TRIP



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11月27日 日曜日 はれ       (その7)

バーといっても、ちょっとした広場に
プラスチック製のテーブルとイスが並べてあるだけで、
名前を“バー・ババ”という。
店には電気はなく、横にある宿泊施設と思われる
建物からの明かりが漏れてくるので、少しだけ明るい。
あとは星の明かりで十分だ。
「ボンソワール!(こんばんは)」
空いている席を探していると、
暗闇の中から声がかかった。
目を凝らしてよく見てみると、
昼に乗ったタクシー・ブルースで一緒だった
フランス人の男の人が金髪の女性と一緒に来ていた。
そのテーブルに一緒に座ることになり、さっそく注文だ。
まだ、アフリカに着いてから一度もビールを飲んでいない。
だいぶアフリカにも慣れてきたので、
そろそろ飲んでもええじゃろ〜て〜!















まろやかでコクがあるんだよ!
マリのビールCasteL BeeR







地元のビールを注文すると、“CasteL BeeR”
というラベルが貼られたビールが出てきた。
「日本でビール飲むときは、なんて言うんだ?」
「“カンパイ”だよ。」
「じゃあ日本式で、カンパ〜イ!」
コップなど出てこないのでビンのまま乾杯し、ラッパのみだ。
喉が渇いていたのでグビグビ飲む。
 ク〜ッ、うまい!!!
味は日本のものより甘く感じる。
コクがあるっていう感じかな!














ソーリーはフランス人と話をしているので、
俺は星空を眺めながらビールを飲んでいた。
 な〜んてきれいな星空なんだろう!
星が降ってくるようだとは、このことだろうか。
「ず〜っとマリを観光してらっしゃるのですか?」
ぼんやりと空を眺めていたので
聞き流してしまいそうだったその言葉が
日本語だったことに気づいてハッとした。
先ほどの金髪女性が流暢な日本語で話し掛けている。
「日本語が話せるんですか?」
「日本に2年くらい留学していたので、少し話せます。」
「少しどころか、とてもお上手ですよ! 
 ところで、なんて質問されたんでしたっけ?」
「ハハハ・・・、マリをずっと旅行してるんですか?」
「そうです、とは言ってもまだ3日目なんですけどね。」
その人は俺と逆のルートで、先にドゴン族の村を訪ね、
その後このジェンネに来て2週間くらい滞在するのだそうだ。
「隣の男性と旅してらっしゃるのですか?」
「いいえ、ひとりです。ひとり旅は気楽でいいけど、
 大変なことも多いですね。」
そりゃそうじゃろ〜て! 
男でも大変なんだから、女性ならなおさらだろうと思う。
「どちらから来られたのですか?」
「ドイツです。」
男の人とフランス語で話していたので
フランス人だとばかり思っていたら、
実際にはドイツ人なのだそうだ。
「マリにあと何日いるのですか?」
「僕は、あと1週間くらいいて、
 その後にセネガルに寄って日本に帰ります。」
「私は、セネガルにも行きましたよ。」
セネガルの情報はあまり持っていなかったので、
お勧めのホテルや観光スポットなど
いろいろ教えてもらった。















このテーブルには、僕たちの後に
現地人が相席で来ていたので、
マリ人、フランス人、ドイツ人、日本人の
四ヶ国の人が座っており、
しかも会話はフランス語、バンバラ語、英語、日本語が
飛び交っている。なんとも国際的だ!
それにしても、日本語を話したのは三日ぶりだった。
ビールは2,000CFA
(1本 1,000CFA×2 約400円)だった。















再び真っ暗な道に出る。
「2,3軒親戚の家に
 挨拶をしにいきたいんだけど、いいか?」
「もちろん。」
ソーリーに続いて泥の家に入っていく。
見ず知らずの異国人が入っていっても、
「サヴァ? ビヤン?(調子はどう? 元気?)」と、
温かく迎えてくれる。
そうやって3軒の家を訪ねたけど、
どの家の人も本当に温かく迎えてくれた。
本当にマリの家族の一員に
してもらえたような気分だった。
帰りがけにソーリーが
タバコを買いたいと言うのでついて行った。
街灯も何もない真っ暗な細い路地の奥に
くら〜い電気を点けた所がある。
そこでソーリーはタバコを3本買った。
マリではタバコはバラ売りされているようだ。
それにしても、こんなところに店があっても、
原住民じゃないと絶対わからないと思う。















そこから数メートル歩くと家だった。
知らないあいだにジェンネの町を
グルッと大きく一周したようだ。
一人で散歩に出たら、きっと帰って来れないと思う。
部屋に戻るとロウソクに火を灯し、
蚊取り線香を点ける。
時計を見ると22:00を回ったところだった。
ロウソクの灯りの下で日記を書く。
火が揺れるので書きにくいけど、
アフリカで電気もガスも水道も無いようなところで、
ロウソクを灯して夜を過ごしてみたいと思っていたので、
なんだかこれも楽しく感じる。
考えてみればここまで大変な旅ではあったけど、
アフリカでやってみたいと思っていたことは
全て叶っている。
なんて俺はラッキーな奴なんだろう!
自分の幸運が少し恐ろしいくらいだった。















今日も一日いろんなことがあり過ぎて、
日記を書くのに2時間半も掛かってしまった。
あ〜、手がだるい。
俺の部屋の廊下で横になっているソーリーは
すでに眠ってしまったみたいだ。
寝袋にくるまり、
先ほどの太鼓のセッションのことを思い出していた。
ほんとに楽しかったな〜、そんなことを思っているうちに、
いつの間にか眠っていた。















〈その日の日記の落書きより〉

 今日も一日すごかった。

 Im in Africa.
 今日は千秋も上京してるはずだな〜
 フライト、大丈夫だったかな〜
 コンテスト頑張れよ〜
 俺もがんばんべ〜




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