TRIP
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11月27日 日曜日 はれ (その1) 夕べは日記を書いた後すぐ眠った。 わりと熟睡したつもりだが、 夜中の2:00頃にトイレに行きたくなって目が覚めた。 この暗闇の中であのトイレに行くのはちょっと嫌だった。 懐中電灯を持って、恐る恐るトイレに向かう。 そういえば子供の頃は、 夜中に目が覚めてトイレに行きたくなると、 怖くておかん(母のこと)を起こして 連れて行ってもらってたな〜・・・ あの頃は古いアパートに住んでいて、 トイレはボットン便所だったから、 下から手が出てきそうな気がして恐ろしかったけど、 ほとんどが水洗になった日本では 一人で夜にトイレに行けない子なんて 今はもういないのかもしれないな〜・・・ アフリカのトイレだと、 やっぱり黒人の黒い手が出てくるのだろうか・・・ などとアホなことを考えながらも どうにか用を済ませ蚊帳に戻り再び眠ったけど、 今度は3:30頃に目が覚めて 眠れなくなってしまった。 でも、あまり気にならなかった。 夜空にはこれでもか、というくらい星が出ていて、 いつまででも眺めていられそうだった。 オリオン座や北斗七星が見える。 |
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アフリカの夜中はとてもノイジーだ。 ヤギや牛の声がう〜う〜、ぐ〜ぐ〜響き、 あちらこちらからニワトリの鳴き声が聞こえてくる。 昼間はあんなに暑くても、 夜の屋上はすごく涼しくて 寝袋に包まってないと寒いくらいだ。 4:00を回った頃、向かいのモスクから 大きな音でコーランが流れてきた。 こんなに早くからコーランを流して、 安眠妨害だと思うのは 異教徒の俺だけなのかと思ったが、 周りの人たちが起き上がって お祈りを始める気配は無い。 15分くらい流れると一旦途切れ、 10分くらい経つと再びコーランが流れる。 これじゃあ、寝てられないや・・・ しかし、コーランを聞きながら 横になっているのも、なかなか落ち着くもんだ。 |
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おぉ、トイレに行きたくなったぞ!(大の方です) 不規則な生活プラス緊張もあって、 アフリカに着いてからまだ一度も“大”はしてなかった。 しかし、あのトイレでねぇ〜・・・ よ〜し、何事も経験だ! なんとか頑張ってチャレンジしてみた。 まだ下痢はしていない。 これで体調も良くなっていくはずだ! トイレから戻ると向かい側の家の人たちが屋上に集まり、 お祈りをしていた。 少し白み始めた空に、 お祈りをしている人たちのシルエットが浮かび上がり、 なんとも神秘的な景色だった。 |
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結局まだ夜が明けていない6:00頃 起きあがることにした。 「おはよう!」 ソーリーもすでに起きていた。 「まだ日が出ていないから、 日の出を見に行こうか!」 「そりゃ〜いいアイデアだ!」 さっそく用意をして家を出る。 う〜、さむい! 夕べ歩いたところを歩く。 道端にはたくさんの人がまだ眠っている。 そして昨夜同様バニ川まで出てくると、 船がたくさん停まっている所に行った。 |
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![]() トンブクトゥー行きの船 |
そこには船頭さんたちなのか、 朝早いのにもかかわらずたくさんの人がいる。 ソーリーはその中のある男の人に声を掛けた。 「よしトム、川を遊覧しよう。」 日の出を見るだけかと思っていたのでちょっと驚いたけど、 上ってくる朝日を見ながらの遊覧も悪くない! 川岸から細い板を渡って小さな船に乗る。 横にある大きな船はトンブクトゥー行きだ。 その昔、とても重要だった“塩”は、 サハラ砂漠をラクダに載せて運び、 トンブクトゥーで“金”と交換され、 ニジェール川を船で下ってモプティまで運ばれていた。 今でも砂漠の中をトアレグ族の人々が ラクダを連れて行き来する姿が見られるという サハラ砂漠の端に位置するトンブクトゥーに、 俺も行ってみたいと思っていた。 しかし、船で行くには最低3日間、 運が悪いと途中で数日停泊することもあり、 1週間はみておかないといけない。 飛行機で行くという方法もあるが、 それなりに料金が掛かるし、 上手く予約が取れたとしても、 理由も無く飛行機が飛ばなくなることも ざらにあるという。 2週間くらいの旅じゃあ、 トンブクトゥーまで行くのは難しい。 |
![]() バニ川沿いの風景 |
![]() ソーリーのお兄さん |
少ずつ空が明るくなってきた。 オレンジ色に染まる空が美しい。 「トム、紹介するよ! 舟を漕いでいるのは俺のお兄さんなんだ。」 え〜、いったいソーリーは何人家族なんだろうか? 「おはようございます。」 英語で挨拶したけど、 お兄さんは英語が通じないみたいだ。 お兄さんは川を上流に向かって漕いでゆく。 最初のうちは長い棒で川底を突いて進み、 棒が届かないほど深くなると、 艪(ろ)を漕いで進む。 対岸に近づくと、 ワラで作られた家や土で作られた家々が並ぶ。 ボゾ族の村だ。 ソーリーの話によると、 ボゾの人々は川の魚を取って暮らしており、 自分たちが食べるだけでなく、 干したり、燻製(くんせい)にしたりして、 それを売って生活をしている。 ボゾの人たちの収穫はかなりのもので、 マリの経済の一部を支えるほどの量になるのだそうだ。 それもそのはずで、ここの村に住んでいるのは、 おじいさん、おばあさん、そして両親だけで、 子供たちは船の中で何ヶ月も生活をしながら魚を取る。 そのため船には屋根がついており、 その中で生活の全てのことが できるようになっているのだそうだ。 もちろん、台所もあるという。 そういえば、船の上で お米を磨いでいる人がいたな〜・・・ |
![]() ボゾ族の人が暮らす船 |
![]() 手を振ってくれた子供たち |
上流に船を進めると、川が二つに分かれている。 ここはバニ川とニジェール川の合流点だ。 上流からモプティに向かって、 たくさんの人を乗せた船が下ってくる。 モプティは、この辺りではかなり大きな町なので、 学校や仕事に行く為、 上流のいろんな地方の人々が集まってくるのだそうだ。 Uターンして川を下りながら川沿いの生活を眺める。 小さな子が遠くから手を振ってくれる。 こちらも振り返すと、一段と大きく振り返してくれる。 たくさんのカラス(腹がしろいのもいる)が ボゾの人の魚を泥棒しに飛んでくる。 川で洗濯する人もいれば、 ご飯の用意をしている人もいる。 川の向こうから太陽が昇り、 水面がオレンジ色に染まる。 本当に美しい風景だと思う。 |
![]() 川沿いの風景2 |
![]() 川沿いの風景3 |
船の上からボゾの人たちの素朴な生活を見ながら、 日本での生活とアフリカの人々の生活について考えていた。 最初マリに着いたとき、 あまりの日本との違いにショックを受け、 何もかもが信じられず、 この国はおかしいんじゃないだろうかと思っていたが、 実は全く逆で、マリの人達の暮らしの方が 素晴らしいんじゃないだろうかと思い始めていた。 ボゾの人たちは本当に自由に生きているようにみえる。 全てマイペースだし、のんびりだし、 何やってもアクナマタタだし・・・ 自分たちの好きなところに柱を立てて 好きなように家を作り、 自分たちの思うように生活しているように見える。 ここの人たちは生きるために生活しているけど、 俺らは生活するために生きているような感じがする。 あるいは、仕事をするために生きているように感じてしまう。 誰もが自由に生きることを望むけど、 自由に生きるということは実際には何も制約など無いから、 全て自分たちで決め、そのことに自分たちが ちゃんと責任を持たなくてはならない。 ボゾの人たちを見ていると、 自由に生きることは本当に大変なことだな〜、と思う。 だけど、この人たちは平気で自由に生活しているところが 素晴らしいと思った。 |
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