TRIP



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12月1日 木曜日 はれ       (その1)

も〜、またシッコに行きたくなった。
夕べビールを飲んだからかもしれないけど、
何回も何回もトイレに行きたくなる。
そのたんびに真っ暗な中、
あの階段を降りなくちゃならないのが
大変なんだよな〜・・・
でも、そのたんびに星空ショーが見れる。
えー感じなんよね〜、これが・・・ 
今朝はすごく風が強くって、
寝てる間に寝袋の上に砂がいっぱい積もっていた。














5時30分過ぎに、
またトイレに行きたくなって目が覚めた。
『あの階段、降りたくないな〜・・・』
そんなことを思いながら
寝袋の中でグズグズしていると、
人とも動物ともいえない叫び声が響き渡った。
グガヴグァーア゛
なっ、何じゃー今の声は!!!
あちらこちらから不思議な声が響いてくる。
飛び起きて耳を澄ませてよ〜く聞いてみると、
どうやらニワトリやヤギの鳴き声が
バンディアガラの断崖にこだまして
叫び声のように聞こえているようだった。
も〜、脅かさんといて〜な・・・














お陰で無事用も足し、
まだ外も夜が明けていないので
もう一度寝袋に包まった。
それにしても風がきつく、
ビュービュー吹きつけてきて
口の中に砂利が入ってジャリジャリしている。
「トム、起きてるか?」
「うん、おはよう!」
「おはよう、俺はタバコを吸いながら
 少し散歩してくるよ。」
「うん、気をつけて!」
ソーリーが出かけると俺も寝床から起き上がり、
周りの景色を見回した。
空が少しずつ白み始めて、
辺りの木々がシルエットのように浮かび上がる。
朝ご飯の用意なのか、
こんなにも早くからミレッツ
()
杵をついている人がいて、
そのリズムと先ほどのニワトリやヤギの声とが
重なり合って、
ひとつの音楽のように聞こえてくる。
ドゴンには水道は無いようで、
子供たちが早くから
プラスチック製のたらいや桶を持って、
井戸まで水を汲みに行き、
女の人は家事を始めている。
太陽が昇り始めると、
バンディアガラの断崖が照らし出されて
なんとも幻想的だ!
今日もいい天気になりそうだ。














しばらくすると、ソーリーが帰ってきた。
「ソーリーはいつも早起きだね!」
「マリでは、早起きをすると
 神から授かり物を受けるという言い伝えがあるんだ。」
「え〜、マジで?」
ソーリーの話を聞いて、
早速日本の“早起きは三文の徳”の話をしてあげた。
「日本人は『三文くらいの徳なら、寝てた方がいい』
 なんて人もいるけど、俺は少しの徳だからこそ
 いいんじゃないかと思うんよね〜!」
「そうだな、少しがたまって大きなものになる。」
“塵も積もれば山となる”
本当にマリと日本は考え方が似てると思う。














ようやく夜も明けたので、
ソーリーと一緒にカンプメントのオーナーに
挨拶をしに行くことにした。
カンプメントの敷地から少し離れたところに、
やはり土でできた小さな小屋があり、
そこがオーナーの部屋だった。
「ボンジュール!(おはようございます)」
挨拶をしながら、
あらかじめ作っておいた折鶴を手渡した。
「オォ、ボンジュール・ジャポネー!
 マリと日本は大変親密な関係なんだ。
 よく来てくれたな、まぁ入りなさい!」
ムシロをはぐるようにして中に入ると、
中はそんなに広くはなく、
3人の大人が入るとほぼいっぱいになってしまう。
オーナーはドゴンに伝わる骨董品の品々を見せてくれる。
ソーリーがオーナーに
トムはドラムプレイヤーだということを伝えると、
オーナーは青くて大きな石のようなものが
つなぎ合わされてできたネックレスを見せてくれた。
「これはドラムプレイヤーだけが身に付ける首飾りだ。」
そう言いながらそのネックレスを手渡してくれた。
「う〜ん、素敵ですね!」
ドゴンのドラムプレイヤーだけが持つという
首飾りに触っただけで、
俺も一人前のドラムプレイヤーになれた気がした。
「貴重なものをどうもありがとうございました。」
「うんうん、後で特別に古い太鼓を見せてあげよう。」
「ほんとですか?」
「ああ、後で持っていくから
 カンプメントでゆっくりしてなさい。」
「はい、ありがとうございます。」
こりゃ〜楽しみになってきたぞ〜!!!














カンプメントに戻ると、
シャワーを浴びさせてもらうことにした。
昨夜はお湯だったシャワーの水も
夜の間にすっかり冷めてしまっていたが、
朝に冷たい水のシャワーは
引き締まった気持ちになる。
そういえば、昨日は“大”をしていなかったけど、
先ほどいったときに
しっかり出しておいたのはいいが、
色が赤土のようになっていた。
汚い話だと思うかもしれないが、
こちらでは“アメーバ赤痢”という病気があり、
読んで字のごとく赤い下痢が続くのだそうだ。
しかし、下痢は数日前に改善されていたし、
体調もそんなには悪くないので大丈夫だろう。
ここのところ食事は
トマトソースのようなもので
味付けされているものが
多かったからだろうと納得したが、
昨日のあの男の子のウンチは
何故に黄色かったのか・・・













シャワーを浴びてスッキリした気持ちで朝食だ。
今日も昨日同様ミレッツを揚げたものだ。
これ、おいしいんだよね〜!
今朝も五つも食べてしまった。
耳を澄ますと遠くから太鼓の音が聞こえる。
太鼓の音を子守唄に眠り、太鼓の音で目覚める。
それはアフリカ人が太鼓好きと言うより、
太鼓を叩くこと自体
生活の一部になっているようだった。
そんなバックミュージックを聴きながら
コーヒーを飲んでいると、
カンプメントの男の人3人が
太鼓を持って俺のテーブルにやって来た。
「おはよう、ジャポネー!
 うちのオーナーがジャポネーに
 是非この太鼓を見せてやってくれ、
 と言っているんだが・・・」
「はぁはぁ、これが先ほど言ってた・・・」
「この太鼓はドゴンに古くから伝わる太鼓だ。」
そう言うとひとりの男が太鼓を打ち鳴らし始めた。
どうやらそれは“トーキングドラム”のようだ。













トーキングドラムは、
西アフリカの特にニジェールやマリで使われる太鼓で、
名前のごとく通信手段として使われる。
細い砂時計のような形をしており、
皮には数本の紐(ひも)が掛けられている。
脇に抱えてその紐を締め付けることによって
音程を変えることができるので、
その微妙な調整で言葉を
模倣することができるという。
♪トゥトゥ〜ン、コンコン、トゥトゥ〜ン、コン♪
抑揚のつけられたそのサウンドは実に興味深い。
♪トゥトゥ〜ン、コンコン、トゥトゥ〜ン、ドゥベ♪
変な音がしたと同時に、
皮が破けてスティックが食い込んでしまった。
「あ〜ぁ、破ったで〜!!!」
と言ってるかどうか解んないけど、
周りの人に冷やかされると、
叩いていた人は頭を抱えて笑っていた。
う〜ん、でももうちょっと聞きたかったな〜・・・




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