TRIP



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12月2日 きんようび  はれ       (その2)

積み込みを待っていると、
ガイドに連れられた欧米人カップルがやって来た。
どうやらこの車に相乗りするらしい。
「積み込みもまだかかりそうだし、
 先に歩いていこう。
 この辺りは岩でデコボコしているから
 人が乗って走ると大変なんだ。」
「OK!」
そう言って、5人で歩き始めた。
「どちらから来られたのですか?」
欧米人の男性に話しかけたのだが、女性が答えてくれた。
「ドイツからです。夫はほとんど英語ができないんです。
 あなたは?」
「日本です。どのくらい旅されているのですか?」
「1ヵ月です。」
ヨーロッパから来ている旅行客は、
だいたい一月くらいは滞在するようだ。うらやましい。
「それにしても、なかなか車が来ませんね。」
結構歩いたのだが、まだ車は来ない。
ボロボロのプジョー(フランス製の車)
だったけど故障しちゃったのかな?
そんなことを思っていると、
後ろからけたたましいエンジン音を轟かせて
砂埃を上げながらオンボロプジョーがやって来た。
こりゃ凄いや!
ドイツ人夫婦も両手の手の平を上に持ち上げる格好で、
やれやれといったジェスチャーをした。














5人乗りの車に、助手席にふたり、後部座席に3人、
運転手を入れて計6人の人間が乗り込む。
ガガガ・・・ガキーン、ギギグァー・・・
デコボコの地面に車の下を
擦りまくりながら進んでいくが、
運転手はまったく怯む(ひるむ)ことはない。
「ストロング!!」
そんな言葉がつい口を突いて出てしまった。
すると、ドイツ人の奥さんのツボをついたみたいで、
大笑いし始めた。
「ストロ〜ング!」
俺も車の底が擦る度にずーっと
笑いが止まらなかった。
この車も窓は壊れていて開けっ放しになっているけど、
窓から入ってくる風がとても気持ちいい。
それにしても、アフリカ人はのんきな奴が多い。
この運転手、擦れ違う車があると
必ず停まって何か会話をする。
俺ものんきな旅なんで
別にイライラすることもなくなったんだけど、
まあデゲデゲ行きましょうや〜。














そうやって何台目かの車と擦れ違うとき、
ソーリーがその車に乗り換えると言う。
その車、よく見てみると三日前に
バンディアガラのバス停から
ジギボンボのカンプメントまで
送ってくれた車だった。
今乗っている車は
俺たちが相乗りさせてもらっていたようだ。
「どうもありがとうございました。
 ここで乗り換えるみたいなんで、失礼します。
 お気をつけて・・・」
「ありがとう、あなたもね。」
「ストロング!」
そういってガッツポーズを見せると、
ドイツ人夫婦も笑いながら「ストロング!」と
ポーズを作って送り出してくれた。
車を乗り換えると早速出発だ!
「ドゴンの村とバンディアガラの
 バスターミナルを移動するときは
 いつもこのドライバーに連絡するんだけど、
 今朝は上手く連絡が取れなくて、
 先ほどの車に乗せてもらったんだ。」
いつもこのドライバーを使うというのもよく解る。
この車、先ほどの車と打って変わって、
カーオーディオから
ダンスミュージックを流しながら軽快に走る。
う〜ん、快適!














流れゆく外の景色をボーっと眺めながら、
よく考えてみれば、
バスに乗ってバマコまで帰ってしまえば
このツアーも終わり、
ソーリーともずっと一緒にいるのは
今日で最後ということになる。
約一週間、モプティに始まり、
ジェンネでは月曜市も見れたし、
路上でのセッション、泥のモスクも見れたし、
民家にも泊まらせてもらえた。
そしてここ、ドゴンの村での滞在、
ソーリーのお陰で素晴らしい旅行ができた。
そのことを何とかソーリーに伝えて
御礼が言いたいのだが、
『お陰で』という言葉を
英語でどう言えばいいのか解らない。
「Thank you very much!
 (サンキュー・ベリーマッチ)」じゃあ、
『どうもありがとう』って意味だから、
『お陰で』の意味合いは含まれないだろうし、
なんとなく味気ない。
そもそも、『お陰』ってどういう意味なんだろう・・・
英語を考えてるうちに、
日本語までよく解らなくなってしまった。














何とか別の言い方で代用しようと思い、
いろんな言葉をあてはめて考えてみた。
『ソーリーのお陰で楽しい旅行ができた!』
ということは、
『ソーリーがお世話をしてくれた結果、
 俺が幸せになった。』
と考えればどうだろう?
考え抜いた挙句、こんな風に言ってみた。

 Sory, my tour is 
 finish today. 
 My trip was very 
 exciting and wonderful!
 You made my happy.
 Thank you, very much!!!

直訳すれば
『ソーリー、今日で俺のツアーは終わりだ。
 俺の旅行はエキサイティングで、
 素晴らしいものだった。
 お前が俺の幸せを作ってくれたんだ。
 どうもありがとう』
という意味になる。
俺としては、
『You made my happy.
 (お前が俺の幸せを創ってくれたんだ)』
に『お陰で』という意味を含ませてみたつもりだが、
どうだろう?
俺は英語がちゃんと喋れるわけではないから、
文法などメチャクチャだと思うが、
ソーリーはうれしそうに笑いながら
「どういたしまして。
 俺も楽しかったよ、
 ありがとう、トム!!!」
と、何度もお辞儀をしてくれた。
文法なんてどうあれ、
気持ちさえ伝わればそれで充分だと思う。














しばらく走ると、
窓の外の景色が大自然から町の風景に変わってきた。
どうやら、バンディアガラの町に着いたようだ。
ドゴンの村に比べると、
やはり街だな〜と感じる。
今日は市が開かれるということで、
町は活気付いているようだった。
途中でバマコまでのバスチケットを買い、
ホテル(カンプメント?)か何かの庭先で、
バスの時間まで休憩させてもらうことになった。
「トム、コーラ飲むか?」
「いいね〜!」
相変わらずソーリーはとても気を使ってくれている。
庭先にある、小さな小屋のようなところの
イスに座ってコーラを飲む。
うわぁ、冷たくておいしい!!!














「なあトム、前から疑問に思ってることが
 あるんだけど、ひとつ聞いてもいいか?」
「なに?」
「俺はマリでアジアの人種を見つけて、
 その人が日本人だと知らなくて
 『おお、チャイニーズ(中国人)! 
 元気ですか?』
 と声を掛けてしまったとき、
 日本人はとても嫌な顔をする。
 なんで日本人は中国人に間違えられると
 嫌なんだ?」
「う〜ん・・・」
考え込んでしまった。
たぶん俺も中国人に間違えられると
嫌な気分になるような気がする。
いや、中国人に限らず
タイ人だろうが韓国人だろうが、
嫌な気分になるような気がする。
“差別”そんな言葉が頭をよぎった。
『いいや、俺は差別なんてしてない』
自分に言い聞かせて何とかその場を取り繕おうとしても
やはり差別的な何かを持っているとしか考えられなかった。
『日本はアジアで一番なんだから、
 他の国と一緒にしないでくれ!』
とか、
『発展途上の国に金銭的な支援をしているんだから、
 日本人は優遇されるべきだ。』
みたいな考えがどこかにあったような気がする。
ソーリーに言われるまで、気が付かなかった。
「ソーリー、それは日本人が他のアジア諸国の人に対して
 偏見を持っているからだと思う。」
素直にそう認めざるを得なかった。
う〜ん、確かにそうなのかもしれない・・・




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