TRIP
前へ | もくじ | 次へ |
11月30日 水曜日 はれ (その5) 今夜泊まる予定のカンプメントに入る。 昨日のカンプメントと同じように 泥の壁で仕切られているところを入っていくと、 数人の男の人が出迎えてくれた。 敷地内の真ん中に数台の机が並べてあり、 そのひとつにリュックを下ろして座らせてもらった。 ふ〜、よく歩いたぜ! 「なにか飲むか?」 「ビール飲みたいな!」 コップを二つもらって、ソーリーと乾杯。 あ〜、おいしい! よく冷えているわけではないが、それでもおいしい。 「一息ついたら、シャワー浴びるか?」 「そうだな、そうさせてもらうよ!」 昨日のように暗くなってからだと、 懐中電灯の薄明かりを頼りに 入らなくてはならなくなるので、 完全に日が沈んでしまわないうちに 浴びさせてもらおう。 「ここのシャワー室はバケツじゃなくて、 ちゃんとシャワーが浴びれるぞ。」 「ほんと?」 どんなシャワーだか楽しみだ! |
||
ムシロで仕切られたシャワー室に入り 上を見てみると大きなドラム缶が載せてあり、 その一番下側に蛇口が着いている。 それをひねると、 放射線状に水が落ちてくる仕組みになっている。 服を脱ぎ、早速蛇口をひねってみる。 おおっ、お湯だ! マリの昼はかなり暑いから、 昼の間に水を入れておけば、 太陽の熱で水がお湯になるってわけだ。 そういう意味では、これもソーラー・パワーと 言えるのかもしれない。 ドゴンの人の知恵にはほんとに驚かされる。 ガスも電気も無いこのドゴンの村で、 お湯のシャワーを浴びることができるなんて 思ってもみなかった。 |
||
お湯のシャワーを浴びて、 すっかり疲れも取れたが、 シャワー室を出るとすでに真っ暗になっていた。 懐中電灯を持ってきてなかったので、 真っ暗で何も見えない。 夜というものは暗いんだよ、 と教えてもらっているようだった。 手探り、足探りで机のところに向かうと、 机の上にはランプが灯されている。 なんとも温かくて優しい光だった。 その光の下で日記を書く。 ふと、空を見上げると、 信じられないくらいの星が出ている。 モプティもジェンネも素晴らしい星空だったが、 ドゴンの星空には勝てない。 車もまったくと言っていいほど走らないので、 空気も澄んでいるのだろう。 それにしても見事だ! |
||
この満天の星空の下で晩御飯を食べる。 今夜のメニューは ご飯にたまねぎソースを掛けたもので、 羊の肉とニャム(芋)が入っている。 羊の肉は煮込んではあるもののかなり硬いが、 それでもすごくおいしい。 御代わりをもらって腹いっぱい食べた。 ゲプー! きれいに平らげたお皿を見てソーリーが言った。 「マリでは、お米を残さず食べると、 神から最大級のパワーを授けてもらえるという 言い伝えがあるんだ。」 「えっ、ほんと? 日本ではお米一粒に 7人の神様が宿っているので、 一粒も残さないように食べなさいと 躾けられるんだよ!」 「カカシといい、お米のことといい、女性のことといい、 日本とマリはなんだか似てるな。」 「ほんまじゃね!」 |
||
食事が終わると、 木でできた長いすに仰向けに寝転んで 夜空を見上げながら話した。 「ドゴンの星はほんまにきれいじゃ!」 「それよりもトム、あの音が聞こえないか?」 「聞こえてるけど、何の音?」 「太鼓だよ、誰か太鼓を叩いてるんだ。」 音がバンディアガラの断崖に反射しているらしく ワンワン響いているけど、 よく聴いてみると確かに太鼓の音のようだ。 「行ってみようよ!」 「ちょっと待ってて!」 ソーリーはカンプメントの男の子に 連れて行ってもらえるか交渉している。 さすがのソーリーも、 この暗い中を案内するのは無理なようだ。 「OK、トム! 行こう!」 |
||
ランプの明かりの下でジャンベを叩く |
懐中電灯を持って、ホテルの少年について行く。 懐中電灯で照らされているところ以外は 本当に真っ暗だ! 数分歩くと、その暗闇の中で 小さなランプの明かりを囲んで 二人のアフリカ人男性と、 ひとりのフランス人らしき女性が ジャンベを叩いていた。 フランス人の女性はあまり叩いたことがない様子で、 アフリカ人に教えてもらいながら 叩いているようだ。 仲間に入れてもらい、 ジャンベを借りて演奏に加わった。 最初は叩く手順やリズムを真似しようと思ったが、 面倒くさくなって音を頼りに適当についていく。 え〜いっ、こうなったらソロもとってやれ〜! ♪バガスカ・バガスカ・ツルッ・タンタン・・・♪ どんなにアクセントを変えようが、 三泊フレーズ(偶数系のリズムに 奇数系のリズムを入れるフレーズ)を入れようが、 アフリカ人はまったく動じることはない。 よし、今度はソロを交代だ! アフリカンも、ここぞとばかりに叩きまくる。 おっとっと・・・ あんまりフレーズを聞き過ぎると つられてしまいそうだ。 アフリカではドゴンの村のように 未だ電気が来ていないところもたくさんある。 ということは、テレビやビデオを見たりすることは もちろんできない。 だからこうやって小さな火を囲んで 太鼓を叩いて夜を楽しむのかもしれない。 子供が多いのも電気が無いからかな〜? しかし、これだけ暗いと笑わない限り アフリカ人はどこにいるのか解らない。 |
|
ガンガンに叩きまくり一息つくと、 隣に座っていた小さな男の子が 「イェー!」って感じで、ハイタッチ (腕を上げてお互いの手を叩き合う) してくれた。 本場アフリカ人にも褒められた気がして うれしかった。 今度はひとりのアフリカ人が ギターを持ち出して、 もう一人のアフリカ人の出す ジャンベのリズムに合わせて 弾き歌いを始めた。 俺も今度はバガスカ叩くのではなく、 シンプルに小さめの音で加わる。 なんて楽しいんだろう。 今まで日本でしかめっ面して ドラムを叩いていた自分が 滑稽に見えてきた。 自分がその場で感じたことを難しく考えずに 単純に音にして表す、 そこに上手とか下手とかそんなことは 関係ないんだ。 そんな単純なことにどうして今まで 気がつかなかったのだろうか? いや、単純なことこそなかなか 気付けないのかもしれない。 |
セッションの様子1 |
|
セッションの様子2 |
そんなことを思いながら叩いていたのだが、 ふと時計を見ると2時間以上も叩いていた。 ソーリーも疲れているみたいだし、 そろそろカンプメントに帰ろう。 「ガジュベリ メルシー (ありがとう)」 アフリカ人とフランス人の女性にお礼を言うと、 「なかなかいいリズムだったぞ、俺たちも楽しかった。」 そう言ってくれた。 ジェンネでもそうだったが、 たぶん俺の叩いたリズムは、 アフリカのリズムとは全然違っていると思うが、 それはそれで彼らはいつも優しく受け入れてくれる。 そしてどういう状況でも 自分たちが楽しめる方法を 知っているのではないかと思う。 あ〜、楽しかった! 白熱しすぎて、汗かいてしまった! |
|
カンプメントに戻って寝る準備をする。 今夜は倉庫の屋上に寝るのだが、 荷物を持ってドゴン式の階段を上がるのは かなり難しい。 眠くなるまで蚊帳には入らず、 エンデの村に鳴り響く太鼓の音を聞きながら いつまでも満天の星空を眺めていた。 そして、今日このカンプメントに歩いてくるとき、 ソーリーと話したことを思い出していた。 「ソーリーはどうしてそんなに 優しく接してくれるの?」 いつも、荷物の心配や お腹が減っていないか気を使ってくれ、 暑いときには冷たいコーラを差し出してくれる。 それは、俺がソーリーをガイドとして雇っているから 優しくしてくれているだけなのか気になっていた。 「優しい? 俺がか? そういわれてもよく解らないな〜。 俺は普通に接しているだけなんだけど・・・」 その言葉を聞いて、『自分は優しい』とか、 『自分は○○だ!』とか思うことは普通じゃない。 普通なことは普段自分では意識していないはずだ。 ソーリーはほんとにいい奴だな〜! アフリカにもいい友達ができた、 そう思うととてもうれしくなった。 俺もこれからはもっともっと普通になればいいんだ、 そんなことを思っていた。 そろそろ歯を磨いて寝るとするかな。 今日も一日楽しかった! 太鼓の音はいつまでも村中に響き渡り、 その音を子守唄にいつの間にか眠っていた。 21:50 |
||
〈その日の日記の落書きより〉 |
前へ | もくじ | 次へ |