ろの壁側にある棚から一つの
小さな箱を出してきてくれた。
「これがマラリアの薬だよ。」
箱には“サヴァリン”と書いてある。
最新の抗マラリア薬は
サヴァリンという名前で副作用も少なく、
今のところは一番いい薬だということを
調べておいたので、これに間違いない。
9,655CFA
(CFAはセーファーフラン 
 約1,900円)と、
かなり高いが病気は絶対嫌だったので
買っておいた。















薬局を出て通りを歩いていると
向かい側からたくさんの網(あみ)を
持った男の人が来た。
ソーリーが話しかけるとその網を広げ始める。
「トム、蚊帳だよ。
 10,000CFA(約2,000円)だって。」
ラフィアには備え付けの蚊帳があるので
心配はないのだが、
明日から行く先々で蚊帳があったほうが
安心できると思い、
これも買っておいた。
「他に何かいるものは?」
「いや、今のところは無いけど、
 この向こう側はマーケットなの?
 少し見たいな〜!」
「マーケットは後にして、
 先にバスのチケットを買いに行こうよ!」
「そうだね、そうしよう!」




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