TRIP



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11月30日 水曜日 はれ       (その4)

しばらく日記を書いていると、
ソーリーが外で景色を眺めながら
お茶を飲まないかと誘ってくれた。
外に出るとガンガン直射日光に照らされるが、
木陰に入るとかなり涼しい。
山の中腹にあるグレネリを眺めながら
入れてもらったお茶を飲む。
なんて贅沢なひとときなのだろう。
このお茶にもすっかり慣れて、
お茶を飲むと元気が出てくる。
インドでもそうだった。
どこの国でもその国でポピュラーなお茶は、
やはり風土に合っているのだろう。













とってもリズミックだ♪
楽器を弾き始めたおじさん


































数人のドゴンの人に混じり、
ゆったりとイスに座りお茶を飲んでいると、
どこかから子供がギターのようなものを持ってきて、
先ほどみやげ物を売りに来たおっちゃんに手渡した。
するとおっちゃんはそのギターの紐を
肩に掛けて弾き始めた。
弦は2本しかなく、
なにかの動物の皮を張ったボディーに
棒ッ切れのネック、
粗雑なつくりのその楽器をおっちゃんが弾くと、
メロディーというよりは
リズムを出しているような弾き方だ。
♪ペペンペ・ンペペン・ピピンペ・ンペピン♪
う〜ん、実に面白い!
なんだかセッションしてみたくなったけど、
ここに太鼓は無い。
そうだ、日記帳を叩こう!
おっちゃんのギターに合わせて
適当にノートを叩いてリズムを出す。
♪トットッ・パパンパ・ンパンパ・トパット♪
「オォ、ジャポネー(日本人)が
 なんか叩き始めたぞ。」
そんなことを隣の人と話しながら
おじさんは弾きまくる。
こっちも少々エキサイトしてノートを叩くと、
そのうち横にいたおっちゃんが
立ち上がって踊り始めた。
またひとり、またひとり、踊りの中に入っていく。
次に子供たちが入り、
ちょっとしたパーティーのようになってきた。
これぞ待ち望んでいた風景だ!















辺りはちょっとした騒ぎになり、
その騒ぎを聞きつけた観光客が取り囲む。
あっ、モプティのバスで一緒だった
ムーミン谷のオシャマおばさんもいるぞ!
ギターのおっちゃんは弦を
ベンベンとはじくように弾き、
そのリズミックなフレーズにあわせて
踊っているおっちゃんは
自分の履いていた靴を脱いで
それを持って腕を揺さぶるようにして踊る。
その後ろに子供たちがついて踊りまわる。
踊りは一種独特だが、日本の民謡にも
少し似ているような気がする。
ダンスが盛り上がれば盛り上がるほど、
ギターのおっちゃんはエキサイトして
ベンベン弾きまくり、
俺はノートを叩きまくる。
いつの間にかたくさんの欧米人が
俺たちを取り囲んで
ステップを踏み始めた。
うひょ〜、こりゃ楽しいや!!!
アフリカの人って本当にこうやって踊るんだね〜、
すごいすごい!!!
















これぞ、待ち望んでいた風景だ!
ダンスの風景1

























パーティーが一息つくと木陰で再びお茶を飲む。
オシャマおばさんも俺のことを覚えていてくれて、
話しかけてくれた。
「楽しいわね!」
「本当ですね〜!アフリカの人は踊ったり
 演奏したりするのが好きなんですね。」
「今みたいな風景を見てみたかったの。」
「僕もです!」
話しながら折鶴を作ってプレゼントする。
「まぁ、きれいね!」
「日本の折り紙です。平和の象徴なんですよ。」
「ありがとう、大事にフランスに持って帰るから。」
そう言っておばさんは折鶴を
大事そうにカバンの中にしまった。
意外なパーティーであっという間に時間が経ち、
16:00近くになっていた。
まだまだ暑いけど、
そろそろ次の村に向かうことにした。
「じゃあ、お元気で!」
「良いご旅行を!」
「ありがとうございます。おばさんもね!」
そういっておばさんとは別れた。













♪すごい、すごい♪
ダンスの風景2















バックパックを背負って、
次の村“エンデ村”に向かう。
エンデ村までは3〜4Kmある。
「さっきのパーティーは楽しかったな〜!
 いつもあんな風に、踊ったり演奏したりするん?」
「いつもってわけでもないけどね!」
「さっきもそうだったけど、
 マリの人って男の人は気さくな人が多いけど、
 女の人はあまり話しかけてくれないような
 気がするんだけど・・・」
「そうだな〜、マリでは女の人は
 男の人を尊敬していて、
 でしゃばらないということが美徳とされている。
 そして女の人はシャイな人が多いんだ。」
「なんか日本と似てるな。
 日本でも女の人は男の人より、
 一歩下がっている方がいいとされとるよ。」













ソーリーの話によると、
マリの家族事情はおとうさんが何をおいても一番で、
おとうさんの命令は絶対にきかなくてはならない。
もし、死ねといわれたら死ななければならないくらいの
権力があるのだそうだ。
だから奥さんは一歩引いている。
そして子供は、両親の言うことは
絶対にきかなくてはならない。
おじいちゃんは、おとうさんのおとうさんだから、
おとうさんはおじいちゃんの命令を
絶対にきかなくてはならないが、
おじいちゃんと孫はとてもフレンドリーな関係で、
もしおじいちゃんの考えがよくなければ、
孫がおじいちゃんに忠告することができるのだそうだ。
そして、おとうさんの言うことに
納得がいかなかったとすれば、
おじいちゃんに相談すれば
おじいちゃんがおとうさんに
意見してくれることになる。
面白い考え方だと思う。














子供はかわいいね〜!
ドゴンの子供たち



















ウツクシイ・フウケイ























デゲデゲ歩いていると、
ソーリーの目の前に何かがヒラヒラと落ちてきた。
「なんだ枯葉か〜、バタフライかと思ったよ。」
「バタフライは日本語で
“チョウチョ”って言うんだ。」
「じゃあ、ビューティフル・バタフライは
 なんて言うんだ?」
「ウツクシイ・チョウチョだよ。
 ウツクシイの意味がビューティフルだから、
 ビューティフル・サンセット(美しい夕日)は、
 ウツクシイ・サンセットという風に使えるんだ。」
「ウツクシイは人間にも使えるのか?」
「もちろん、ウツクシイ・ヒトって使えるけど、
 人間の場合は容姿が美しいだけじゃなく、
 心も美しい人じゃなければ、
 “美しい人”とは言わないんだ。」
「そうなりたいな!」
「ソーリーは美しい人だと思うけど、
 毎日学び、毎日いろんな経験を積むことによって、
 もっともっと美しい人になるんだ。」
「お互い、そうなろうぜ!!!」
ウツクシイ・サンセットに照らされた、
どこまでも続く
ウツクシイ・バンディアガラの断崖を眺めながら
お互い誓いあった。














日が沈み始めると辺りが少しずつ暗くなる。
「ドゴンの村には電気は無いん?」
「いや、最近はソーラー・パワー・システムで、
 ほんの少しだけど電気が点く所もあるんだ。」
「へ〜、ソーラー・パワーでね〜・・・」
このドゴンでソーラー・パワーというのには
驚いたな〜・・・














こんなにも雄大な景色の中を歩きながら、
マリの人々のほのぼのとした生活に触れていると、
日本でのあくせくした、
ギスギスした生活がうそのように思えた。
帰ってからの生活が考えられない。
「俺、日本に帰りたくない!」
ついついそんな言葉が口を突いて出てしまった。
「そうか、マリが気に入ってくれたんだな。」
しばらく二人とも何も話さず歩いた。
日も暮れかかり、ほんのりと熱気を帯びた風が
頬を撫でる。
自然に囲まれて生きていく事が
こんなにも心地よいものだとは思わなかった。
文明の利器などに頼らなくても、
いや、頼らないからこそ、こんなにも素朴で
素敵な生活が出来るに違いない。
自分たちの伝統文化を大切に守りながら
生きているドゴンの人たち・・・
アフリカといえば、“貧しい国”
“遅れている国”というイメージがあるが、
こうしてアフリカの地を歩いていると、
それは外国から入り込もうとする文化や新しいものを、
この人たちが必要としなかった
だけなんじゃないだろうかと思えてくる。
そして俺たちの日本にも素晴らしい伝統文化がある。
俺たちはとかく、“アメリカが一番で日本は二番”
というようなイメージがあり、
音楽の世界でも本格的に勉強するには
ポピュラー音楽なら渡米、
クラッシック音楽ならヨーロッパに行くのが
当然のように思われているが、
自分自身の音楽を創るのに本当はそんな国に
行く必要なんてない。
行ったって“まねごと”になるだけだ。
日本で育った我々にしかない感性でしか
創れないものがあることに、
多くの人は気づいていないと思う。
「いや、やっぱり俺日本に帰るよ!
 そしてマリの精神を日本の人に伝えるんだ!!!」
ソーリーは立ち止まり
「ガジュベリ!」
ドゴンのありがとうを意味する言葉をお互いに言いあって
心から握手を交わした。














日が暮れてしまう前に、ようやくエンデ村に着いた。




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