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訛ったリズムがなんともいえない・・・
太鼓の名手登場












12月1日 木曜日 はれ       (その2)

すると、すかさずもう一人の人が太鼓を叩き始めた。
今度の太鼓はタムタムの類のような太鼓だ。
タムタムといっても
ドラムセットに備え付けてあるような
タムタムではなく、
首に紐をかけ膝の上に抱え込んで
二本のスティックで演奏する。
スティックといっても、
その辺に落ちている棒切れのようなものだ。
♪ドゥンドゥク・ドゥダダ・ドゥンドゥク・ドゥン♪
三連符とも16分音符とも言えない、
なんとも訛(なま)ったリズムが妙に心地いい。
しかし、この人達はなんで
こんなリズムが叩けるんだろう?














西洋音楽(いわゆる学校で習った音楽)では、
三連符とも16分音符とも言えない曖昧な音でも、
どちらかに無理やりカテゴライズしてしまう。
言わばデジタル化してしまうようなもんだ。
そうすれば、確かにみんなと手軽にリズムを合わせて
演奏することができるかもしれないけど、
本来リズムというものは
周りと歩調をあわせるためのものだけでは
ないのではないだろうか?
日本には“四季”がある。
春が来て夏が来て秋が来て冬が来る、
そういうリズムがあるけど、
この日からが春でこの日からが夏だ!
というちゃんとした境があるわけではない。
なんとなく温かくなったら春が来たと思うし、
暑いな〜と思えば夏が来たと感じる。
今年は秋が短くて、冬が長いと感じる年もある。
でも、一年を通してみれば
四季というリズムがある。
そういった自然のリズムを忘れてしまって、
何でもかんでも周りと歩調を合わせるために
デジタル化しようとするから、
ややこしいことになるんじゃないだろうか?
人それぞれ自分独自の体内時計、
体内リズムというものがあるんだから、
まず自分のリズムを大切にして、
その上で歩調を合わせていけばいいんだと思う。














♪ドゥンドゥク・ドゥダダ・ドゥンドゥク・ドゥン♪
それにしてもいい感じだな〜・・・
どうやったら、あんな訛ったリズムが叩けるだろう?
小さい頃から西洋音楽を学んできた
日本人には無理なんだろうか?
俺もいつか西洋音楽ではない何かで演奏してみたい。
心地いいのはリズムだけじゃない。
マリの乾燥した気候のせいで、
太鼓も皮もよく乾燥しているようで
驚くほど透きとおった音で鳴る。
う〜ん、ほんといい音だ!!!














誰かに似てると思わない?(笑)
名手と共に・・・










「いい音するだろ!」
鼻の下にチョビヒゲをはやした、
とっつぁん坊やのような人が
自慢そうに話しかけてきた。
「ほんと、とても心地いい音だ!」
「なぁ、フレンド、この太鼓は
 ドゴンに伝わる太鼓なんだが、
 特別にグッドプライス(安く)にするから、
 買わないか?」
突然の申し出に驚いた。
ドゴンに伝わる大切な太鼓を売ってしまっても
大丈夫なのだろうか?
いったいいくらで売るつもりなのだろう?
「いくらで売ってくれるん?」
「25,000CFAでどうだ?」
25,000CFAということは、
日本円でだいたい5,000円くらいだ。
やっぱ、それくらいはするよね〜・・・
それでも安いとは思うけど、
いくら安くていい音だといっても、
ここで買ってしまうと持ち歩くのが大変だ。
「持ち歩くの大変だし、やめとくよ」
「そう言うなよフレンド、いい太鼓だぞ。
 グッドプライス!」
「安いとは思うけど、荷物が増えるといやなんだ。」
「そうか・・・」
「・・・」
「・・・」
なんとか断ったものの、
お金絡みのことを断ると、
なんとなくしらけた感じになっちゃうのが
いやなんだよな〜・・・














何度来ても興味深い・・・
オゴンの家の付近




















ソーリーがバンディアガラの断崖を
案内してくれるというので、
出かけることにした。
カンプの案内人と3人で崖をよじ登る。
グレネリや泥の家が建ち並ぶところまで
上がるのはほんとに大変だ。
昔のテレネ族の人は毎日この山を
上り下りしたのだろうか?
そう考えると、
その時代のテレネ族に生まれなくて
本当に良かったとつくづく思った。
息を切らせながらやっと中腹に着いた。
「お〜ぉ・・・」
はるか向こうまで大平原が拡がり、
地平線が見える。
太陽の日差しは暑いが、
ほんのり吹く風が心地いい。
眼下を見下ろすと、昨夜泊まったテリの村が見える。
ドゴンの村はどこも土の色で、
全て自然に返るもので作られている。
ここに住む人々は、
現代文明なんて受け入れなくても、
何一つ不自由することなく
生活しているんだろうな〜。














しばらく辺りを散歩して
再び崖を降りてくると、
先ほどカンプで太鼓を売ろうとした
とっつぁん坊やが待っていた。
「おぉ、フレンド!」
おぃおぃ、またフレンドかよ〜、
今度は何だ〜?!
「そこの家で、布を染めてるんだ。
 見て行きなよ!」
建物の中に入っていくと
たくさんの布が天日に干してあり、
その横で若い男の人が
布にフリーハンドで模様を描いている。
「野菜や果物からとった色で染めるんだ。」
一枚一枚手描きで描いていくので、
おなじような柄でも微妙に模様が異なる。
それがなんともいえない
いい感じに仕上がっている。
「なぁフレンド、ここの布はとてもいいものなんだ。
 お土産に買っていかないか?」
また〜、すぐそれなんだから〜!














アバウトなところがいい感じ!
染物をしている人



















しかし、確かにお土産にいいかもしれない。
干してある布の中から
気に入った柄のものを指差して値段交渉だ。
「さすがフレンド、目が高いな。
 これはとてもいい品物だ。
 6,000CFAはするぞ。」
も〜、上手いこと言って高く売ろうとしてるんだろ。
いつもの調子で、メチャ安い金額を言い、
お互いが歩み寄っていく。
結局3,500CFA(約700円)で
買うことができた。
3,500CFAは安いのか高いのか・・・?
ボラれてるのかどうかはよく解らないけど、
気に入った布が買えたんだから
それはそれで良しとしよう。














割礼の儀式か〜・・・
トグナ



























布を買ってあげたからか、
とっつぁん坊やは気を良くして、
村を案内してやると俺たちの先頭に立って
歩き始めた。
この辺りは布の染物が盛んなのか、
先ほど買ったような布が家の壁に
たくさん干してある。
その先の小さな小屋の前で
おっちゃんは立ち止まった。
男性と女性が彫刻された
たくさんの柱にワラのようなものを積み上げて作った
屋根の簡素な作りだ。
「ここはトグナといって、
 村の集会所のようなところだ。
 村でなにか問題が起きたら
 ここで話し合いをするんだ。」
「なるほど〜。」
中は結構広そうなので
たくさんの人が来ても大丈夫そうだし、
これだけ暑くてもトグナの中はかなり涼しい。
「日ごろはくつろぐのに使ったりするけど、
 いろんな儀式も行われるんだ。」
おっちゃんの説明によると、
このトグナでは今でも割礼の儀式などを
執り行なうのだそうだ。
テレビのドキュメントなどで見たときは
遠いどこかの国の話のように感じていたが、
こうしてその場所を目の当たりにすると、
そういったことが今でも行われていることに
戸惑いを感じた。














トグナの様子を見学していると、
近くのお土産やからおじさんがやって来て、
あるものを見せてくれた。
「これはドゴンの鍵
(錠前のようなもの)だ。
この金具が鍵穴に入るとこうなって・・・、
どうだ? ハイテクノロジーだろ!」
言葉で説明するのは難しいが、
三つの金具が上手く絡み合って
開け閉めが出来るようになっている。
ハイテクノロジーという言葉がピッタリだ。
村をぐるりと回って、
ようやくカンプに戻ってきた。














机を借りてしばらく日記を書いていると、
見たことのないおじさんが
カンプを訪ねてきた。
ソーリーやカンプの人達に挨拶をして
俺の前に立つとおじさんは俺に
「セオー?」といった気がしたので、
例のドゴンの挨拶だと思い、
カバンからメモ帳を出して
少し恥ずかしいけど大きな声で挨拶してみた。
「ウ・セオ?
(あなたは元気ですか?)
「セオ
(元気です)
「ウマナ・セオ?
(ご家族は元気ですか?)
「セオ」
おじさんは顔をほころばせてニコニコしながら、
俺のたどたどしい挨拶にセオ、セオと答えてくれる。
ようやく全部言い終えるとおじさんは
「すごいぞ〜!」
とばかりに握手して大喜びだ。
ドゴンの挨拶はなんともいい感じなのでありました。

カンプメントにあった彫り物




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