TRIP



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やっと上がってきたぜ!
建ち並ぶグレネリ











11月30日 水曜日 はれ       (その3)

四つん這いになりながらなんとか登ってくると、
たくさん建ち並ぶグレネリに圧倒されてしまった。
料理をするために熾(おこ)した炭の跡が
そのまま残っている。
室内でミレッツビールを作った跡もある。
狩人の家なのか、ハンティングしたサルやヤギの
骸骨が壁に貼り付けてある。
ついこの前までここで人々が暮らしていた様子が
そのまま残されていた。
そして、壁に太陽のようなマークと
様々な模様の描かれたところがある。
「ここはオゴンの家だ。」













ソーリーがドゴン族のスピリッツについて
話してくれたところによると、
ドゴン族の村はひとつではなく、
朝休憩したカニコンボリ村、
今来ているテリ村といったように、
このエリアには多くの村が点在している。
そして、その村の最年長者が
“オゴン”と呼ばれるのだそうだ。
オゴンは様々な秘密の儀礼を行っていて
呪術師のような役割を果たし
(ソーリーは“スピリチュアル・チーフと呼んでいた)、
出産や雨乞い、様々な相談事をしに来る村の人達の
供え物で暮らしている。
そして、オゴンは決して身体を洗わない。
ヘビが彼の身体を拭ってくれ、
そのことによってヘビのパワーがオゴンに移るのだと言う。
ドゴン族の人にとってヘビは特別な生き物で、
ドゴンの人が死ぬとヘビに生まれ変わり
(正確には死ぬのではなく、ヘビになるのだそうだ)
村を守ってくれるのだそうだ。
「オゴンは今、不在なんだ。」
最近オゴンは亡くなって、というかヘビになって
次のオゴンが決まるまで不在なのだそうだ。
「トム、オゴンの家の前で写真を撮ってくれ!」
ひょっとしたら、オゴンが不在のときでなければ
この辺をウロウロすることも出来ないのかもしれない。














オゴン様の家だ!
オゴンの家

























こんな風景初めてだ!
へばりつくようなテリの村











たくさん建ち並ぶグレネリの合間に
テリの村を見下ろせる所があったので、
そこに腰を下ろした。
土色のテリの村は地面にへばりつくようにあり、
なんとも独特だ。
「ソーリー、何度も聞くけど、この景色は
 ソーリーにとって普通の景色なんだよね?」
「ああ、そうだな! でも、トムにとっては
 かなり奇妙に見えるんだろうな。
 俺だって日本に行けば、
 同じ質問をトムにすると思うよ。」
「同じ人間なのに、
 こうも違う文化を持つなんて驚きだよね。」
「まったくだ!」














少し休憩してから山を降り始めると、
どこかから太鼓を叩くような音が聞こえてくる。
音のするほうに向かうと、数人の女性が杵をついていた。
マリに着いて今まで、いたるところで
杵をついている女性の姿を見かけたが、
いったい何をついているのだろうと思っていた。
近づいて臼の中を見させてもらうと、
中にはトウモロコシの実を
ものすごく小さくしたようなもの
(たぶん粟を乾燥させたものだと思う)が
数十本入っていて、杵で打ちつけると
芯の部分から実がはずれていく。
俺もやってみたくなり、女の人にお願いすると
OKしてくれた。














ウエ〜ッ!
ハンターの家













ヨイショ、ヨイショ!
杵つきの風景





















最初ひとりの女の人が打ち始めたので、
杵を借りてその人の裏のリズム
(その人が杵を持ち上げているとき)を狙って打つので、
1・2・1・2といったように、二拍子のリズムになる。
そこにもうひとり女性が加わったので、
1・2・3・1・2・3の三拍子のリズムになる。
そして、もう一人女性が加わったことにより
1・2・3・4・1・2・3・4の四拍子のリズムになる。
うわ〜、だんだんテンポが速くなってきたぞ〜!!!
俺は1のタイミングで自分が中心に
叩いているつもりなのだが、
他の人は他の人で自分が1のリズムを感じて
叩いているのだろうか?
もしそうだとすれば、リズムに1とか2とか
そういったものなんてないのかもしれない。
それとも、そんなこと何にも考えずに
叩いているのだろうか?
などと、少々マニアックなことを考えてしまった。
女の人が俺を見て笑っている。
きっと、いつもは面倒臭いこの作業も、
異国人とやれば少しは楽しめたに違いない。
もちろん俺は最高に楽しかった。
「とてもいいリズムしてるわね!」
そう言ってもらいニコニコ顔で休憩所に戻った。














ボンボンベッドのところに戻り、
しばらく日記を書いていると
3歳くらいの素っ裸の男の子が鼻水を垂らしてやってきた。
俺を見つけて、うれしそうにしきりになんか言っとるが
何を言っとるんか、サッパリ解らん。
すると、その子は突然しゃがみこんで、
ウンチをし始めた。
ヒャー!!!
家の庭でウンチし始めるその行為にも驚いたが、
それよりも、その子のウンチの色が
バナナの皮のように黄色いではないか!
黒い肌の男の子から黄色い色のウンチが出る、
これにはかなり衝撃を受けた。
食べ物が違うとこんなにも色が違うものなんだな〜・・・
家の人には別段珍しいことでもないのか、
それとも気付いていないだけのことなのか
ウンチはそのまましばらく放置されたままになっていた。













いち、に、さん、し、 いち、に、さん、し、・・・
杵つきの風景2










圧巻!
建ち並ぶグレネリ2





















そんなウンチ事件のすぐ後に、お昼ご飯となった。
今日の昼ご飯は、チキン・ライスならぬ、
フィッシュ・ライスだ!
チキンの代わりに、魚と
“ニャム”という芋が入っている以外は、
日本で食べるケチャップ味の赤いご飯と
まったく同じと言っていいほどよく似ている。
これなら日本に帰って、
『マリの伝統料理を習ってきた。』
とか言って、チキンの代わりに白身の魚をほぐして入れ、
ニャムの代わりにサツマイモか何かを湯がいて入れて、
千秋に作ってやれそうだ。
料理の名前は“ドゴン”にしよう!
ニヒヒヒ・・・
(帰国後、本当に作りました)
久々に日本食に似たものが出てきたからか、
山盛り食べてしまった。
デザートはマンゴ。
筋が多くて食べにくかったけど、甘くて美味しい。
そして食後には甘い甘いミルク・コーヒー。
日本ではいつもブラックで飲むが、
今ではすっかりこの甘いコーヒーにも慣れて、
甘くないと物足りない。
疲れているので、甘いものが欲しくなるのかもしれない。














ボンボンベッドに寝そべって飲んでいると、
あるおばさんが勝手に敷地内に入ってきて、
水瓶からコップに水をとって飲み始めた。
「ソーリー、あの人勝手に水飲んでるよ!」
「あぁ、いいんだよ、別に水だけでなく、
 ご飯だって食べていって構わないんだ。」
「どういうこと?」
「どこの家にでも入っていけば、家族だけでなく
 まったく見ず知らずの人でも、
 『ようこそいらっしゃいました!』と言って
 ご馳走してくれる。
 例えばトムが俺とはぐれてしまっても、
 どこかの家に入っていけば、
 ようこそと言って迎えてくれ、
 ご飯を食べさせてもらい、泊まらせてもらえるよ。」
「えー、ほんとに?」
「ああ、本当だとも!」
とても信じられなかった。日本では考えられない。
最近では訪ねてきた人が知人であっても、
家に泊まって帰るってことはあまり無い。
訪ねてきた人も、よほどなことがない限り
遠慮して帰ってしまう。
それに、最近では日本も物騒だから
見ず知らずの人が来たりしたら、
扉さえ開けず、門前払いにすることが多い。

やはり、アフリカの人はみ〜んな家族だって
思ってるんだろうな〜・・・
今の話を何度も胸の奥で反芻しているうちに、
あることに気がついた。
こうやってお昼ご飯を振舞ってもらい、
木陰で休憩している俺は、
水を飲んでいったあのおばさんと
同じ立場なんじゃないだろうか・・・
本当に自然のものでできた村だな〜・・・
テリの村



















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