TRIP



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11月29日 火曜日 はれ       (その5)

「トム、今日のうちにドゴン村の
 カニコンボリまで行こうと思ったけど、
 そうすると、ここからカニコンボリまでの素晴らしい景色を
 お前に見せてやることができなくなってしまう。
 だから、今日はバンディアガラの山の上にある
 ジギボンボというところに泊まることにしよう。」
「うん、ソーリーに任せるよ!」
車は舗装されていない赤土の道を走る。
すごい砂煙で前が見えんで〜!
空には信じられないくらいたくさんの星が輝いている。
そして、時々ヘッドライトに照らし出された
小さな土の家が見える。
この辺りはすでにドゴンの村なのだそうだ。
まるで民族博物館の中を走っているようだ。
約15分走ると、今日宿泊するジギボンボの
カンプメントに到着した。
カンプメントとは簡易宿泊所のことだ。
朝ジェンネを出発して約13時間かかったことになる。
やれやれ・・・














「メルシー(ありがとう)」
運転手にお礼を言って車を降りると、
ここからがカンプメントだということを示す
泥の囲いに看板のようなものが掛けてあり、
薄ぐら〜い電気がついている以外は全く明かりが無い。
泥の囲いの中に入っていくと、
つのだ☆ひろに似たがっしりした人がいた。
「おお〜、ソーリーじゃないか〜! 元気か〜?」
と言っているかどうかは解らないが、
そんな会話が交わされ中に通された。














中に通されたといっても建物の中に入るわけではなく、
ここは宿泊客が眠るベッドが置いてあるところと、
いくつかの倉庫のようなものがあるところ以外は屋根が無い。
ようするに外と中を区切るための土壁があるだけなのだ。
ボンボンベッドのようなイス
(リクライニングのイス)に座って、
暗闇の中で話をする。
アフリカ人は目が良いというのも解る。
そういえば、今までメガネを掛けている人を
ほとんど見ていないのは、みんな目がいいからなのか、
それともメガネなんてマリには無いのか・・・?














「オーナーが、何か飲むかって言ってるぞ。」
「じゃあ、コーラをもらおうかな。」
冷たいコーラを飲みながら、星空を眺める。
ほんとうにスッゲー星の数だ。
「ご飯はどうするかって聞いてるけど、腹減ってるか?」
「そうだな〜、肉が食べたいな。」
「肉は今鶏肉しかないけどそれでいいか?」
「うん、もちろん!」
「スパゲティーもつくらしいぞ〜!」
「いいね〜!」
と答えたものの、
アフリカでスパゲティーってなんか不思議な感じだ。














一息ついてイスの上で懐中電灯を使って日記を書く。
どこに行ってもそうなのだが、
日記を書いていると日本語はかなり珍しいらしく、
人々が覗き込んでくる。
ここでも子供がニコニコしながら
日記帳を覗き込んでくるので、
折鶴を作ってあげた。
結構喜んでる。














その時、食事の用意をするといって席を立ったオーナーが、
向こうから生きたニワトリの足を掴んでやって来た。
コケーッココ、コケーッコ・・・
鳥は苦しそうに鳴いている。
それって俺の注文したチキン?
おいおい、そりゃどーなん・・・

オーナーは、奥の倉庫のような所に入っていくと、
ニワトリの鳴き声は一段と騒がしくなったかと思うと、
急に静かになった。
うわぁ〜・・・
今頃倉庫の中では、首の無いニワトリが
走り回っていたりなんかして・・・
想像すると恐ろしい。














日本のスーパー等で売られている肉は
鶏肉に限らず、牛でも豚でも
買い易いように適当な大きさに切られて
ラップで包装されているので、
それを見て“恐ろしい”とか“かわいそう”
などと思うことはまず無い。
しかし、よく考えてみると、
いや、よく考えてみるまでもなく、
ラップされている肉の数だけの鳥や牛や豚が
毎日のように殺されている。
つい先ほどまでブーブーと鳴きながら走り回っていた、
モーって鳴き、まばたきしながら
ノッソノッソと歩いていた
豚や牛や鳥や魚、その他いろんな生き物の命を頂いて、
野菜等の大地の恵を頂いて、
我々が美味しく食事をし
毎日を暮らしているということを
忘れてはいけないと思う。
















夕食ができるまで時間がありそうだったので、
シャワーを浴びることにした。
シャワー室ももちろん屋根など無く、
土壁で囲まれた吹き抜けだ。
う〜ん、これぞアフリカ!
懐中電灯をうまく設置して
その明かりを頼りにシャワーを浴びる。
しかし、ここの人達は、
真っ暗闇の中でシャワーを浴びるんだろうか?
それとも、暗くなってしまわないうちに
浴びるのかもしれない。
バケツに水が汲んであるが、水の量が少ない。
こりゃ気合入れなきゃ!
今日もいつもの泡だらけの要領で洗おうと思い、
シャンプーを入れている容器を出してみると、
暑さのせいで中に入っていた空気が膨張して
容器の蓋が爆発して外れていた。
ありゃ〜!
まあ、そんなことにもくじけず、
全身泡だらけにして流したのだが、
リンスを洗い流す水が少し足りない。
アクナマタタ〜(気にしない!)














どういう状況であれ、シャワーの後は気持ちいい。
それにしても、もう3日くらい鏡を見てないけど、
俺どんな顔になってんだろ?
ヒゲも伸びてんだろうな〜・・・
ボンボンベッドのところに戻りしばらくすると、
オーナーが食事を持ってきてくれた。
う〜ん、いい匂いがしてるぞ〜!
見たところチキンスパゲティー・トマトソース煮込み
ってところかな!
少しかわいそうだとは思うが、
鳥からいただいてみる。
うっ、うまい!!!
肉がコリコリ締まっていて、バリうまい!
ニワトリをさばいてすぐに食べた日本人なんて、
そんなにたくさんはいないんじゃないだろうか?
かわいそうだとか言いながら、
すっかり全部平らげてしまった。
満腹!














 食後はビールをもらって、
満天の星空の下で乾杯だ!
こんな豪華な乾杯ってありえる?!
ほろ酔い気分でボンボンベッドに寝そべり、星を眺める。
「ソーリー、本当にたくさんの星だね!」
「なぁ〜!俺の言った通り、
 バマコやモプティよりたくさんだろ!
 よく見てると、時々流れ星が流れるんだよ。」
「この空の星ぜ〜〜〜んぶ俺のもの〜!」
「ええ?少しくらい分けてくれよ〜!」
「う〜ん、じゃあしょうがない、
 ひとつだけ分けてあげるよ。
 あっ、流れ星だ!!!
 今の星がソーリーの星じゃったけ〜、
 ソーリーのはもう無くなったよ!」
「え〜、そんな〜・・・」
そんな話をしながらふたりでいつまでも星を眺めた。
今日もゆっくり眠れるといいな〜・・・
明日は6時に起きて、朝日を見るんだ〜!
いいだろ〜!!!
そろそろ歯を磨いて寝るとするかな。 

                     22:25








(その日の日記の落書きより)
千秋は東京最後の日だな〜
元気でやってるか〜?
おれはげんきだよ〜!!!




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