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11月25日 金曜日 はれ   (その6)

マーケットを通り過ぎて大きな道に出ると
たくさんの車が走っており、
右に曲がったところに緑色をした、
幌(ほろ)付きの小さなトラック型バスが停まっていた。
「これに乗るぞ!」
小さな入り口から幌の中に入ると
アフリカ人でいっぱいで、
いっせいに俺に視線が集まった。
ソーリーはギュウギュウ詰めで座っているイスに
無理やり(たぶんマリではそれが普通なのだろうが)
二人分のスペースを開けて座らせてもらった。
みんながチラチラと俺のほうを見ている。
バスが走り出すと、
一人の男がバス代を徴収しにやってきたが、
ソーリーが俺の分も払ってくれた。














俺の隣に座っているアフリカン・ママは
たくさんの人がいるにもかかわらず、
赤ちゃんに乳を飲ませるために、
おっぱいをボヨ〜ンと出している。
バスの中に限らず、街のいたるところで
子供におっぱいを飲ませているママを見かけた。
最初は少し目のやり場に困ったが、
その姿を見ながら俺が幼かった頃は日本でも
電車やバスの中でも所構わず
お母さんがおっぱいを
子供に飲ませていたことを思い出していた。
今ではそんなことをしたら
日本では変人扱いされるかもしれない。
車の外は大渋滞していて、
クラクションの音がビービー鳴りまくっている。














「5時頃が一番混雑するんだ。」
沈みかかった夕日の中を、
グリーン・バスはゆっくりゆっくり走っていく。
「ソーリー、このバスはなんていう名前なの?」
「スートラマ。」
「ス、スート・・・」
「スートラマだよ、マリの人はみんな、
 よくこのスートラマを利用するんだ。」
「なんだか俺もマリの人たちに
 溶け込んだ気がするよ。」
「ハハハ・・・そりゃいい! 
 ちなみに“マリ”は地元の人の言葉で
 “イポ”の意味なんだ。」
「イポ?」
最初、イポの意味がよく解らなかった。
「あ、解った!“カバ”のことか〜!
 でっかい口で水の中を泳ぐ大きい動物だよね!」
「そうそう、カバのことなんだよ。
 マリにはバンバラ族、フラニ族、ボボ族、
 ボゾ族、ドゴン族・・・といった、
 たくさんの民族が住んでいる。
 昔はお互い喧嘩をしていたのだけど、
 今ではとても仲良しで平和なんだ!
 たくさんの民族が集まっても穏やかで平和だから、
 その象徴でカバ、
 つまり“マリ”という名前になったんだよ。」
「へぇ〜、なるほどね〜!
 ソーリーは何族の人なの?」
「俺はフラニ族出身だよ。
 フラニ族は美男美女が多いんだよ!
 先ほどニジェール川の橋の上に、
 すごく綺麗な女の人が立ってただろ、
 あの人もフラニの出身だ。」
うん、確かにあの女の人はメチャ綺麗だった! 
って、ちゃっかり見とんのかい!!!














この向こうにバスターミナルがあるんだ!
ソゴニコ・バスターミナル付近の風景


















「そんなにたくさんの民族が住んでいて、
 言葉ってどうなってんの?」
「フラニ語、ボボ語、ボゾ語といったように
 それぞれの民族でそれぞれの言葉が有るけど、
 どの民族の人もバンバラ語が話せるし
 フランス語も話せるな。」
「すご〜い、じゃあマリの人は自分の族の言葉と
 バンバラ語とフランス語の
 三つの言語が話せるんだね!」
「俺はそれプラス英語、今はドイツ語も
 勉強してるんだ。」
「すごいね〜!!!」
「ハハハ・・・ 明日からはトムに
日本語を教えてもらうかな!
 よし、ここで降りよう。 
♀?☆?♀?!
ソーリーが、お金を徴収した男に何か言うと、
バスが停まった。
ちゃんとしたバス停など無く、
申告すればどこでも降ろしてくれるようだ。















大きな建物の横の筋を入っていくと、
そこがソゴニコ・バス・ターミナルだった。
敷地内に入るとすぐのところに
チケット売り場があった。
ソーリーがチケットを買いに行ってる間に、
辺りの様子を眺めた。
バス・ターミナルということもあって
この辺りは一段とにぎやかだ。
露天に座って食事をしている人や、
バスに荷物を積んでいる人、
マリではお客さんの荷物はバスの天井に載せるようだ。
チケット売り場の横にはトイレがあり、
男性用と女性用の表示が面白い。(写真参照)
しかし、辺りはなんともいえない悪臭が漂っていて、
ヘドロのような水が道の真ん中に流れ出していた。















おもろい入り口(笑)
トイレの入り口
















あんなところに荷物を積むのか〜
バスに荷物を積む人達




















しばらくすると、ソーリーが帰ってきた。
「チケット買えた?」
「もちろん! これからどうしようか?
 トムはどうしたい?」
「そろそろミネラル・ウォーターが
 無くなりそうなんだけど・・・」
「よし、じゃあ水を買って
 そのまま俺のアパートに来ないか?
 お茶をごちそうするよ!」
「いいの?」
「もちろんだよ、マリでは
 お茶で人をもてなす習慣があるんだ。
 ただ、ここからは遠いから
 タクシーを使いたいんだけど・・・」
「いいよ!」
「じゃあ行こう!」
近くにいたタクシーに声を掛け、
値段交渉をしてからソーリーは助手席に、
俺は後ろに乗った。
再び街の中を走る。何度見てもすごい!
全く想像以上だった。















10分くらい走ると、
ある掘っ立て小屋の前で車が止まった。
どうやらそこは飲み物屋さんのようだった。
木を適当に組み合わせてできた小屋に、
あらゆる飲み物が置いてあるが、
基本的に飲み物以外は何も置いてない。
小屋の軒下には俺の背丈くらいの冷蔵庫が置いてあり、
ソーリーはその中からペットボトルに入った
2リットル入りのミネラル・ウォーターを取り出して、
店の人と値段交渉をしてくれた。
待っていてくれたタクシーに再び乗り込み、
ソーリーのアパートに向かう。















タクシーはメイン道路から右に折れると、
舗装されていないデコボコ道を走り始めた。
辺りの景色は、最近大きな地震でも
起きた後なんじゃないかと思うくらい荒れていて、
廃墟のような建物が続くが、
決してそれは廃墟などではなく、
人々がちゃんとそこで生活を営んでいるようだ。
道端では子供たちが走り回って遊んでおり、
鮮やかな民族衣装をまとった女の人が集まっては
楽しげに話をしている。
俺の頭の中は完全に思考回路がショートし始めていた。
こんな廃屋のようなところに人々が住んでいて、
それが当たり前かのように人々がそこに暮らし、
大声で笑い、毎日を過ごしている。
「ソーリー、何度も聞くけど、
 この景色はソーリーにとっては
普通の景色なんだよね?!」
「ハハハ・・・、もちろんだよ!
 かなり驚いてるみたいだな!」
「うん、少々じゃないね・・・」
タクシーは、一軒の建物の前で止まった。




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