TRIP



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遥か彼方までまっすぐ・・・
どこまでもまっすぐな道











11月29日 火曜日 はれ       (その2)

車はどこまでもまっすぐな道を突き進む。
遥か向こうに岩山がそびえ立っている以外は
何もない広大な大地を走り、
しばらくすると小さな村を通る。
ある村で車はスピードを落としたかと思うと、
車の天井から人が飛び降りた。
なんと、8人乗りのこの車には車内に16人、
天井にふたりの計18人もの人が
乗っていたことになる。
まったく、すごいことじゃ〜・・・













約1時間、底々快適に走っていた
タクシーブルースだったが、
急にスピードが落ち始め、
運転手がガチャガチャとギアを入れ直しても
うまくいかない。
車はみるみる速度を落とし、
とうとう道端に止まってしまった。
運転手は車を降りてエンジンルームを開け、
ガチャガチャといじっては少し走り、また止まる。
そんなことを繰り返すうちに、
とうとう全く動かなくなってしまった。
まあ、この車じゃあ無理もない。
バックミラーはひとつもないし、
ワイパーも無けりゃ〜ドアの内装も無い。
快適と言われるものは何も無い。
しかも、こんなオンボロ車に
18人もの人が乗ってたんだから、
そりゃ〜壊れもするってもんよ!













「トム、降りて車を押すぞ!」
女性と子供は車に乗ったまま
男だけで車を押すのだが、
運転手を入れても男は4人しかいない。
「ヨイショ、ヨイショ!!!」
押し掛けをしようと思っているらしく、
勢いがつくまで押しては
運転手が何かガチャガチャと操作するが、
どうもうまくいかない。
「ヨイショ、ヨイショ!!!」
頑張って押してはみるものの
一向にエンジンは掛からない。
ふぅ〜、もうダメじゃ〜・・・
ギブアップ!
道の端まで車を押して止めると、
運転手はボンネットを開け
エンジンルームを見ながら
本格的に直し始めた。
あ〜ぁ・・・













あ〜ぁ、壊れちゃった・・・
壊れてしまったタクシーブルース
















車に乗っていたマダムや子供たちも降りて、
木陰に座って直るのを待つことにしたようなので、
俺も一緒に待つことにした。
すると、ソーリーが急に厳しい口調で言った。
「トム、お前が今朝もたもたしていたせいで、
 その間にモプティに向けて
 バスが2台行ってしまったんだ!
 仕方なくこの車に乗ったために
 こんなことになってしまった。
 15分の遅れが大幅に遅くなって
 しまったじゃないか。」
ソーリーの意外な口調と言葉に
たじろいでしまった。
「ご、ごめん・・・」
とりあえず謝ってはみたものの、
なんともガッカリした気分だった。













木陰で日記を書こうと日記帳を開いてみても、
ソーリーの言ったことが気になって
書く気になれない。
確かに俺は時間に遅れたのかもしれないけど、
別に俺はタクシーブルースが壊れて
動けなくなったことで
イライラしているわけでもなければ、
嫌な気分になっているわけでもない。
むしろ、面白がってるんだ!
だって、とってもアフリカ的じゃないか?!
乗っていた車が動かなくなって、
途方もなく広がる大地の道端に車を止めて、
木陰で直るのを待ちながら日記を書き、
景色を眺めてはボーっとする・・・
急ぎの旅でもないわけだし・・・













そんなことを考えながら約30分待つと、
運転手が出発するぞ〜! っと声を上げた。
いつまでもモヤモヤした気持ちが続いていたので、
このまんまでは楽しい旅ができない。
車に乗る前にソーリーに思っていることを
素直に言ってみることにした。
「ソーリーは、車が故障してしまったことで
 時間を損したように言うけど、
 俺は損をしたなんて思っていない。
 俺の旅はこんなもんだと思っているし、
 これこそ俺の旅なんだと思っている。
 それに俺はアフリカン・タイムも
 今は持っているつもりだよ!
 だから、遅くなったからって
 そんな風に言わないでくれ!」
「そうか、ありがとう!
 俺が今までガイドしてきた日本人は、
 こういうシチュエーションに出くわすと、
 時間がもったいない!
 時間を損したじゃないか! って怒るんだ。
 だからトムがそう言ってくれるのは、
 すごくうれしいよ! ありがとう、トム!」
正直に自分の思っていることを
ソーリーに話して良かった。
お互いに解り合えたと思った。
ソーリーは、俺が悪いんだとか思って
あんな風に言った訳じゃなく、
日本人の合理主義的な考え方をよく知っていて、
それであんな風に言ったんだ。
お互い解り合えたことで
少しほのぼのとした気持ちになれたと同時に、
日本人の心の狭さに少し哀しくなってしまった。
合理的に段取り良く旅がしたいのなら、
最初からアフリカに来るな!!!
そう思った。













車は本調子ではないようだがなんとか走り、
ジェンネに行く途中、
休憩するために止まったバンバラ族の
村のマーケットに着いた。
村の入り口あたりに車の修理場があり、
運転手は店の人と何か話している。
どうやら本格的に修理しなければならないようだ。
俺も、乗っているマダム達も
みんな車から降りると、
運転手はタイヤを外し、
シャシーを外してゴチャゴチャやっている姿を
木陰からみんなで見守る。
ここは修理屋ではなく修理場屋なのか、
店の修理士が直す訳ではなく
自分で修理しなけりゃならないようだ。
乗っていたマダムたちは、
乗っていた車が壊れて
足止めを食ったからといって
誰も文句など言わないのは
日常茶飯事のことなのだろうか?













そんなことを思っていると、
目の前にコーラが差し出された。
「サンキュー!」
振り向くと、ソーリーがよく冷えた
コーラを買ってきてくれていた。
ゴクリッ!と飲み込むと、
本当においしい。
そして、ソーリーは俺がミネラルウォーターを
持っていないことに気がつくと、
修理中の車の天井から持ってきてくれ、
これで後半の車の旅は快適になりそうだ!
40分くらいはそこで日記を書いたり、
一緒に乗っていた子供と遊んだりしていた。
「○▼×※◇!」
運転手が大きな声で叫んでいる。
やっと出発することができるらしい。
再びギュウギュウ詰めの車内に乗り込むのだが、
人々が密着して乗り込むこのタクシーブルースに
ある種の心地よさを感じていた。













ブル〜ン!!!
運転手がキーを回すと、
轟音とともにエンジンが掛かり、
今度は勢いよく走り始めた!
「インシャッル・アッラー!!!」
イスラム教の“神の許しが出た!”
というその言葉をソーリーが発すると、
隣に座っていたマダムが大声で笑った!
マダムはソーリーが
冗談で言ったように受け取ったようだが、
俺が思うに、
ソーリーはマジで言ったんじゃないかと思う。




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