TRIP



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なんて景色なんだ〜!!!
屋上から見た景色 1





























11月27日 日曜日 はれ       (その5)

「トム、腹減ってないか?」
「少し。」
「じゃあ、屋上に来いよ!」
「OK!」
泥の階段を上がり屋上に出る。
うわ〜〜〜〜〜っ!!!
なんという景色なんだろう。
遥か向こうまで泥の家が建ち並び、
その向こうは広大なアフリカの大地が続く。
どこからともなく、
爽やかな風がシャワー後の身体に
心地よく吹いてくる。
その風に乗って
どこかに連れて行かれそうなくらい
身体が軽く感じた。
「よし、食べよう。」
ソーリーが運んできてくれた料理は、
フラニ族の伝統料理“チョンチョン”
という食べ物だった。
魚と野菜をトマト・ソースで煮込んだようなものを、
ご飯につけて食べる。
ジャリッ!
ご飯の中に砂が混ざっているらしく、
噛むたびにジャリジャリと音がするのだが、
構わず食べた。
味はピリッとスパイスが効いた感じが
カレーによく似ている。
魚が骨ごと煮込んであるので
食べるのに苦労するけど、
魚がとてもおいしい!
「この魚は今朝見たボゾ族が取った魚なんだよ。」
その話を聞いて、一段とおいしく感じた。

マリの料理は一口目はおいしいのだけど、
後半になってくるとお腹にズシンと重くなって
食べられなくなってしまうのだが、
今日の料理は最後までおいしく食べれた。










食後は、今日はお茶ではなく
コーヒーをもらった。
マリでは、お店でも家でも
ネスカフェが主流のようで、
インスタントの粉末を
プラスチックのコップに入れて、お湯で溶く。
砂糖の量は自分で調整できるのだが、
アフリカ流に激甘状態にしてもらった。
「俺もシャワーしてくるから、
 ここでゆっくりしててね!」
「うん、ありがとう。」
ソーリーが降りていくと屋上は俺ひとり、
独占状態になった。
泥の家が連なるその向こう側に、
オレンジ色の太陽がゆっくりと沈んでゆく。
美しい・・・ 美しすぎる・・・
町には車は入ることができないので、
すごく静かだ。
どこかの家から西アフリカの木琴、
“バラフォン”と歌声が響いている。
実際に演奏しているわけではなく
ラジオかなにかのようだが、
この風景にはピッタリだ。
向かいの家にはヤギがいてメェメェと鳴いており、
その家の屋上には小さな男の子の兄弟が
こっちを見て手を振っている。
こちらも振り返すと、
いつまでもその子たちは手を振ってくれる。
“こんな景色ってありえる?”
そんな言葉が、何度も口を突いて出てしまう。
アフリカに来てよかった・・・
心からそう思える瞬間だった。










カレーみたいな味なんだよ!
アフリカ料理 “チョンチョン”



























こんな景色ってありえる?
屋上から見た景色 









しばらくすると、下からソーリーと小さな男の子が
ご飯を運んできた。
こちらが本当の晩御飯のようだ。
「トムも食べろよ!」
先ほど食べたばかりではあったが、
まだ少しなら食べれる。
差し出された小さな器の中で手を洗い、
フランス・パンを千切ってもらって、
それを先ほどのチョンチョンに浸けて食べる。
しかし、先ほどはご飯だったから
チョンチョンと呼んでいたけど、
パンになると“ワ・スンリー”という
名前になるのだそうだ。
少ししか食べれなかったけど、
フランス・パンはほんまにうまいわ〜!









「オスマン(小さな男の子の名前)、
 トムは日本から来たんだ。
 日本の首都はどこだ?」
「う〜ん、この前覚えたんだけど〜・・・
 どこだったっけ?」
「ハハハ、トムに聞いてみろよ!」
まだ5歳くらいの子だけど、英語が少し喋れる。
「日本の首都はトーキョーだよ。」
「そうだった、トーキョートーキョー!
 ソーリー、トーキョーだよ!」
「そうだな、しっかり覚えたら、
 ここを片付けてくれ。」
後片付けは子供たちの仕事だ。
「あいつ、あれでトーキョーのことを
 二度と忘れないと思うよ!」
「あの子もソーリーの兄弟になるの?」
「いや、オスマンは甥(おい)になるんだ。
 コーヒー飲むか?」
「うん、もらうよ。」
日もすっかり暮れて、
あたりは暗くなり始めていた。
これくらいの時間になると、
昼の暑さはうそのように涼しくなる。










チョンチョンがおいしいよ!
屋上にて



















きれいだな〜・・・
ジェンネの夕暮れ
「ねぇ、ソーリー、聞きたいことがあるんだけど・・・」
アフリカに着いてからいろんな人々と接し、
いろんな人たちを見ているうちに、
ある疑問が湧いていた。
それをどうしてもソーリーに
質問してみたくなった。
「日本人はマリの人よりも、
 いろんなものを持っている。
 例えば、自動車だったり、テレビだったり、
 ビデオだったり、エアコンだったり・・・
 数え切れないくらい
 いろんなものを持っていると思うんだけど、
 日本人の多くは、
 自分たちは幸せではないと思っている。
 マリの人は自分たちの暮らしのことを
 どう思っているんだろう?」
「マリの人々はみんな、
 自分たちは幸せだと思っている。
 アメリカやヨーロッパの多くの人々は、
 アフリカ人は貧しい人々だと思っているみたいだけど、
 それは間違いだ!
 アフリカは素晴らしい文化を持っている!
 素晴らしい家族を持っている!
 だから、アフリカ人は貧しくなんてないんだ!」
俺の思っていた通りの答えだった。
「じゃあ、なぜ日本人は
 自分たちが幸せだと思ってないんだろう?」
「アフリカ人はどんな時にも、
 家族の近くに住んでいる。
 日本人はどうなんだ?」
「ソーリーの家族のように
 両親はジェンネに住んでいて、
 ソーリーは仕事や学校のために
 バマコに住んでいるように、
 仕事のために離れて暮らすことはあるよ。」
「俺は確かにジェンネには住んでないけど、
 バマコの俺の部屋の周りには
 兄弟姉妹が住んでいる。
 もし俺が元気がなければ
『どうした?』と、声を掛けてくれる。
 日本人のようにたった一人で
 住むってことはないんだ。
 フラニ族の考え方の一つに、
『いろんなことを学ぶ前に、まず自分を知れ』
 ということわざがあって、水泳やサーフィンや、
 いろんなやりたいことをやる前に、
 自分の家の歴史や文化、
両親の歴史を知るべきなんだ。
 両親、家族がいなければ君はいない。
 “Who are you?”(あなたは誰ですか?)
 という問いに対して名前ではなく、
 自分は何者なのかと言うことを知ることが重要だ。
 バンバラ族の考えに
 “耳は学校に行かなくてはならない”
 というものがあって、常にいろんなことを聞いて
 学ばなくてはいけない。
 そして、こうしてトムと話してることは、
 まさにそのことなんだ。
 俺は日本のことを知らない。
 だけど、トムと話すことによって、
 日本は四つの島からできていることを学んだ。
 今こうしてトムと話してるけど、
 それはトムの両親や家族、トムの国の文化と話し、
 学んでいるんだ。」
「それに、ソーリーはたくさんの家族、友達がいる。
 全く知らない人でも、
 『サヴァ?』と言って握手をして、
 すぐ友達になる。
 マリの人は全ての人が友達であり、
 全ての人が家族のように見える。」
「その通りだよ、俺たちはみんな家族なんだ!!!」
このアフリカの地で、言葉の疎通もあまりできないのに、
まさかこんな話をするとは思っても見なかった。
太陽はとっくに沈み、空には星が輝き始めた。
こんな素晴らしい景色の中で、
こんな素晴らしい会話ができたことが
うれしくてたまらなかった。

隣の家
なんて優雅なんだろう・・・
屋上にて 2




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