TRIP



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11月25日 金曜日 はれ   (その8)

「トム、そろそろホテルに戻ろうか?」
「うん。」
階段を降りるとドイツ語の先生とは家の前で別れた。
外は真っ暗で、木の電柱に付けられた白い街灯が
ポツリ ポツリと道を照らしていた。
電気はなんとかこの辺にも届いているようだ。
それでもかなり暗く、
黒人の肌と暗闇が同化していて
話し声が聞こえるまで
周辺に立っている人さえ見えなかった。
「とりあえず、大きな通りまで出よう!」
転ばないように気をつけながらデコボコ道を歩く。
人々は暗くなっても道端にたむろしていて、
大声で話し笑っている。
俺がまだ小さかった頃、夏の暑い日の夕方には、
住んでいたアパートの近くに流れていた
小川に掛かる橋の欄干に腰掛け、
やはり白い街灯の下で遅くまで
おかんや弟、近所の人たちと夕涼みをしながら
話し込んだものだった。
そんな景色がここバマコでは今でも見られる。
のどかだな〜・・・
そんな言葉がつい口を突いて出てしまう。















少し大きな通りに出ると、
うすぐら〜い電気をともしたお店に
人々が集まっている。
「あれ何?」
「レストランだよ、腹減ってるなら食べるか?」
あまりのカルチャー・ショックで気分は悪かったが、
お腹は空いていた。
いっちょうトライしてみるか〜!!!
通りに面した所に置いてあるイスに座り、
一番安い、豆を煮込んだ料理を注文した。
厨房はうすぐら〜い紫色の
蛍光灯が点いている部屋にあり、
外にはいくつかのテーブルとイスがある。
そのうちの、一台のテーブルの上に
テレビが置いてあり、
サッカーの試合が流されている。
「行け〜、そこじゃ〜、あ〜ぁ・・・」
たくさんの人が握りこぶし姿で
試合を見て興奮している。
たぶん家にはテレビ(電気)が無い人が
ここに来て食事をし、
テレビでサッカーの観戦をしてから
帰るのだろう。
マリではサッカーは人気のスポーツのようだ。














しばらくすると、店の奥からソーリーが
料理を運んできてくれた。
スプーンで豆を口に運ぶ。
うげぇ〜、こりゃ重い・・・
想像していた味に近かったが、
かなり胃にもたれる感じだった。
これだけで食べるのはしんどかったので
フランス・パンを追加注文した。
アフリカでフランス・パンというのは
意外な感じがするかもしれないけど、
むかしは西アフリカ一帯が
フランスの植民地だったので
今でもフランス・パンは
とてもポピュラーな食べ物だ。
パンに豆料理をなすりながら食べるのだが、
とても最後まで食べることはできなかった。
これから二週間、毎日こんな料理を
食べなくてはならないのかと思うと
胃だけではなく気分まで重くなった。
しかし、値段は驚くほど安く、
全部で500
CFA(約100円)も
しなかった。














レストランを出て、
再びスートラマ(グリーン・バス)に乗り込み
ホテルに向かった。
夜の街は真っ暗で、どこをどう走っているのか
さっぱり解らない。
バスを降りてもそこがどこなのか全然解らない。
いくつかの路地を曲がり、
どこかの家に入っていく。
ますます怪しいところに
連れて行かれているようだ。
どうしよう・・・  逃げ出そうか・・・















あれっ、ここはホテルじゃん!
暗くてさっぱり解らなかったけど、
いつの間にかホテル・ラフィアに着いていた。
いっぺんに気が抜けた。
俺、ちょっと心配しすぎなのかもしれない。















中庭に入っていくと、
数人がボンボン・ベッドに横になり
テレビを見ていた。
「お帰り、どうだった?」
ボクンさんが声を掛けてくれた。
「うん、チケットも買えて
 明日には出発できそうです。」
「そりゃ、良かった。
 22:00から近くのライヴ・ハウスで
 ライヴが見れるけどどうする?」
かなり疲れていたし、時差ボケもあるようだが、
ライヴはどうしても見たかった。
「是非行きたいな!」
「よし、じゃあ22:00頃
 ソーリーと行ってくるといい!」
「じゃあ、それまで少し休みます。」
ボクンさんと話しながら、
テレビに映し出されている映像を見るのだが、
これが恐ろしいくらいに面白くない番組で、
別段きれいというわけでもない女性が
民族衣装を着て、マリの音楽に合わせて
踊っている。
いや、踊っているというより、
手足をバタつかせていると言った方が
正しいかもしれない。
俺には番組その物より、
その番組を身動きひとつせず
夢中で見ているラフィアの人を眺めている方が
面白かった。















部屋に戻ると、まず蚊取り線香に火をつけ、
ベープマットにスイッチを入れる。
そして、早速“サヴァリン”を
飲むことにした。
抗マラリア薬も開発が進み
以前に比べればかなり副作用も
少なくなったと聞いているが、
やはりちょっと怖かった。
そして、ベッドに蚊帳も吊ってみた。
これでなんとか
暑い寝袋に包(くる)まらなくても
安心して眠れそうだ。
ふぅ〜、疲れた・・・
蚊帳の中で少し休んだけど、
すでに疲れはピークに達しており、
このまま寝てしまおうかとも思ったが、
せっかく本場アフリカのライヴを
見ずに眠ってしまうのはもったいない。















この辺りはかなり明るい
独立記念塔













22:00に再びソーリーと
ライヴ・ハウスに出かける。
ホテルを出ると、こんなにも遅い時間なのに
たくさんの人が外に出て話をしている。
街灯もあるにはあるが、
かなりの間隔でしか点いていないので、
真っ暗だといって過言ではない。
その暗闇に黒い肌の人が紛れているので、
なんとも言えず不気味だ。
22:00を過ぎているのに
子供が走り回って遊んでいる。
「サバ?(元気?)」
異国人の俺を見つけては
声を掛けていく。















大きな通りに出ると
ライトアップされた建物が見える。
「あれ何?」
「独立記念塔だよ。」
そこを過ぎ5分くらい歩くと
右に曲がったところに
鹿の門番がいる建物があり、
そこがライヴ・ハウスのようだ。
入り口に受付があり
入場料金が書いてある。
料金を払おうと思ったら、
受付の奴に入場は無料だと言われ、
お金を払うことなく中に入ることができた。
「受付の奴は俺の友達なんだが、
最近入場料を取るようになったことを、
あいつすっかり忘れてんだ!
ラッキーだったな!!!」
どんな演奏が聴けるのか楽しみだ!
ライヴハウスの入り口





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