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11月25日 金曜日 はれ   (その9)

適当な席を見つけて座る。
店内はかなり暗く、ステージと客席の間に
かなり間が空いている。
ソーリーが言うにはそのスペースで
踊りたくなった人が踊るのだそうだ。
しかし、ステージ上で演奏されている音楽は
とんでもなくヘタクソで、
中でもドラマーは、こんなんでええんか?!
と言いたくなるほどひどかった。
編成は、ドラム、ギター、キーボードの三人だが、
ドラムセットはボロボロ、
キーボードもカシオ・トーンを
50年くらい使った後の
中古品なんじゃないかと思わせるくらい
ひどいものだった。














俺はコーラ、ソーリーはビールを注文し、
ひどい音楽を聴きながらマリの話をした。
「今日一日どうだった?」
「う〜ん、日本とのあまりの違いに
 かなり戸惑ってるよ!」
「まぁ、初めてのマリだから仕方ないな!
 トムはドラマーなんだよな?」
「うん、まあね!」
「マリでは音楽をすることができるのは
“グリオ”と呼ばれる人だけで、
 誰でもやっていいわけじゃないんだ。」
「そうなん?」
「だから、学校の教科にも
 音楽の授業は無いんだよ。」
「なんで?」
「マリではグリオでもない人が歌うことは、
 恥ずかしいこととされている。
 グリオはまだ文字が無かった時代に、
 音楽で歴史を語る語り部だった。
 今では結婚式やお祭りのときなど、
 何か祝い事などがあるときに演奏する。
 でも、さっき話した、サリフ・ケイタは
 グリオ出身ではないのに音楽をやったので、
 両親とは気まずい関係なんだ。」
「へぇ〜、でも今はすごい人気だよね!」
「ああ、でも最初のうちはあまりいいようには
 思われてなかった。
 でも、彼の音楽を愛する情熱が伝わって
 今ではみんなに受け入れられたんだよ。」
アフリカの音楽事情はなかなか複雑そうだった。














「今日の昼にニジェール河を渡っただろ、
 覚えてるか?」
「うん、もちろん!」
「ニジェール河はマリの人にとって
 血であり肉であるんだ!」
「川が? なんだかインドに似てるな〜。
 インド人はガンジス河を神様だって
 言っていたよ。」
「マリでは血であり肉なんだ!」
「へ〜、おもしろいねぇ!
 ところで、ソーリーは結婚してるの?」
「いや、俺はまだ学生だ。
 彼女は今ヨーロッパの学校に留学しているんだ。
 年が明ける頃マリに帰ってくる予定なんだ。」
「ほ〜、そりゃ〜楽しみじゃね!
 アフリカには奥さんがたくさんいる家庭も
 あるって聞くけど・・・」
「うん、そういう家庭もあるよ。」
アフリカでは今でも一夫多妻制だと
聞いたことがあったが、本当なんだな〜!
話によると、奥さんがたくさんいればいるほど
養うのは大変なので、その人は経済的にも、
その他いろんな意味でも力があるとされているのだそうだ。
「ソーリーはたくさん奥さんが欲しい?」
「いや、俺はひとりで十分だ!」















ステージではさすがにヘタクソなドラマーは降ろされ、
入れ替わりにドレッド・ヘアーの人が入ってきたのだが、
この人のドラムはかっこよかった!
叩いているリズムはとてもリズミックで、
アフリカの特有のリズムのようだ。
そして、俺たちが日ごろ聞きなれている音楽は
4小節が一つの区切りになることが多く、
その区切りとして4小節目にフィル・イン
(音楽が次の展開にいきますよ、といった風に
 解りやすく派手なフレーズを叩くこと)を入れるが、
この人はその4小節目ではなく、1小節目に入る。
それが独特で、すごくいい感じだ!














ダンス・フロアーでは数人が踊り始めた。
こうでなくっちゃね!!!
キーボードもギターも先ほどとは打って
変わってご機嫌で弾いている。
こりゃ〜いい!!!
約30分ご機嫌なライヴを楽しんだ。
「毎週金曜日の夜にマリの伝統音楽を
 やっているライヴハウスが有るけど、
 行ってみるか?」
「う〜ん、すごく興味あるけど、
 今日はかなり疲れたから、来週にしようかな。
 明日は何時に出発だっけ?」
「ホテルを6:00には出発だ!
 時間通りにバス・センターに行っても
 バスは予定通りには出発しないと思うけどね!」
「それって、アフリカン・タイムってこと?」
「よく知ってるな〜!
 アフリカ人は時間の観念が無いんだ。ハハハ・・・」
時間の観念が無いのか〜、
それってすごいことだよな〜・・・・
「じゃあ明日も早いし、そろそろ帰ろうか。」
ソーリーにはこんなに遅くまで付き合ってもらったので、
俺が勘定を払うことにした。
1,200
CFA(約240円)だった。














店を出ると23:30を回っているというのに、
まだたくさんの人が外で話していた。
先ほど歩いた道なので、
来るときより緊張はしなかった。
ホテルに帰るとソーリーは中庭で寝るという。
「じゃあ、明日6:00出発だよ!」
「解った、今日はどうもありがとう。」
そういって部屋に戻った。
今夜ドミに泊まるのは俺ひとりのようだ。
玄関に鍵を掛け、
蚊取り線香に火をつけて日記を書いた。
とにかくクタクタに疲れていたので
書く気にならんが、それでも頑張って
なんとか最後まで書き上げた。ふ〜・・・
昨夜はほとんど寝てないから
今日はよく眠れるだろう。
しかし、それにしても何もかもが
日本とあまりに違いすぎて、
とにかくショックというしかない。
この国にいて俺、大丈夫なんだろうか???
とりあえず明日も頑張ります!
おやすみなさーい!















その日の日記の落書きより 

しかし、バリ暑い 眠れるんかの〜?
バマコにはまいった 
マラリアが怖いよー  




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